100 星龍パワー、ゲットだぜ!
祝☆100話!!
なんか今回は長い……。
地平線に沿ってかすかに差しこむ陽の光が世界の縁にみえる、万年氷と満天の星の世界。
くっそ寒い。吐いたとたんに息が凍るし肺も凍りそうだ。
前を行く犬ぞりがようやく速度を落とし、止まった。続々とサメクのおっちゃんたちが降りるのに習って私たちもスノーモービルから下車する。
「ここだ」
「何もないが?」
「まあ、見ていろ」
何の変哲もない雪と氷の中で立ち止まるものだから、つい尋ねてしまった。
寒さのために顔のほとんどを覆った彼らは得意気に笑って、不思議な唄を歌う。すると地面から青みがかった氷が2メートルほどせりだした。
それを懐からとりだした道具で抉り、慣れたように加工していく。
実際慣れているのだろう、それが形をとるまでにさほど時間はかからなかった。
「釣り針?」
「竜神さまの使う釣り針だ。極北の氷で作るのが決まりなのだ。竜神さまの力は強大すぎて、細かいものが作れぬらしい。旅人たちも作るか?」
「誘ってみよう。私も作ってみたい」
レイドチャット――レイドに所属している人に対して公開されるチャットルーム――に苦労して釣り針の作成について書きこむ。これは普通に声をかけた方が早かったのでは……?
まあいいや。何人か器用に自信のある人が寄ってきて、指示をもらいながら釣り針を作りはじめる。
「なかなか難しいな」
氷は冷たく固く、しかも溶かしてはならないらしい。その上、指はかじかんでいる。
苦労して削り出した氷の釣り針はごつごつとしていて、削り痕が痛々しい。
他のザ・生産職の人たちは流石で、私の出来とは雲泥の差。溶けることのない氷は滑らかな曲線を描いている。
ちょっと……、というか、かなり悔しい。私にもっと器用さがあれば……!
「よし、準備ができた。旅人たちは下がっておれ。そして気を強く持ち、静かにしていよ」
私たちが釣り針づくりに夢中になっている間に、おっちゃんたちが氷の大地に魔法陣を刻み、円陣を組んでいた。
厳かな面持ちに、自然と立ち上がって背筋が伸びる。他の人たちも同じらしく、魔法陣からやや離れて休めの姿勢でおっちゃんたちを見守るようだ。
『永久の氷より創りし釣り針、星の酒。盟約に従い、天蓋を司る夜の竜神に捧げん』
「うおっ」
小隊の隊長さんが、意味の分からない音でありながら不思議と意味の分かる祝詞を紡いだ。
その瞬間、濃密で強大な気配が唐突に出現する。
現れた余波だけでこの暴風。思わず声が出てしまった。
『なんだこれ……!』
『ッッ! 話せへん!?』
『気絶してる! ヒーラー!』
『MID低いのがのきなみ状態異常だね……』
『……ダメ。今は回復できないみたい』
チャットルームが大混乱だ。私の驚きの声も出てなかったのかもしれない。
風が収まったところでおそるおそる瞼をもちあげると、夜の闇を凝らせたような、真っ黒な龍がとぐろを巻いて鎮座していた。デカい。
某ネズミの国の城くらいありそう。見上げても顔が見えない。
『うむうむ。確かに星酒を受け取った。やはり星釣には星酒を飲みながらでなければ味気なくてな。約束の鱗だ。好きに使うがいい』
「頂戴いたします」
ぽけーっと呆然としていると、いつの間にかおっちゃんズの目的は達成されたようだ。
大事そうに――実際大事なのだろうが――ゆっくりと落ちてきた黒い鱗を押しいただいている。
竜の声は上から降って頭に響く。しかも身じろぎとともに地面も揺れる。
今日だけで謎体験がてんこ盛りすぎるぞ。
『……む? 今年は初めて訪れる気配が多いな。手練れの村の人間が死んだのか?』
「畏れ多くも、竜神さまに面会を希望した星渡りの旅人たちでございます」
『おお、我の元に辿りつくとは。予定よりずいぶん早いな。主神は数十年かかるだろう、あるいは我らに会う前に旅人の故郷に戻るだろう、と言っていたが、まだ十数年くらいのはず……』
このゲームサービスの開始から今まで約二年半。現実の五時間がゲーム世界の一日だったはずなので……、ゲーム時間で十二年くらいか。そう考えるとけっこう経ってるな。
神の想定が数十年、ということはここに辿りつくのに六年強かかる見込みだった感じか?
