19 イベント『シュート&ドッジ』 結果
「お疲れ〜」
射撃側の二人のそばに降りたって声をかけた。
ひょっとこ目立って便利。全く探す手間がない。
「お疲れ様です」
「ジャンさんスゴかったです〜。なんであんな体勢でバランスとれるんです〜?」
誰もひょっとこを外さないので、私もそのままだ。
「なんか出来てな。二人も連携見事だった」
「ありがとうございます〜。でも私は0点ですけどね〜」
「それは仕方ないだろう。私はいい作戦だったと思うぞ」
謙遜するクーゼさんにそう言うと、嬉しげに声をあげた。サカイくんの目が少し怖いな、なんか寒気がするような……?
「嫉妬か、サカイ。見苦しいぞ。クーゼはお前しか見てないんだから」
「先輩~っ!!」
そこへ鍋さんが颯爽と現れた。助かった。
ただ、私が助かったかわりに二人が羞恥に悶えた。クーゼさんはポカポカと鍋さんを叩くが、全く痛くなさそうである。
しかし鍋さんはクーゼさんの先輩なのか。アバターということもあるだろうが、いや関係ないか。うん、全然気づかなかった。鍋さんがこちらを見て唇――ひょっとこの顎――に人さし指を当てるので、軽く頷いておく。
「鍋さんもお疲れ様です。僕たち、結構いい成績ですよ」
サカイくんは一つ咳をして、何でもないように応える。が、まだ少し耳が赤い。くぅー、若いねー(棒)
《これより結果発表を行います》
《入賞者には景品リストが送られます。一週間以内に決定してください》
お、なんかメールが来た。ぴろんぴろん、と連続で音が鳴る。
回避率一位の通知だ。まあ、当たらなかったからな、順当か。
総合で三位。なかなかすごいと思う。だって私たち、全員生産職だぞ?合計とはいえ、三回戦だけでも参加者三千人位いたんだぞ?
「なんかいっぱい来たね」
「鍋さんは何位なんだ?」
お面で顔は見えないが、鍋さんは胸を反らした。
「ふふん、五位だ!」
「「おお〜」」
どうしよう、私の順位言い出せない雰囲気。
いや、順位公開されるし、後からバレるんだけど。
「私は特別賞をいただきました〜。景品リストは便利グッズが多いですね〜」
「「おお〜」」
特別賞なんて有るのか。でも無いとクーゼさんみたいな参加方法だった場合頑張り甲斐が無いよな。
一人ウンウン納得していると、派手な音楽と高く甘い声が響く。
《パンパカパーン!結果発表〜!今回の〜墜落率一位はっ!パースさんで〜す!》
墜落率。ランキング表記されてなかったけども……。
《三回戦の墜落率ナンバーワンにはっ!なんとっ!スキル【豊胸】が与えられまーす!》
《こんぐらっちゅれーしょん!!》
パース……。図書館であった少年だったような……?
強く生きろよ!
《これにてシュート&ドッジ三回戦を閉会します》
《また、一両日中にイベントムービーを公式ホームページにて公開します。予めご了承ください》
《また会いましょ〜!》
元気一杯の声に送られて、元いた場所に戻った。
勿論、ひょっとこも消えている。残念だ、あれ記念に欲しかった……。
さて、景品は何を貰おうか?
「折角なのだし、時間があれば皆で景品とかについて話さないか?」
鍋さんの提案はとても素敵に響いた。個人の景品はともかく、パーティーの景品は全員同じものが配布されるのだ。
他の二人も賛成したので、近くの個室がある居酒屋に入る。
「すみませーん、とりあえず生四つ!」
鍋さんが男前。
いや知ってた。だって完全に男装の麗人風だもん。
私はメニューをひらく。おお!
「スライムの皮焼きとクロトカゲの姿焼きお願いします」
私が注文すると、三人がギョッとした。失礼な。変なものがあったら挑戦するだろ?
新発売とか季節限定とかついつい買って失敗するのがいいと思うんだ。
……もう二度とゴーヤパンは食わねえけどな!
