1 チュートリアル1
こんなゲームならやりたいなあ……
絶対売れない気はしてる。
十代後半からゲーム離れをし、その後ラノベにのめりこんでいたのだが、この年になって気になったゲームを見かけついつい買ってしまった。
最近は技術が安定してきて安価になってきたVRゲーム。生産職――今回の場合は杖とか弓とか剣とかのファンタジー武器を作る職業――に関するシステムが魅力的だったのだ。
「う~ん、どうしようかなあ」
私は今、猛烈に悩んでいた。
ついさっきからゲームをするための自分の分身とでもいうべきアバターを作り始めたのだが。
「色白も褐色もいいよなあ。髪だって黒も良いし銀も良いし……」
まず、外見からしてつまづいています、ハイ。
「明日、朝早いんだよな……」
ちらりと見ればもう針は真上を過ぎていた。どう考えても初期スキルすら決まらない。
多すぎだ……。戦闘・魔法・生産・他に分類されているが、軽く千は超えている。
そして同時に目に入るちかちかと光るメイキング画面の右下の緑色のボタン。
もういっかな、ポチっとな。
『すべての項目が無作為に作成されます。よろしいですか? YES/NO』
YES。
「うん、なかなかじゃないか?」
これといって特徴のない顔。美形と言えなくも……?
訂正、平凡です。
「ま、いいや。寝よ」
◇
『Back to Earth』
「生産・製造にリアリティを。武器・道具は英知の結晶!」をコンセプトに開発され、今月発売されたフルダイブ型VRMMOである。
技術の衰退を食い止める可能性ありとして、国や人間国宝も投資・協力し作り上げられた傑作という煽り文句につられて、現在そこそこに売れているゲームだ。
最近のVRはどれもAIにも相当リソースを割いているが、このゲームはコンセプト通り生産に最もリソースを割いていると言っていい。
例えば、鍛冶をする場合は実際に必要量の鋼をゲーム内とはいえ本当に打たなくてはならない。材料が足りなければ質はどんどん落ちていく。一方で打つ剣のデザインは自由自在。製造過程で手を加えることだってできる。
またPSがあれば、スキルがなくとも生産できる。そしてプリセットされた従来のレシピは存在しない……こともないが、性能は数段落ちる仕様だ。
こんな仕様なので大分好き嫌いは分かれるが、戦闘面は従来の物と大きくは違わないため、売り上げはそこそこに留まっているのである。
◇
勤務後、自宅にいそいそと戻り電脳世界へ。
「さて、ステータスはっと」
宇宙のような空間で、私は昨日確認できなかったアバターのステータスを確認する。
名前:ジャン・スミス Lv.1
種族:人間 性別:男性
HP:46
MP:54
STR:2
VIT:0
INT:13
MID:15
AGI:11
DEX:23
LUC:36
VITとSTRが……。何も言うまい……。
「スキルも不安だ」
スキル
【細工】【魔法陣】【盾】【採取】【料理】【刀】【運】【木工】【薄影】【魔力制御】【痛覚耐性】【読書】
っしゃあ!木工入ってる!超嬉しい!
木工は一番したいことだったからだ。
【盾】はいらねえな……。
【魔力制御】【痛覚耐性】【読書】も、こう、ねっっ……。
というか、仕様なのかスキル説明見えん。
ゲームが関わった際の自分の運の悪さを思い出しながら出発する。
「よし、行くか」
《【戯れの惑星】へようこそ。これよりこの空間には出入りできません》
《【戯れの惑星】に入星する際、神々の祝福を得ます。祝福の内容は、ステータス決定時の情報を元にして与えられます》
《良い旅を》
光が爆発し飲み込まれた瞬間、機械的な声が聞こえた。
神、いるのか。
《【混沌神の玩具】を得ました》
《【運命神の憐憫】を得ました》
《【怠惰神の親愛】を得ました》
……なんかキタ。
とん、と軽い衝撃の後、私は石畳の上に立っていた。周りを見回す。
うん、ファンタジーだ。
少し離れた場所にあるベンチに腰掛け、自分のスキルをもう一度見てみる。
……さっぱりわからん。【鑑定】とか必要なのかね?
やはり全てランダムは流石に思い切りが良すぎたか?
称号は、お、こっちは見られるんだな。
【混沌神の玩具】
初期ステータスが混沌としている者に与えられる。
スキル【混沌】の発現。
【運命神の憐憫】
初期ステータス全てをランダムにしたにも関わらず、種族・スキルにレアすら混じらなかった者に与えられる。
クリティカル率上昇。
【怠惰神の親愛】
初期ステータス全てを十分以内にランダム一回で決定した者に与えられる。
スキル【手抜き】の発現。
称号はともかく、クリティカル率上昇はとても嬉しい。
……【混沌】はなんか凄そうだが、やはり説明は見えない。
【手抜き】もよくわからん。
まあいいか。私はファンタジーな杖とか弓を作りたいだけだし。
……別に落ち込んでなどいませんとも、ええ。
麻の服とズボンの初期装備でどこまで出来るだろうか。
とりあえず東の森に来た。
お、あの枝いい感じ。
短刀を無造作に振るい適当な長さを切り出す。
下手な鼻唄を披露しつつ、短刀で削っていく。
【木工】のためか、現実の記憶にあるよりサクサク削れる。
簡易とはいえ、なかなか良いんじゃないか?