『……我が名はトゥザッティ。十八を司る夜の神なり。そなたらの目的はなんだ?』
「鱗だ」
トゥザッティは一度頭を振ると、気を取り直してだいぶフレンドリーに私たちの用件を尋ねた。
それに呻くように応じたのがグレンさんだ。チャットから判断するなら、精神が低いのかもしれない。矢面に立つリーダーは大変だな。
『ふむ。では対価をだせ。サメクの子孫には酒と針を納めさせているのだ、お前たちにもタダで鱗をやるわけにはいかぬ』
「対価とは?」
『星酒と釣り針、または星のような何かを貢ぐこと。あるいは我と戦い生き残ること。我が採点し、それに応じた質の鱗をやろう』
トゥザッティは割と事務的な構え。そして生産職用と戦闘職用であきらかに試練の難易度が違う。
酷い差別を見た。
「なるほど、戦闘職と生産職で試練が違うのか、そうこなくっちゃな。……よし、寝てるやつ起こせー」
「竜神からみて右に生産職、左に戦闘職の試練希望者で別れましょうか」
ようやく龍の気配に少し慣れたのか、行動阻害的なさむしんぐが緩和されたのか、めいめいに動き出す。
グレンさんとサカイ君の指示に従って、気絶していたものを起こし、希望する試練の方へ移動していく。そして、戦闘職だけ、生産職だけでレイドなりパーティーなりを組みなおしていく。
さて、私はどっちにしようかな。……まあ最初から決まっているが。
「にいちゃん生産職だろ!? まさかこの距離で方向音痴とか」
パース少年よ……、それは偏見だぞ。私はあんまり迷子にならない。
「違う違う。私は別にクランに入る気も作る気もないから、間近でドラゴンの戦いが見たいだけだ。超楽しそう」
じゃなくて、生産職用の試練はさっき釣り針を作った感じクリアできなさそうなんだよな。ディオディオがいればともかく。
どうせクリアできないなら、戦うドラゴンやトッププレイヤーを見る方が楽しそうだ。アイテムをいくらか失っても、記憶や写真はなくならないのだし。
「ハッハッハ! ジャン、そう言って戦うんだろ? 実は戦うの好きなんじゃないか?」
「あらジャンさんはこっちなの? 貴方はともかく、パッセルちゃんには期待しているわ」
「まあ、私はカメラマン枠でよろしく」
豪快に笑うグレンさんと、端からパッセルにしか期待していないカローナさん。
グレンさんはともかく、カローナさん酷い……。そりゃあここに来る道中で私は戦っていないけども。泣くぞ。
がんばって良いSS撮って見返そう。
『揃ったようだな。では空間を変質させる。安心せよ、死したあとはきちんと冥界に送るゆえ』
トゥザッティは私たちの動きが止まったのを確認すると、莫大な魔素がぐんにゃりと空気を歪めていく。ものすごい力技だ。
視界が戻っても、氷と星の景色は何一つとして変わらない。おっちゃんたちと私以外の生産職が消えたくらいで。
「って、パッセル!? 嘘だろ!!? まさかの裏切り!!!」
転移(?)前後の変化を探していたら、頭上に陣取っていたパッセルが飛び立ち、トゥザッティの頭の方へ行って座りこんだ。
『雷獣、そなたが人間に懐いているとは珍しいな』
「ぴ」
『ふむ、世話のかかる友なのか。旅人ゆえ死なぬが我には勝てぬと』
「ぴぴ」
『かか。たしかに、龍に喧嘩を売るとは愚かであるよな』
まさかのお前たち知り合いかよ。
パッセルまで戦闘に参加しないよな? 龍側で攻撃したりしないよな?
