女の子たちの春
「桂華院さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
一応私にも挨拶をする女子達というのは居る。
このあたりが女性特有のグループ化というやつでもあり、上流階級の足の引っ張りあいというか難しい所だが、とにかく派閥みたいなものができつつある。
そうなると、次しなければならないのは派閥の管理である。
「お昼はどうしますの?
みなさんで食べるのでしたら席をご用意いたしますわ」
「はい。お願いします。
桂華院さま」
女子たちの間で少しずつ広がる『さん』と『さま』の違い。
グループ外だったり、対等な家などは私を『さん』と呼び、私に媚びる連中が『さま』と呼ぶ。
この媚びるのは私の財力だったり、権力だったり、そのあたりを親から教えられた連中だろう。
こういう連中がゲーム時に私の後ろについていたのだろうなぁ。
破滅時に誰も残っていなかったが。
もう一つあって、私がつるむ栄一くんたちに憧れる女子たちというのもある。
「おい。瑠奈。
昼食はどうする?」
「ごめんなさい。栄一くん。
今日は女子のみんなと取るからパス」
「わかった。じゃあ」
そんなやり取りに憧れ、それを近くで見たい。
できるならば、そんな関係になりたい連中である。
もちろん、昼食時にそんな恋バナが花を咲かせる。
なお、昼食のデザートは私が食べたいスイーツをみんなに奢っていたり。
「桂華院さまはあの三人の内、誰が好きなんですか?」
当然出てくる質問に、場の空気が緊張する。
私とブッキングしないようにという配慮が露骨に見えるから私は苦笑しながらその答えを告げる。
「まだわかんないなぁ。
正直、恋とか置いといて、あいつらと遊んでいる方が楽しいのよ」
ませた子ならば恋にも浮かれるお年頃。
とはいえ私は恋に浮かれるにはちと長く生き過ぎた。
前世の記憶もこうなると邪魔でしか無い。
「じゃあ、告白とかしてもいいんですか?」
中々攻めてくるな。今日は。
グレープジュースを飲みながら私はあっさりと手を振る。
「別に構わないわよ。
私ぐらいの家だと、ぶっちゃけると家で決まっちゃうからね」
上流階級ともなるとそのあたりが厳格に決められている。
特に日本はその家の影響力が未だ強かったりするから困る。
その分、後継者を残した後ならば不倫容認という所もあったり。
バブル後から世の女子が強くなってはいるが、いまだ上流階級というのはそんな場所だった。
『三人に告白して相手がOKするならいいんじゃない。
それでも正妻は私が持ってゆくけど』
こう言っているように聞こえるのだがあながち間違いではないし、ここにいる女子達はそれを容認できる上流階級の子達だった。
中等部から特待生が入りだし、その世界がおかしいと叫んだのが高等部の特待生として入った我らが主人公である。
「じゃあ、私、恋文書こうかしら?」
「私、告白しようかしら?」
「思いを伝えたいですわ」
きゃいきゃい騒ぐみんなのBGMに流行曲のバラードがなんとなく流れる。
世はまさに恋愛で浮かれていた。
ぱらりと下駄箱から封筒が落ちる。
蝶のように舞うそれをいつもの三人と眺めながら、地面に落ちたそれを拾った。
「瑠奈。
それは?」
「果たし状じゃあ無いでしょうねぇ」
中身を見ずに鞄の中に入れる。
嬉しくはないのだが、男子三人の顔が緊張しているのが分かる。
彼らも恋を知り、憧れる歳になったか。
「気になる?」
「まぁな」
こういう時の栄一くんは結構素直だったりする。
なお、顔が平静を装っているようだが、眉間に皺がよっている。
「安心しなさいな。
私ぐらいのいい女だと、家の方からちゃんと良い相手を見つけてくれるわよ」
「いい女って自分で言うか。桂華院よ」
光也くんのつっこみを私は聞かなかった事にする。
その家の方からの相手に自分たちが入っている事は三人共分かっているからこその落ち着きだろう。
「こういう時に家ってありがたいけど、迷惑でもあるんだよね」
この面子で現在進行系で縁談がやってきている裕次郎くんが苦笑する。
半年とはいえ総理になれば退いた後に伯爵として叙爵されるのだ。
地方の有力者が箔付けとして殺到しているに違いない。
校舎を出ると、桜が舞い葉桜になろうとしていた。
「GWは何か予定はあるの?」
「僕は地元に張り付き」
「俺は無いからいつものように一人で過ごすさ」
私の振った話に裕次郎くんと光也くんが返し、栄一くんが何故か黙る。
ついでに言うと、なぜか目もそらすので突っ込んで見る。
「さてはデートなのね。
栄一くん」
「ちっ、違うぞ!!」
いや。その反応当たりなんだが。
ほほう。栄一くんもデートするお年頃ですか。
……なんか面白くないので意地悪してやろう。
「女の子はデリケートなんですから、ちゃんと大事にしないと失敗するわよ♪」
「安心しろ。
そのあたりの配慮はまったく気にしなくてもいい女だ」
「そーいう事を言っていると、大失敗するわよ。
栄一くんはそのあたり抜けているんだから」
指を宙に振りながら実にわざとらしいお説教をしていたら、栄一くんがこっちを向いて一言。
「GWだが、うちの爺様がお前に会いたがっている。
時間作れるか?」
はい?
ごきげんよう
『マリア様がみてる』やっぱりこういうのは憧れるのだ。
奢り
『中間管理職トネガワ』。
ニコニコでやってて丁度人心掌握回だったので。
多分女子達とも遊んでいたりするんだろう。
BGM
『桜坂』福山雅治
この年はバラードが大当たりの年で、サザンオールスターズの『TSUNAMI』もこの年にブレイクしている。