12 〆切前の
み、短くて申し訳ない
魔法の街、ベス。
魔法神、叡智神を祀る街で一種の学園都市である。この街の周囲に出没する魔物は魔法攻撃しか効かない、あるいは物理攻撃ではあまり効果がないことから、魔法が発展したと言われている。
そんな街で、私は現在魔法ギルド・ベスの街支部に来ている。
【魔法陣】をきちんと習いに来たわけだ。
私は当初、講義なり講座なり、魔法学園に入学なりすると思ったのだが。
なぜかひたすら魔法陣を書いている。
遡ること二時間前。
「すまない、魔法ギルドに登録したいのだが」
ほとんど人もいないにもかかわらず、どことなくざわついたホールの受付に申し出た。
珍しく男性である。しかも目の下に隈がある。
「ご登録ありがとうございます。……!!!」
どうしたんだ?目を見開いているが。行儀が悪いとは思ったが、身を乗り出して覗きこむと私のステータスが表示されているようだ。何の変哲もないと思うのだが。
「お、お客様、可能であれば限りなく受けていただきたい依頼があるのですが」
そう言われて痩身の男性に案内され、小型の応接室に通された。
「実は今、我がギルドの魔法陣部署は未曽有の人手不足なのです。数日前から風邪が流行っておりまして、勿論ほかの部署も大変なのですが」
そこで男性は自ら用意した茶に数個アメーを落として、口に含んだ。
私はそのまま飲んだ。……クッソ甘い。
「魔法陣部署は資料編纂や研究だけでなく、一般市民向けの商品も生産しています。それが結構な収入源でして、人手不足は大変手痛い事なのです。【魔法陣】スキルをお持ちのお客様を見込んでお願いします、ぜひ、手伝って頂けないでしょうか」
めっちゃ目力がヤバイ。
最後に疑問符が付かないって、ほぼ強制では?
「報酬と一時雇用条件は?」
私はできるだけ表情を真剣に見えるよう維持しながら、アメーを二つ入れてスプーンを回した。
じゃない問いかけた。
「受けてくださるんですか!えーと、報酬は時給900S、風邪の流行が収まるまで、禁書である魔導書一部の閲覧権です」
まだ甘い……。
もう一つアメーを入れてカップを傾ける。
うむ、渋い。諦めよう。
「受けましょう」
条件は多分相場。しかし、だ!
禁書とかオラわくわくすっぞ!
……言ってみただけです。ワクワクしているのは本当だが。
「本当ですか!助かります!」
めっちゃニコニコしてる。
裏表のない笑顔は良い。大人の世界は愛想笑顔が常だからな。
「早速お願いしますね!」
え?今からなのか?
放り出されたのは魔法陣製作部署の一室、もとい作業室である。
……こう、漫画家の修羅場みたいな。〆切前のイメージがそのままなんだが。
乾いてない魔法陣が吊るされている感じが特に。勿論みんな血走った目で原稿を描いている。
とりあえず、上座で作業しているおじさんに挨拶に行く。
普段ならビシッと決めていそうな恰幅のいい人なのだが、疲れのせいか髪は所々跳ねているし、眼鏡は傾いているし、隈も酷い。
「私はジャンと言う。依頼を受けて、手伝いに来た者だ。何をすれ……」
「本当かっ!よく来てくれたね!」
目をカッと見開いて、ガシッと肩を掴まれる。とても怖い。
ものすごい食いつきよう。とても怖い。
大事なことなので二度言った。
そうして気づくと私の両手には、ドサドサッと大量の紙を積み上げられていた。
魔法紙のようだ。
「では、冷蔵の魔法陣と乾燥の魔法陣、時間加速の魔法陣、よろしく頼むぞ!席は空いてるところならどこを使っても構わないから」
「ええ……」
それでいいのか……?
で、現在に至るわけです。
脳内データベース【DKS】(笑)を参考にしつつ、魔法陣を描いていく。
この間インクや紙に自分の魔力を触れさせないよう、気合いをいれて魔力を制御する。
……パチプチの木より難易度高いんだが?
あと一画という所で消えていくときの虚しさがヤバイ。爆発とどっちがマシだろうか……。
地味にペンも描きづらいし。カリグラフィー用のペン先が平たいヤツだ。
こんなお洒落なもの、現実では使ったことすらないんだが。
くだらない事を考えながら、トレース台っぽい何かにお手本と無地の魔法紙を載せ、なぞっていく。
描き順(なぞり順?)があるんだぜ、信じられるか?間違えるとやっぱり消えるんだぜ?
【読書】なかったら正直詰んでた。
わからなかったらわからなかったで教われるんだろうけどさ。
速度あげて線が掠れるとやっぱり消える、一筆で描かないといけないところを二度書き継ぎ足しもそこで陣が光になる……。
気難しすぎるぞ!
しかもあと数枚で終わるな、と思った瞬間追加の魔法紙が渡される。終わりなき悪夢だ。
いい加減、円や直線が定規コンパス無しでも描けそうである。
《一時間以上連続で書き続けたことにより、スキル【書画】を得ました》
お?自覚した瞬間スキルが。
予想とは違ったが。
しかし【製図】とか【設計】の方が欲しいかなあ。あるのかわからないが。
多少なぞる速度があがったところで、仮眠室を占領した私はログアウトする。
起きたらまた延々と紙とペンと格闘だな……。
結局私は三日ほど、つまり約九時間、延々と魔法陣を描くはめになった。
しかしきちんと成果もあって、大雑把にどれ位の効果が出るか目安がつけられるようになったのだ!
私はもう肉を腐らせて劇物にしたりなどしない!快挙だ!
あと、魔法紙を再利用するために、失敗した(つまり売り物にならない)魔法陣を不発にする魔力操作もできるようになった。
とても地味ですが、凄く有能です。
魔法陣部署の職員さんたちとは戦友のような、ハードボイルドな関係になれた。
そのお陰でペンを数種類、記念に、と贈られたし、少ない休憩時間に魔法陣の基礎も教わった。
講義を受ける時間が消えて嬉しい。
流石にこの歳で新しいことを習うのはできるだけ避けたい……。
ペンの持ち手がなかなか味のある木材で、私はテンション高いです。
隈の薄くなった部長さんが正規職員にならないか勧誘してきたけど華麗にスルー。
打上げの飲み会に誘われたけれどやはりスルー。
失礼だとは承知しているが、もう生き生きしたゾンビみたいなのに囲まれていたくはないからな。
……私も外から見るとそうなっていたりするのだろうか。
いや、私はアルバイトだし、そんなことはないはず……。睡眠だってキチンととっているし(震え声)。
やめよう、非生産的な考えは!
さて、図書館で本を確認して、草原にでも出ようかね。
名前:ジャン・スミス Lv.18
種族:人間 性別:男性
HP:139
MP:151
STR:18
VIT:9
INT:14
MID:45
AGI:69
DEX:89
LUC:56
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
【無謀】【マゾ】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(微)】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】【解体】【伐採】【書画】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】【木登り】【地図】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
ギルド登録条件それぞれに該当するスキルを最低1つ持っていること。よって主人公は商業ギルドには登録できません。