アラビアのプリンセス 2019/10/1 投稿
酒田の科学コンビナートネタで石油絡みのネタを調べてみたら出てきたので埋めておく
「うちが全額出すから進めてくれませんか?」
「わかった。
どうせ半年ばかりの総理の椅子だ。
好きに使い給え」
選挙管理内閣である泉川内閣の下、全ての政策がストップしたように見えるのだが、これ幸いと進めた外交案件が一つある。
期限が切れる湾岸の日の丸油田の契約更新である。
この期限延長条件にサウジアラビア政府は二千億円の鉱山鉄道の建設を求めていた。
それを日本側が拒否していたのである。
「しかし、元は取れるのかね?」
泉川総理は電話口の私に確認をとる。
既にロシア産原油の輸入を桂華グループ傘下の赤松商事が仕切りだしており、日本の原油輸入の10%がロシア産になろうとしていた。
同時に、安すぎるロシア産原油に依存しているという欠点があったのである。
権限が切れる日の丸油田は中東資源確保の切込みになるだろうと思っていた。
「難しいところですけど、ある事に意味があるかと。
ロシア政情はまだ安心できるものではありませんから」
硫黄分が多い重質油だが、日の丸油田としての象徴でもある。
権益を消すよりも、資源プレイヤーとしての名の方が大事というのが、話を持ってきた藤堂の言い分である。
「いちおう、今回の出資を前提として、開発会社を赤松商事傘下に収めたいと思っています。
外務省および、通産省の調整の方をお願いできないでしょうか?」
「わかった。
具体的な交渉はそちらの赤松商事の藤堂君にまかせるよ。
その後の体裁は外務省と通産省に指示しておく。
何もできない内閣だと思ったが、何か残せるとはな」
「それも時代というものでしょう。
短いですが、良い内閣だったと言われる努力をともにしましょう。
では」
電話を置いて、私は藤堂と橘と一条の三人を見つめる。
既にIT投資は莫大に膨れ上がり、ロシア国債がらみの儲けも積み上がっていた。
二千億円ならば、構わない投資額である。
「総理の了解は取ったわ。
この案件、うちが丸抱えするわよ」
「そりゃまあ、やればとは言いましたけど、即断即決で決めましたね。お嬢様……」
提案者の藤堂が呆れ顔で言う。
私は腰に手を当てながら言い返す。
「時間がなかったんだから仕方ないじゃない!」
クゥエートとサウジアラビアの間にあるこの日の丸油田の権益は、2000年2月に半分消えてしまうのだ。
時間があるなら色々できるのだが、ここはもう値切る時間もないので丸呑みしかないだろう。
「ムーンライトファンドの方から支払いお願いね♪」
「はいはい。
この悪巧みに関わってから、このぐらいのお買い物に驚かなくなった自分にびっくりしていますよ」
私の言葉に一条がぼやく。
買うことは決めるとして、その交渉は橘なり藤堂なりに丸投げ。
支払いは一条が居なければできないのだから、文字通り子供がおもちゃをねだるようなものである。
ただ他所の子供と違うのは、その金額が莫大でその金を稼いだのが私であるという事。
「政府との確認は橘お願いね。
藤堂はサウジに飛んで、さっさと話をまとめて頂戴。
……あ、そうだ」
私は、ぽんと手を叩いて、さもついでのように本命を口にする。
「作る鉄道だけど、管理と運営はうちが握って頂戴。
金を出す以上、二・三年である程度の鉄路はできるようにしておくこと。
いいわね!」
サウジアラビアが要求していた鉱山鉄道。
その貨物路線はイラク国境線南方を走っていた。
いずれ起きるイラクとの戦争において、鉄道輸送による連絡線は建設の赤字など吹き飛ばす黒字を叩き出してくれるだろう。
起きなければと思いつつ、最悪に備えようと手を打つ私は自己嫌悪に落ちそうだった。
『政府はサウジアラビア政府との間で日の丸油田の権益三十年延長に合意した事を発表した。
権益切れ目前の急転直下の合意に関係者は驚きを隠せない。
サウジアラビア政府との交渉の焦点は二千億円にのぼる鉱山鉄道の建設費用の供出であり、それを渋って暗礁に乗り上げていた。
この費用を桂華グループ傘下の赤松商事が全額出資すると表明したため、急転直下の合意と相成った。
選挙管理内閣である泉川政権下では交渉はまとまらないと諦めていたところの合意で、政府関係者は「選挙管理内閣ではあるが、その選挙後も政権を運営する意思表示だ」という声……』
『湾岸石油開発は第三者割当増資を行い、桂華グループ傘下の赤松商事の傘下に入ることを発表した。
湾岸石油開発は、クゥエートとサウジアラビア国境線上に油田権益を保持していたが、サウジアラビア政府との交渉が難航していた。
今回、交渉成立の条件だった二千億円のサウジアラビア鉱山鉄道の費用を赤松商事が出すことになり、経営の一体化を目的として赤松商事傘下に入る事を選択した訳だが、金を出した赤松商事に対してのお礼であるという話が関係者から出ている。
また、赤松商事はサウジアラビア政府との間でサウジアラビア鉱山鉄道株式会社を設立し、建設と運営を行う事になり、ダンマーム-ハフル アル バディン間の鉄道建設を開始すると共に、キング・ハリド軍事都市に繋がる支線の建設を発表……』
日の丸油田
アラビア石油。
これの期限切れが2000年の2月なんだが、一番傍若無人が許される泉川政権とかぶったので遠慮なく金を出すことに。
狙いは油田ではなく、イラク国境線南方に走ることになる貨物鉄道なんてこの時代の人間は絶対気づかないだろうよ。
こうゆうことをやらかすから、このお嬢様下手に国外に出られないんだよなぁ……
なお、サウジの鉄道についてはジェトロに資料があるのでそれを見ることをオススメ。
リンクはこちら
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07000625/saudirailway.pdf
キング・ハリド軍事都市
貨物鉄道ネタでグーグルアースを確認していたら発見。
その中二ワードに心を撃たれて調べてみたら、ガチの軍事都市で笑った。
この都市と港湾施設のあるダンマームの間に鉄道が繋がるという意味は……