運動会 二人三脚編
「準備はいいか?」
「もちろん。
足を引っ張らないでね」
「それこそ誰に言っている?」
私達は肩を組んで、スタートのピストルと共に走り出した。
運動会には色々な競技もある訳で、選手はいくつかの競技を選択する事になっている。
私達カルテットはこのクラスの主力だから、得点確保にエントリーするがそれだけでは勝てないのが運動会。
団体競技やリレー等の得点を積み上げる戦略が実は大事になってくる。
運動会は私達の活躍もあって盛り上がっているのはいいが、そうなると他のクラスも対策を立ててくる訳で。
「やってくれるじゃない……」
タオルで汗を拭きながら、私はスコアボードを眺める。
思ったより苦戦でしかも負けている。
「僕らが目立つのを逆手に取って、相手は僕らが出ない競技に主力を集中させたみたいだね。
特に全員参加競技の100メートル競争で差がついてる」
裕次郎くんの指摘は私達と他の生徒の戦力差が露骨に空いているのを指摘していた。
なまじ私達が得点を取るから、最後はあいつらに任せてしまえばいいとなって得点を逃しているのだ。
おまけに元から上に立つ連中を集めたクラスだから、本気になっても運動に全力をという人間は少なく、他クラスは私達に逆転優勝を掻っ攫われたのを忘れては居なかった。
つまりそういう事が、私の目の前の点数として表に出ているという訳だ。
「泉川に桂華院。
トラブルだ。
女子が先の競争で足を痛めた」
光也くんの報告に私と裕次郎くんはクラス委員の顔になる。
互いに頷いて行動の確認をする。
「わかった。
桂華院さんは保健委員と一緒に彼女を保健室におねがい。
僕は運動会実行委員会に選手変更の登録をしてくる」
「わかったわ。
保健委員!
ちょっとこっちに来て頂戴!」
保健委員と共に足を痛めた女子を保健室に送ると、入り口で裕次郎くんが待っていた。
ドアを閉めて保健委員の女子を先に帰らせた後で裕次郎くんが口を開く。
「容体は?」
「軽い捻挫ね。
数日は安静にという事だから、この後の競技は無理ね」
報告を聞いて裕次郎くんは頬に手を当ててしゃべる。
厄介事というかチャンスというかそんな事を。
「ちょっと問題が起きてる。
一人男子が風邪で休んでいただろう?
この女子の捻挫で二人欠けたんだけど、二人共二人三脚にエントリーしていてね。
それぞれの相手を組ませたのはいいけど、綺麗に一組空くから代走を認めるらしいんだ」
二人三脚は二人一組でエントリーするので、得点が結構いい。
それを欠員という形で失うと、最後のリレーでも逆転が難しくなりかねない。
なまじ頭が良くて、その上負けず嫌いだからこその贅沢な問題である。
「僕も後藤くんもこの後の障害物リレーに出るから、二人三脚にエントリーできない。
けど、桂華院さんと栄一くんは次の競技までまだ時間がある」
「組んで出ろって事?
それはいいけど、欠員の出た組にそれぞれ私達を埋めた方が良くない?」
点数計算を考えたら、私と栄一くんで一位を取るより、私と栄一くんで欠員を埋めて二位三位狙いの方が点数計算は有利になる。
私の指摘に裕次郎くんは視線をそらせて、少し言いにくそうに言った。
「桂華院さんに詫びたいんだって。
栄一くんの奴」
え?
詫び?
へーほーふーん。
詫びって言うからには、GWのあれなんだろうなぁ。
選挙とか共和党大会とかで色々あったからすっかり忘れていたけど、顔がにやけてしまう私が居た。
二人三脚は相手にどうやってリズムを合わせるかが鍵となる。
互いの足を鉢巻きで結んでいる時に、栄一くんが小さくつぶやく。
「この間はすまなかった」
「忘れていたわよ。
あんな事」
「お前が忘れても、俺の中でのけじめだ。
かっこ悪かったからな」
そう言い切ってゴールを見る栄一くんの顔が眩しくて。
「だったら、かっこよくなってみなさいよ」
何かが弾けそうに鳴る心臓を勝負の為と言い聞かせて。
スタートのピストルと共に私達は駆け出した。
ビターン!
「帝亜と桂華院なんて最悪の組み合わせじゃないか。
互いに唯我独尊の見本みたいなもので、ああなるとは思わなかったのか?」
ゴール後に光也くんのツッコミに何も言い返せない私達が居た。
運動会の参加種目
全員参加の100メートル走。
団体競技に、個人競技が二個。
運動会の得点
たとえば6組あって一位から6・5・4・3・2・1点の場合、瑠奈と栄一コンビで一位を取ると6点、もう一つが最下位で1点だから7点。
これだとバラして両方三位でも8点だからこっちの方が得じゃないという訳。
学生の運動会だから出たい種目や出たくない種目でエントリーをしていたが、ガチで勝とうと計算するとエントリー時点である程度の点の目算が立つと気づいた大人の私。
ビターン!
コケ方は高橋留美子作品。
たしか『らんま1/2』でまんま二人三脚の話があったような。
あのコケ方はギャグらしくて好きだったなぁ。