15 イベントの誘い
下品に感じる箇所があるかもしれません。予めご了承ください。
「サカイくん、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
相変わらず雑多な商品に囲まれてニコニコである。クーゼさんがいないが。
ちなみに私はスライムを売りに来たのだ。ちょっと財布の中身が心許なくてね!プレイヤーに解放されている露店通りで見つけられて良かったよ。
妖精の解体とかやりたくないから、必然的に利益率は下がる。
ドロップアイテムはほとんどギルドで納品クエスト達成に使ってしまったから、大して懐は暖かくないのだ。多少はインクに使えるかと思って取ってあるが。
何より、製材屋さんで買ったモチムニの木が高かった……。全くモチモチもムニムニもしてない木です……。
「今日は何をご入用ですか?」
「あー、売りたいんだ」
キランとサカイくんの目が光った気がする。
「料理なんだが」
ちょっと輝度が落ちましたよ、サカイくん。十ルクスぐらい。
「何を期待していたんだ?」
「貴方のスキルが付与された物ですよ。今掲示板で話題なんです」
そうなのか。まあどうでもいいや。
出回ってるのは【会心の一撃】ラビットだろうし、もともと完成したものには大して執着しないタチだ。
「今回はゼリーでな、中々美味かったぞ」
「ゼリー!?」
ゼリーさん、何かやらかしたのか?
「ゼラチンっぽいのもいるか?」
「ぜひっ」
瓶にギューギュープルプル犇めくスライムとゼラチンもどきを出す。
普通のゼリーは食べちゃったので無い。
「……変わったゼリーですね」
「可愛いだろう?いくらになるかな?」
サカイくんの顔が若干引きつっているがキニシナーイ。
「ちょっと待ってくださいね」
そう言って瓶を受け取り、鑑定を始めた。真剣である。
今度眼鏡でも贈ろうか。モノクルでも良いかもしれん。どこに売っているのかサッパリだけどな!
「……また、とんでもないもの持ってきましたね。この『青寒天寒天』はほぼゼラチンで問題は特に無……採取方法だけが謎ですね。そしてこの『蒼林檎スライム』」
勿体振るように間をとるサカイくん。
はよ!気になるじゃないか!
思わずやや前のめりになる。
「……なんとっ!五分間物理攻撃ダメージ〇・五パーセントカット!!」
「すげーな」
「すごいんです」
草っぽい料理とは雲泥の差。
何より作った私が価値を見られないっていうね。
「ゼラチンの方は、量も量ですし二千、いや三千Sで。ゼリーは五千くらいでしょうか。入手方法とレシピはそれぞれ三万で買い取りますが、如何しますか?」
「ありがとう、それで構わない。レシピも買い取ってもらいたい」
そんな難しいものではないし、すぐ発見されるだろう。そう考えれば売ってしまった方が得だ。
サカイくんの目がキランキランだ。
「ゼラチンはスライムを乾燥させるだけだ」
「乾燥!?」
多分解体も要ると思うぞ。捕獲して干してもイケる気はするな。
「ゼリーはゼリー液を水に落とすだけ」
「意外と簡単なんですね」
「凝った料理を私が作れるわけないじゃないか!」
これは胸を張って言えるぞ!一人暮らしだと手抜きだけが上達するからな!
「そんなことで胸を張らないでください」
ナイスなツッコミである。たまらない。
「ご存知だとは思いますが、今度イベントがあるようですよ。また組みませんか?」
「おー、いいぞ」
お知らせ見てないんだ。どんなイベントか知らないがとりあえず了承しておく。
「それでどんなイベントなんだ?」
「……お知らせくらいは見ましょうよ」
「あっはっはっは」
棒読みで笑うとサカイくんに溜息を吐かれてしまった。
しかしサカイくんは人が好いのでキチンと説明してくれる。
「魔法のシューティングゲームですね。各人が的側か射撃側かを選んでポイントを稼ぐんです。……最近ベスの街はプレイヤーが多いでしょう?射撃練習に来ているんですよ」
「射撃練習?」
妖精が的か?ウロチョロ動くしな。
「いえいえ、魔法図書館☆アドベンチャーですよ。射撃側は自前の魔法とか飛び道具ですから」
「魔法図書館☆アドベンチャー、って何だ?初めて聞くんだが」
「そこからですか……」
魔法図書館☆アドベンチャー
約十五分1,000S
箒か釜に乗って旧館に巣食う魔物を狙撃しよう!難易度に応じて魔物に点数が振られているよ!高得点者には景品あり☆
※パーティー参加もできます。得点は頭割になります。ご了承ください。
「こういうのが前からあったんです。的側のプレイヤー用に、期間限定で避ける側のアトラクションが増えたようですよ」
「ほうほう、行ってみるか。組むのはまた三人か?」
「今回はもう一人、料理人を誘ってます。あ、これ作った人ですよ」
そう言って取り出したのは
バ ニ ラ ア イ ス !
しかもなんかソース掛かってる!豪華!
「渡してほしいと預っていました。生活系魔法陣の存在を教えてくれた対価だそうです、どうぞ」
スプーンと一緒に渡されたので早速食べる。
「美味いな!流石本職」
口にすると僅かな酸味が。ヨーグルト?ああ、時間加速で上手くすればできるか。
美味美味。
「あと熟成肉の料理をいくつかお渡ししますね」
早速口に放りこむ。
ジュワッ
っと口の中を蹂躙する肉汁。
絡み合う柑橘系のソース的な何か。
こちらも私が作る物と比べるのは申し訳ないほど美味い。
適当なレポートとは言わんでくれ、これが私の語彙の限界だ!
食べ物の代金は払う気マンマンだったのだが、結局払わずに終わった。
これからもレシピをそこそこ公開してくれれば、料理人さんの意向で新作の一回はタダにしてくれるそうです。ラッキー。
美味しいから買うんですけどね!