あと少しで完成、というところで背中に衝撃が。
ホワホワと柔らかい光が差し込む石造りの建物の中。
私は大きな水晶の前にうつ伏せに倒れていた。
「やっちまった……」
ログを見てみると、
《ホーンラビットに倒されました》
とある。
VIT0は伊達じゃない。
デスペナでLUC以外軒並下がっているし、街中フラフラしよう。
無難に大通りを歩いていくと、剣と杖が交差した看板が目に入る。
「おお、ギルド。入ってみるか」
田舎の役所を少しお洒落にして、半分酒場にした感じだ。
お仲間と思しき人達がフラフラしている。
どう考えても先に寄るべきだったと思う。
無謀だった。反省。
「失礼。ここでは何が出来るんだ?」
でも考える前に体が動いている不思議。
思っていた以上に興奮しているらしい。
若い受付嬢は遅滞無くにこやかに答えてくれた。
「冒険者登録ができます。登録しますと、星渡りの方々にとっては簡易身分証にできますよ」
「ふむ、では登録を頼む」
身分証は大事だな。
「ありがとうございます。簡単な体験もご用意しておりますが、お受けになりますか?」
「どんなものだ?」
「弱い魔物の討伐依頼、簡単な採取依頼、街中の雑用依頼の三種類です。一つだけ受けても構いませんし、全てでも構いません」
「時間は決まっているか?」
「いいえ、どれも常時依頼です。報酬は安いですが、不慣れな方にはお勧めしております」
時間もあるし、構わないかな。
「では全て受ける」
「ありがとうございます」
「ところで簡易身分証と言っていたが、正式な身分証はどうやって手に入れるんだ?」
「はい、方法は三つあります。街の有力者の推薦を受けること、冒険者、生産者、商業いずれかのギルドのランクを上級まで上げること、後見人を三人見つけることで、役所で正式な身分証が発行されます」
根無し草には厳しい基準だ。
私は出来上がったらしい身分証――プラスチックと木材の間のような材質のカードを受け取る。
「ありがとう」
「いえいえ、良い旅を」
街中チュートリアルクエストを受けている現在。
竹箒を持って公園を掃除している。で、偶に雑草を抜く。
こんなんでいいのか冒険者?
ボランティア気分なんだが。
しかしどの世界でも子供は元気らしい。そこここで走り回っている。
「元気だなー」
「子供はそれがいいでな」
おぅふ。
「驚いたんだが」
「すまねーな」
にへらっとしている目の前のおっちゃんは役所の職員である。現在私と雑草と戦闘中だ。
「んでな、偶にここらでも薬草が生えてるだ。コレとか、ソレとか」
そう言って示されたのはやはり雑草。
「心の眼で見るだ。雑草なんて草はねえで。お、お前さんが今抜いたのはナオリ草だ」
ほう。見分け方を一つ一つ教わると、特徴を認めたものは見分けがつくようになった。
イヤ草とイエ草が物凄く判りづらかった。
《十の素材を見分けられるようになったことにより、スキル【識別】を得ました》
【識別】……鑑定の亜種か?
「うっし!綺麗になったべ」
「やっとか」
「ここまで付き合ってくれる冒険者は珍しいでな、つい」
ガハハ、と豪快に笑うおっちゃん。
まあ、私も薬草が見分けられるようになったから良いけども。
ついでに木の見分け方も教わりました。
「んだば頑張ってな」
「お疲れ様」
さて、薬草採取と討伐依頼に行きますかね。
ホーンラビットに復讐だ。
「あ、ちょっと待つだ」
復讐ならず。
名前:ジャン・スミス Lv.1
種族:人間 性別:男性
HP:46
MP:54
STR:2
VIT:0
INT:13
MID:15
AGI:11
DEX:23
LUC:36
称号
【混沌神の玩具】
【運命神の憐憫】
【怠惰神の親愛】
スキル
戦闘
【盾】【刀】
魔法
【魔法陣】
生産
【細工】【採取】【料理】【木工】
その他
【運】【薄影】【痛覚耐性】【読書】【識別】【魔力制御】
特殊
【混沌】【手抜き】
備考
(きっと言及されない設定)
・ゲーム内は一日20時間。時間加速設定は特に決めてない。
ゲーム内では既に痛覚は五割カットなので、主人公は【痛覚耐性】を無駄だと感じています。
・HPかMP全損で死亡。
主人公見た目
黄色肌茶髪紅目中肉高背
初期装備
初心者の盾、初心者の短刀、初心者の服上下、初心者の靴、等級外ポーション各種数本、一握りのお金
スキルに合わせて武器・道具系の装備が二個出ます。主人公は混沌としているので(ry