「パーティー報酬、どうしましょうか?一応記念メダルもついてますね。僕が保管しましょうか?……あ、四つに割れた」
サカイくんは私の注文を華麗に見なかったことにしたらしい。そしてパズルのようにバラけた、三位と刻まれた赤銅色のメダルを見せた。ご丁寧に大会名と箒と杖の絵も入っている。
別に特殊効果がある訳でもないが、全員で一欠片ずつ持つことにする。
「そうですね〜、ネタスキルっぽいのが散見されますけど〜。……【ひょっとこ】がありますよ〜」
「マジだ」
絶対に後から加えたに違いない。
【豊胸】もある。墜落率の賞品はこちらでも手に入れられるようだ。
アイテムの方は……、『足ツボマッサージ(アキツシマバンブー製)』『爆オチくん』『ブーツキーパー』『リンゴモドキカッター』などなど……。百均かっ!?
いや、【紅蓮双竜剣】とか【超☆必殺技】とかもありはするが。
「例によって例のごとく、説明は手に入れないと見られないみたいだね」
「全員に役立つもの、か。【器用】でいいんじゃないか?」
「それか、協力者がいる前提な感じの【念話】とかですね。個人の景品と被りませんし」
「なんかダイレクト過ぎて怪しくないか?」
私の姿焼きを食べながらのツッコミに全員黙ってしまった。
味は、うん、焦げてる。全体が。ビールで口をすすぐ。……口の中に貼りついた、おぇっ。
ゴホゴホっ、スライムの皮焼きはっと。
んー、煮凝りとゴムの間みたいな?断じてチューイングガムとは言えない。
タイヤより美味しいというコメントが一番ぴったりだと思う。……この居酒屋よく潰れないな。
「……ではジャンさん、何が良いと思いますか?」
「うん、あからさまに怪しい【???】か、意味重なりな『保持ホルダー』が私は欲しいな」
よくわからないものって惹かれないか?現実だと良心と懐が痛むので冒険できないが、ここは素寒貧でも大丈夫!!多分!!!
「「「……」」」
三人は黙り込んでしまった。祝いの席の筈なのだが、雰囲気は完全にお通夜だ。
「……ジャンさんて、そう言えばかなり博打好きでしたね」
別にそういう訳じゃないと思うのだが。ただ行き当たりばったりなだけだ。
「【???】ですか〜?これだけは『リストからランダム』と表示されてますね〜」
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
「全員個人で景品を選べることだし、こちらは冒険してもいいかもしれないな」
鍋さん、貴女も実はギャンブラーですね?目がワクワクしてますよ?
「という訳で、『算盤』にしましょうか」
「何でだね!?」
思わず突っ込んでしまったよ!『算盤』って絶対にサカイくんの願望だろう!?
今までの話の流れぶった切りすぎ、私の期待裏切りすぎ。
「ポチッとな」
あ、あ、ああ〜……!
……あ!
『猫耳』、が手元に現れましたね……?どうやら【???】にしたようだ。
「ふふ、サカイが、人の意見を〜、無視するなんて〜、ふ、そんな酷いこと、たまにしか~、しませんよ〜?」
クーゼさんに爆笑されているし、鍋さんも肩を震わせている。
「ジャンくん、君、実は高校生か?感情が顔に出すぎだよ」
はーはー、と息を整えイカの素揚げを咥える鍋さん、マジで男前です。そしてさり気なくオヤジです。
私も貰おう。美味しいよね、イカの足。
「高校生だと、ここで酒は飲めんぞ」
あ、美味い。スライムとは段違いだ。くにっとした独特の歯ざわりと、のみ下すと際限なく酒が欲しくなる丁度良い油気、塩気。
シー茸の串焼きも頼もう。超シンプルだが、私はあれ意外と好きなんだ。というかキノコは大抵好きだ。
「この『猫耳』、意外と高性能ですね。着けると聴覚鋭敏の効果があるそうです。もう一つ効果があるようですが、まだ見えませんね」
サカイくんがサラッと『猫耳』を装備している。……どうやら髪の毛の色と同化するようだ。
「ああ、【鑑定】の熟練度が足りないんだろうね。最近私も伏せられた情報によく会う。……いつもより音が聞き分けられる感じがするな」
鍋さんも着ける。……が。
兎耳と合わせて四つですよ?酔ってる?
「ジャンさんも〜着けましょうよ〜」
クーゼさんがくっついてきた。え、貴方も装備してるの?いや可愛いけど。
「さあ、さあ!」
「ねーこみみ!ねーこみみ!」
カオス!誰か、ちょ、店員さん!シー茸だけ置いてくな、行くな、見捨てないで!!
―――アッ!
備考
主人公も猫耳を着けさせられ、似合わないと爆笑されました。
主人公も酒に弱かったら良かったのですが。南無。