それにしても図書館入口付近の発着場は、アトラクションだったのか。
そして財布がまた少し軽くなるんだろうなぁ……。
箒買えんかな?でもイベント以外で使わなさそうだと考えると、物凄く勿体無いと感じてしまう。
えーと、入口、入口っと。
まあ、迷うこともない。
だってプレイヤーがめっちゃ並んでいるから!
……多くね?
「なあなあ、住人もここで遊ぶのか?」
大分失礼な感じで話しかけられた。大方、NPCはやるな、とでも言いたいのだろう。それは少々どうかと思うが。
振向くと赤毛のツンツン少年がいた。犬の獣人だろうか、頭に三角形の耳が付いている。
青い髪の少女が必死に少年の服の裾を引っ張っているところを見ると、多分彼女は恥ずかしいんだろう。
仕方がない、と言うより埒が明かなそうなので応じる。
「なんだ?そして私はNPCではないが」
「「えっ!?」」
そんな驚くことか?まあ、見た目はかなり普通だから仕方ないと言えばそうだが。
「ご、ごめんなさい、NPCなどと間違えて」
「悪かった」
すぐに謝る子供達。大分素直な少年少女だ。
しょぼんとした雰囲気で、バツの悪そうな顔である。
「気にするな、住人も間違えるから」
言っててちょっと悲しい。美形が多いから、紛れこめない。
「そうか!」
少年、そんな嬉しそうな顔をするな!私が傷つくから!
「えっと、私はツナです。こっちはパース。お兄さんもイベントの練習ですか?」
ツナちゃん、でいいのか?が、話題を逸らそうと健気に頑張っているので、乗ってあげる。
「私はジャンという。まあ、練習だな。も、と言うことは二人もだろう?射撃側なのか?」
「私はそうですね。魔法使いなので」
「オレは大剣だから的だ!DEX低くてオートモードしか出来ないけどな!」
それでもかなり楽しいとのこと。
詳しく話を聞いていると、釜と箒を選ぶ以外にも、オートモードとマニュアルモードがあるらしく好きな方を選べるとか。マニュアルモードを使いこなせるプレイヤーはリアルスキルが優れている人が多いそうだ。
私には無理だろうか。
運動神経は人並みなんだが。
「オートモードって、何が自動になるんだ?」
方向変換まで自動だとつまらないよな?な?
「マニュアルは浮くところから方向転換、速度調整も自力で、本人のリアルスキルとステータスに依存するんだ。オートは乗ったらゴールまで方向は多少変えられるけど、速度が変えられないんだ。でも向かってくる敵や障害物ブッ壊せるから気持ちイイぜ!」
「邪魔なもの壊していいのか」
「的側のことばかり聞いているということは、ジャンさんも的なんですね。意外です」
「そうか?私は魔法が一切使えんのでな、必然的に的だ」
「弓とか似合いそうだけどな!」
二人してうんうん頷いている。弓かー、それも楽しそうだよなー。木工に飽きたら手を出そうかね。
……やらなそう。
今日は二人だが、まだパーティーメンバーがいるそうだ。そんなことを話していると、順番が回ってきた。
「じゃあな」
「またな!」
「お互い頑張りましょう」
中学生の時、体育の成績は4だった。
高校生の時、体育の成績は3だった。
とりあえず一番難しい、マニュアルモードの箒を選択。なんか自分ならできるっていう謎の自信が私を支配しているのだ。
跨って浮いてみる。うん、簡単だった。いつも通り念じるだけ。
しかし、なんか心許ない。不安定ならいっそ立ってしまおうか。
「よっと」
うん、意外と行ける。
なんだろう、スノーボード?スケートボード?
細いけど。そんな感じ。
小さい時にやっといてよかった!鈍ってるけどなんとなくできている!気がする!
《練習走行区間終了です。アトラクションゾーンに入ります》
《必要な方は武器を構えてください》
ノロノロ運行から、少し体を前に倒してスピードを上げる。
密度はそんなに多くない。最初だからか?
こう思うように避けられると、ちょっとばかり冒険心がもたげてくる。
宙返りとか、格好いいよな!
「ぅをう!……っぶねー」
遠心力足りなくてまっ逆さま、慌てて空を蹴り、手を伸ばして箒の柄を掴む。
……私空蹴れるじゃん。慌て損。
しかも、箒は私が離れた時の速度を維持する。ということは、ジャンプは出来る!
やってみよう!
「ギャッ!……〜〜!」
股間直撃。
※しばらくお待ちください。
あれだ、うん。箒の上で跳ぶときは、常に【空駆け】を意識しようそうしよう。
もう二度とあんな痛みを味わいたくない……。というかこんな痛みまで再現しなくていいのに……。
しばらく身悶えていたせいで被弾数は大分悲惨なことになっているが、まあ気にしない方向で。
練習だもん、気にしないもん!うぇ、キモイ(自爆)。
「ふう、あとは武器の振り方を確認するか」
いつもの脇差を構えて、襲ってくる的を避ける。ぶつかりそうなのだけすれ違いざまに切っていく。
「えっ!?」
なんか固いのがいたっ!反動でぐらりと傾ぎ、私が落ちる。
あっ箒!置いていかないで!
「箒!ストップ!こっち来い!」
……戻ってきた。
……マジで?
備考
値段つけんのムズイ。スライムゼリーはスライムの性質を反映しています。他のモンスター料理もモノによってはステータス上昇効果があります。
主人公は【バランス感覚】【魔力制御】【手抜き】のアシストを受けています。DEX,AGIもそこそこ影響します。
【体幹】や【箒】、【騎乗】を持っている方もなかなか有利。