プールサイドの美少女に群がるパパラッチ+深淵に潜む何か
例のプールなんて言ってはいけない
夏も終わりに近づいているというのに、この夏はとにかく暑くてひたすら夏らしい曲が流れ続けていた。
ありがたい事に時間もある。
「そうだ。
プールにでも行こう」
そんな感じで私はプールに行くことにした。
行くのは桂華ホテルのプールだが、開放されてるプールではなくエグゼクティブ用の貸し切りプールだ。
五階の屋上部分では、一般庶民達が芋を洗うがごとくプールと戯れているが、こっちは株主特権でもちろん貸し切りである。
執事の橘が連絡を入れてくれたおかげで共に奥の直通エレベーターを使って最上階に到着すると、万全の準備が整った室内プールが。
着替えて泳ぐというより涼むというのが目的だから、ざぶんと水に飛び込んだ後はプカプカと浮いてそのままプールサイドでごろん。
学校指定のスクール水着だが、見ている人間がいないので気楽なものである。
テーブルに用意しているのはクリームソーダ。
ビーチチェアでのんびりとすると橘がやってきてタオルを渡して一言。
「申し訳ございません。
どうもパパラッチが居るらしく、一度中に戻っていただけないでしょうか?」
タオルで体を隠しながら、窓の向こう側の高層ビル群を眺める。
このホテルは周囲の高層ビル群より低く、最上階といえども高層ビルから見えてしまう。
襲撃を恐れる客もいるので、プライベートプールには防弾ガラスで覆っていたのだが、カメラではそれをすり抜けてしまう。
「派手に名前を売ったからかしら?
やっぱりあっち系?」
「おそらくは」
共和党全国大会でミステリアスガールとして全米デビューしたおかげで、向こうのパパラッチを呼び寄せてしまったらしい。
あっちはこの手の写真を高く買取るから、わざわざこっちに出向く苦労をかけてももとが取れるらしい。
人気者は困るなー。
「じゃあ、下にも張っているかもね」
「掃除をする為にも、夕食はこちらでとっていただきたく」
橘の淡々とした口調に私はあっさりと許可を出す。
そんなに大事にならないだろう。
その時の私はそう思っていたのだった。
橘が警察に通報して警察が調べた結果を聞いて私は頭を抱えた。
警察の報告では、ホテルのプールを覗ける高層ビルに明らかに場違いの集団が居たという事。
プールが覗ける立ち入り禁止区画が誰かによって開けられていた事。
明らかにカタギに見えない外国人がビルの監視カメラに映っていた事。
「うわぁ……」
パパラッチにもいくつか種類がある。
有名人の写真を撮って売る事には変わりがないのたが、撮る対象が違うのだ。
米国ではハリウッド俳優なんかを撮るパパラッチの活動が強い。
俳優側も映画宣伝などで彼らの話題性を必要としている側面もあって、嫌いつつも関係はズブズブという奴だ。
問題は欧州系、特に英国のパパラッチ。
こいつらは生粋の王室マニアで、その努力は時には国家権力のスパイすら越える。
もちろん、そんな連中が法律を守る訳がない。
「つまり、ついに私も悪名高いパパラッチに目をつけられたという訳ね」
私の出生から、ロマノフ系である事がばれて、英国でなんかブームになりつつあるという事。
ムーンライトファンドの莫大な利益がロマノフ家の財宝と勘違いされて、『財宝は極東にあった』と騒ぎ出したこと。
で、その財宝を狙ってロシアの組織が私の誘拐を画策した事まで知られていた。
「ここまでバレたか……」
日本の組織は外に対する防諜は硬いのだが、中にはいると身内意識でザルになるという特徴がある。
これらの事がバレたのは、窮乏している華族辺りにパパラッチが金を握らせたと見た。
同時に、私の政財界関与については触れられていないあたり、言っても信じてもらえなかった口なのだろうと推測する。
下手な真実は、すべての情報を陳腐に見せるのだ。
「お嬢様。
警視庁の公安部外事課の前藤管理官が今回の件でお会いしたいそうで」
おや。彼は出世したらしい。
管理官はたしか警視がついていたはず。
出禁を宣言されたはずなのだが、こういう時に堂々とアポを取ってくるあたり神経が図太い。
こっちが断れないのを分かっているからだ。
「いいわ。
会いましょう」
それから十数分後。