ちょっと周りの目が痛いんだが。帰ってきてパッセル!!!
『待たせた、始めようか』
パッセルと談笑していたトゥザッティは、そう言うと首を反らせる。明らかにブレスの予備動作!
……よし、写真を撮りはじめよう。前からと横から、両方撮りたい。二、三発ブレスしてくれないかな。
「いけない!『****』!!」
「『***』!」
『GAAAAAAAAA!』
ベストポジションを探して空を駆けはじめる私とは裏腹に、後方の支援職の人たちが必死にバフをかけている。
しかしそれは竜の青紫のブレスによって、一瞬にして剥がれた。既に前衛には死者が出ている。
バフとデバフの合間に蘇生薬が投下されているが、トゥザッティはすでに星を呼び始めていた。
「ぬおおおおおおおおお! バフ寄こせ!」
「はい!『――****、***』!」
降り注ぐ流星を掻い潜り、グレンさんが大ざっぱに組んだ陣形から突出して吠える。カッコイイ。
《条件を満たしたため、【戦場カメラマン】の称号を得ました》
立ち向かうグレンさんを連写してたらアナウンス。ちょっとお前空気読もうぜ。
それはともかくとして、アメリアちゃんのリコーダーから淡い緑の魔法陣が織られ、グレンさんを包む。しかし、バフを受けてスピードを上げてなお、被弾を免れはしなかった。
「くっ、この! 『――*****、***』!」
『ふふふ。弱き者たちの挑戦は快いな。痛くもかゆくもないが』
「『***、*****』『****』」
右翼から魔法がどんどん飛び出すが、不思議と仲間には当たらない。
詠唱が長いものと短いものを織り交ぜて、全体で途切れないように――トゥザッティを集中させない嫌がらせ攻撃に徹している。
もしかしたら必殺技の魔法なのかもしれないが、私には判別できん。着弾しては散る魔法のエフェクトが綺麗なので撮っておく。
『遅い!』
魔法とは反対の左翼から突撃してきた主力を、トゥザッティは固い鱗に覆われた長い尾で一蹴した。面白いように吹き飛ばされていく。
上から見るとほんとうに圧巻だ。
『柔い!』
次に後方を守る盾たちをビームで薙ぎ払った。一瞬で支援職もろとも死滅――いや、レアちゃんを抱えたボロボロの八ツ橋くんが飛び出した。
お姫様抱っこじゃん。生で見たの初めてなんだが。
「『――*********、****』!」
レアちゃんが呪文を唱え、私が前に作った錫杖で地を叩く。すると魔素の波紋が広がり、光でできた柩が地面から生えてきて、死んだはずの仲間たちが再び現れる。
全員復活とか反則じゃないか???
『ほう? 我の空間を越えて魂を引き寄せるとは。……その杖か』
そう思ったのはトゥザッティも同じらしい。って、え? 杖なのか? 杖が変なのか?
