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座敷童子VS図書館の魔女 2019/5/1 投稿

新規キャラ同士の絡み回

 蛍ちゃんは大人しい性格である。

 そして、本を読むのが大好きだ。

 という訳で、よく図書館にいる事が多いのだが、それとは別の理由があることを私と明日香ちゃんは知っている。


「開法院さん。

 そろそろ授業が始まるから教室にお帰りなさい」


「っ!?」


 なんと図書館の魔女こと高宮晴香館長には蛍ちゃんを見つける能力があるらしい。

 それを知った時の私と明日香ちゃんの驚きたるや。

 この時点で、高宮先生すげぇと尊敬の念を持っている。


「そんなに凄い事なのか?」


 そんな事を聞いてきた栄一くんたちに私が真顔で言い切る。

 信じたくない実体験を人に語る時、その顔はいやでも真剣になるものだ。


「栄一くんはビデオカメラに映っているみかんを自分の姿を見せる事無く取れる?」

「お れ ん じ !」

「画面外から道具を使うとか無しでか?」

「何かトリックがありそうな気がするけどね。わからないや」

「実際、そんな画像があるのなら見た上で考察したいな。桂華院よ」


 という訳で、ビデオテープを持ってきて視聴中。

 栄一くん達も真顔になる。


「嘘だろっ!?

 今、どうやって消えた!?」

「画面を加工しているような感じもなかったね。

 みかんがすっと無くなったよね」

「……わからんが、桂華院が言う事については納得はしよう」

「だからおれんじだって……」


 そして、蛍ちゃんの幼稚園でのかくれんぼ無敵伝説を聞けば、当然それをやりたくなるのが男の子というもの。

 私や明日香ちゃんをまじえてのかくれんぼ大会となったわけだが、まぁこれが見事に見つからない。

 栄一くん達三人に私達二人を凹ませて蛍ちゃんは、意気揚々……とでなく『終わった?』みたい顔でこっちを見ていた。


「何で高宮先生は開法院さんを見つけられるんだ?」


 そうなると、当然その疑問に行き着くわけで。

 翌日の昼食時、栄一くんの疑問に自分の事だけど首をかしげる蛍ちゃん。

 明日香ちゃんがある意味女の子らしい意見を言う。


「高宮先生って『図書館の魔女』って言われているんでしょう?

 きっと何か魔法を使っているのよ!」


「魔法って非科学的な」

「種はあると思うよ」


 光也くんと裕次郎くんの二人に突っ込まれて撃沈される明日香ちゃん。

 なお、金と科学を使って見つけられなかった私は沈黙を通すことで撃沈を回避した。


「ならば簡単だ。

 高宮先生が開法院を見つける所を俺たちが観察すればいい」


 栄一くんの結論に明日香ちゃんが困った顔をする。

 その理由は至極もっともなものである。


「けど、図書館の中で遊んだら駄目じゃなかった?」


 図書館の中では騒いではいけません。

 当然のルールに抵触する訳で、ここで隠れて強行するのがお子様の所業である。

 という訳で、私は満を持して口を開く。


「ならば簡単ね。

 遊びじゃなければいいのよ」




「自由研究に図書館を使いたいの?」


 高宮先生に自由研究の申請書類を出す私達。

 タイトルは『図書館でかくれんぼをするのはどうしていけないのか?』。

 やりたいことの真逆をあえてテーマに選び、高宮先生本人に申請するという大人の手法で子供のテーマの申請を見た高宮先生は、困ったと言うより可愛いという感じで微笑んでいる。


「はい。

 校則で決まっているからというのは分かるのですが、『なぜ』そんな校則ができたのかと言われると説明するのが難しくて。

 良ければご協力をおねがいします」


 小学生だからできる『なぜ?』の疑問。

 それを調べたいからという形で高宮先生に協力をお願いする。

 もちろん、インタビューという形で校則やマナーの所まできっちりするが、この自由研究でやりたかった事はただ一つ。


「高宮先生へのインタビューと、図書館の紹介、あとマナーについての発表と、実例として一人隠れてもらおうと思っています。

 隠れてて図書館の先生が帰って図書館が閉まって出られなくなったなんて話を他所で聞きましたから」


 もちろん、その一人が蛍ちゃんだ。

 栄一くん達は名目のインタビューとか図書館の紹介とかも手を抜かなかったので、高宮先生は終始好意的に私達の相手をしてくれていた。


「この図書館ではそういう事は起こさないけどね。

 けど、そういう探究心はこれからの人生においてきっと大事なものになるわ。

 いいわ。

 付き合ってあげます」


 という訳で、閉館後に少し残ってもらってのかくれんぼ対決である。

 時間は三十分。

 三十分経過したら蛍ちゃんには入り口に来てもらうことになっている。


「じゃあ、蛍ちゃん隠れてね」


 明日香ちゃんの言葉にこくりと頷いて蛍ちゃんの姿がすっと消える。

 これを知っている私や明日香ちゃんはともかく、初めて見た栄一くん達がぎょっとしたのが面白かったのは内緒だ。


「ふーん。

 そういうことね」


 そんな言葉を漏らして高宮先生が苦笑する。

 多分、こちらの企みはほぼバレたのだろう。

 それでも、それまでの積み重ねとしてインタビューや下調べがものを言って、高宮先生は苦笑するに留めてくれた。


「じゃあ始めてください」


 隠れる時間を計っていた裕次郎くんが合図する。

 栄一くんは私提供のビデオカメラを持って、この一部始終を撮影している。

 光也くんと私は一応探す役として先生と一緒に歩いて同じ視線を共有する。


「なぜ、私は開法院さんを見つけられるのか?

 その答えは、経験の差かしら」


 そんな事を言いながら、高宮先生は図書館を歩く。

 既に日も落ちて図書館館内は電気が無人の本棚を静かに照らしていた。

 それがなんとなく不思議であり、怖くもあった。


「ここは私のお城よ。

 建てられてから何十年も居たのだから、全部知っているわ。

 ちょっとの変化も、見逃さない。

 たったそれだけのことよ」


 探すことすらしなかった。

 まるで見当がついているのか、私達を案内しながら高宮先生は歩く。

 整然と並ぶ本棚の群れは、この館の主人である高宮先生に頭を垂れるように見えた。


「はい。

 みーつけた♪」


「!?」


 高宮先生の声の先に蛍ちゃんが居た。

 というか、急に現れたので、しゃれでなく怖かった。

 あとでカメラを見たけど、本当にふっと本と共に現れたのだ。


「開法院さん、童話とか昔話が好きでね。

 そのシリーズずっと読んで、順に借りていたのよ。

 だから、その続きを待っている間読むと思っていたわ。

 みんなの疑問に私は答えられたかしら?」


 高宮先生の笑顔に私達はこくこくと頷くしか無かった。

 なお、自由研究はえらく受けて、高宮先生の図書館入り口にデカデカと張り出される事に。

 評判の良さに反して、私達はなんとも言えない笑みを返すことしかできなかった。 

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