前藤正一管理官は悪びれもせずに私の前に姿をあらわす。
「出世おめでとうと言うべきかしら?」
「ありがたい事に、とある方の引き立てがありまして。
今は外事の他にも色々とやらせてもらっていますが、それは仕事上の秘密という事で」
挨拶もほどほどに前藤管理官は私に警告した。
ビルの監視カメラにパパラッチと一緒に映っている明らかにカタギではない連中の件だった。
「パパラッチについては匿名の情報提供を受けて身柄を抑えることに成功しました」
どうやら私の水着写真は出回ることはなくなったらしい。
喜んでいたら、前藤管理官はこめかみに手を当てながら、その匿名の情報提供者について告げた。
「パパラッチの情報提供者は米国大使館に入っていったらしく、電話も米国大使館の一般電話からでした。
で、米国大使館周辺の監視カメラを調べたら……」
写真をテーブルの上に置く。
ビルの監視カメラと米国大使館周辺の監視カメラの外国人と一致していた。
「身内を売った?」
「最初からそのつもりだったのかもしれませんね。
このカメラに映っている連中を調べたら、面白いことが分かりましたよ」
「面白いこと?」
前藤正一管理官から手渡されたファイルの名簿には、中々愉快な経歴な方々の名前が乗っていた。
具体的に言うと、戦乱で荒れる発展途上国で活躍した連中。傭兵。
そんな連中が国内に入ってきていたというのだ。
「私の誘拐?」
ファイルを眺めながら私が確認をとると、前藤管理官は実にいやったらしい苦笑をして更にファイルを渡す。
「それだったら、こんなに分かりやすい記録を残しませんよ」
入国目的は観光であり、それはまぁいい。
彼らは警備員として既に米国の大企業に雇われていた。
その企業が米国ゼネコンで水をビジネスの一つとして扱っているのを知っていたら、このファイルの重要度が途端に跳ね上がる。
「あちゃー」
わざと軽い声を出すが、私の手はこめかみを押さえざるを得ない。
考えられるのは、ゼネラル・エネルギー・オンラインのあの発表。
なお、このゼネコン企業の本社がカリフォルニア州にある。
「これ以上分かりやすい恫喝って無いわよね……」
つまり、ヤクザ用語で言う所の、
『ワレ誰に断ってここで商売してるんじゃ!コラ!!』
である。
これに日本での進出できる理由がプラスされる。
「金融・物流方面の不良債権処理は大方の処理は終わり、残るはゼネコンや不動産が抱える不良債権処理が中心になってゆくでしょう。
規制や技術等の関係から彼らがこちらで商売するのに一番手っ取り早い手は、不良債権処理で苦しんでいるゼネコンを買収する事でしょうな」
ゼネコンや不動産会社の不良債権には、地上げ等からヤのつく自由業の方々の関与がかなりあったりする。
ああ。なるほど。
前藤正一管理官の色々にそっちも含まれるわけだ。
で、そんな方々から私は目をつけられていると。
とりあえず、プールのガラスはマジックミラーに換えておこう。
ひたすら夏らしい曲
『ミュージック・アワー』ポルノグラフティー。
有線でそりゃもう流れまくっていた夏の一曲。
この年のポルノグラフティーのブレイクは凄いものがあった。
英国王室
瑠奈の血脈をどのあたりからいじるか考えていたが、英国王室との絡みは持たせたいなとなんとなく考えていたり。
この手の造り方は、男子に身分の低い女子を当てて爵位を落として記録を消させる形にし、没落貴族の直系女子をあてがうのが一番手っ取り早いが、系図とにらめっこすると一日ではできないのでぶん投げる事にする。
管理官
『踊る大捜査線』の室井さんで一気に有名になった役職。
外事の管理官だからこいつキャリア組かよと今調べて気づく。
なお、引き立てたのは某都副知事で、理由は桂華院家に嫌われたから公平公正に仕事ができるという理由で。
外事課とはそういう組織でもある。
米国ゼネコン
『コチャバンバ水紛争』で検索。
暗黒メガコーポは完全に暗黒では無い。
強欲であり傲慢で弱者に容赦ないが、金に対して公平であり公正だからこそ第三世界では出世の登竜門だったり、地縁・血縁からの弾圧から守ってもらえるという救いのない一面がある。
8/3
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