「よそ見してんじゃねえええ、巨大蛇が!!! ……龍の生き血が気にならないか? 『我が血に応えよ、吸血夫人』!」
トゥザッティが杖の破壊に意識を向けたところで、グレンさんが挑発した。続いた物騒な呼びかけに、真っ白な鎧と白銀の大剣は、鮮血でできているといわんばかりの真紅に染まる。
さすがにヘビ呼ばわりは受け入れられなかったのだろう、トゥザッティの体躯に見合った腕と爪がグレンさんに迫る。
それを躱して腕の上を走り、その鱗を割り下の肉を裂きながら駆け上がる。ヤバいこれアニメでしか見たことないヤツだ。
『小癪な』
「『葬送武闘・弐式・黒縄』!」
「『――*****、****』」
「『――*****、****』」
「はあああ! 『劫火白炎の大剣』!!!」
「離れて! 『――*****、****』!!」
トゥザッティは顔に迫るグレンさんを燃やそうとブレスを放とうとした。その横面を他の面々が殴っていく。
……上から見ているとよくわかるんだが、傷がついてもすぐに治っているんだよな。残念なことに。残りHPも見えないし。なんてムリゲー。
『くどい!!!』
「「「ブレ……!?」」」
流石にうっとうしいと思ったのか、予備動作なしでブレスした。私以外蒸発したんですけど。
ひでえ。
『しまった。手加減を忘れた……。ブレスの前は人間の期待に添って溜めておけと言われていたのだった……』
うなだれるトゥザッティ。
聞きたくなかったそんな裏事情。
『さて、お主はどうする? 残り一人で何ができるとも思えぬが』
「そうだな……、せっかくだし挑戦する。記念に死んでいこう」
『死ぬのが前提とは、変わった人間だな……。まあ、いい』
細々とした傷を完全に治し、トゥザッティは万全の構え。
お前には油断するというテンプレを踏む心遣いをするべきだ。私はそう思う。
『雷獣に気に入られたその力、見せてみよ!』
「うおおおおおおおおおおおお!?」
『思ったよりもよく動く』
ぎゃあああああああああああ!! 流星群やめろおおおおおお!?
ときおり竜パンチも降ってくる。モグラたたきのモグラ側の気分だわ!!
トゥザッティから見れば超イージーモード!! なんかめっちゃ笑われてる気がする!!
「うぐっ!」
攻撃が掠っただけでごろごろと転がって悶絶する。たかが一発ちょびっと当たっただけでHPほぼゼロじゃん……。知ってた。
『さて、終わりかの。仲間たちが先に待っておろう』
「ちくしょう、『混沌』!!」
遠くてあまり詳細には見えないが、トゥザッティがドヤ顔をした気がした。ムカッとした。
だからだろうか、よく使うスキルを反射的に発動してしまった。
瞬間、激痛が走る。
「『うGがAあああああAAあAAAA!!?」』
名前:ジャン・スミスLv.58
種族:人間 性別:男性
職業:【気分屋】
HP:171
MP:559
STR:42
VIT:32
INT:97
MID:104
AGI:165
DEX:178
LUC:112
称号
【混沌神の玩具】【運命神の憐憫】【怠惰神の親愛】【無謀】【マゾ】【命を弄ぶ者】【妖精郷の歓迎】【黄泉の道化師】【探検家】【妖樹の友】【界渡り(魔)1/1】【悪戯小僧】【変異種】【補佐官】【野菜泥棒】【逆走の探索者】【養蜂家】【幻想の冒涜者】【ゲテモノハンター】【探究者】【信心深き者】【戦場カメラマン】
スキル
戦闘
【盾】【刀】【奇襲】【会心の一撃】【空駆け】【バランス感覚】【毒耐性(一)】【夜目】【撤退】【肉体言語(一)】【狂戦士】
魔法
【魔法陣(巨)】【生活魔法】【詠唱】【魔法連射】
生産
【細工(玄)】【採取】【料理(初)】【木工(玄)】【解体】【伐採】【書画(初)】【調合】【スキル付与】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【木登り】【地図】【効果】【魔道具】【妖精化(玄)】【指導】【分解】
特殊
【混沌】【手抜き】【六文銭】
【戦場カメラマン】
シャッターをきっている間はどんな攻撃も無効化する。
ゲーム時間について、過去になんて書いたか忘れた。書いたかどうかも忘れた。
とりあえず現実の五時間がゲームの一日という感じの時間で進むことにしました。そのあたりしっかり覚えていないポンコツ作者です……。
>>「『」』
これは故意に書いているので誤字ではないです。