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かくれんぼ 12/27 投稿

 真面目な話が続いたので、息抜きファンタジー回。

 幼稚園生活をしているといくつかのその場のルールみたいなものができあがる。

 そんなルールの一つがこれだ。


「「せんせー。

 ほたるちゃんがみつかりませーん!」」


 かくれんぼで蛍ちゃんが隠れたら勝てないというやつだ。

 ルールじゃなく単なる事実じゃないかという突っ込みは受け付けない、これはその場ルールの一つである。

 で、時間前にはいつの間にかいるのだから、ある意味タチが悪い。

 そうすると何としても見つけてやろうと考えるのがお子様なわけで、ありとあらゆる手を用いて蛍ちゃんを見つけようとするけど、蛍ちゃんが見つからない。

 ここまで来るとかくれんぼのプロというか、人じゃないのじゃなかろうかと疑ってしまうレベルである。


「まさかー。

 ひとじゃなかったら、うちのオレンジたべられないわよ。

 おたぬきだいしさまのありがたいはたけでとれたオレンジなんだから!」


 いやだから明日香ちゃん。

 それはどう見てもみかんというのはもう止めておこう。

 後悔するのは彼女だし。

 それよりも、気になる謎ワードが出てきたのだが。


「おたぬきだいしさま?」


「そう!

 とってもえらくて、ようかいなんてイチゲキなんだから!!」


 聞くと、大師様というのは四国八十八ヶ所で有名な弘法大師空海様らしい。

 これはなんとなく予測はついたが、もう一つの『おたぬき』とは何ぞというと、妖怪狸らしい。

 四国はもともと狸の妖怪で有名で、愛媛県にも江戸時代に藩のお家騒動に介入した、それはそれは妖力の高い狸が居たらしい。

 で、色々やって封じられたのだが、その封じられた場所が弘法大師と繋がったらしい。

 そんな封じられた場所の近くのみかん畑で取れたみかんだからこそ『お狸大師様』の加護があるという訳らしい。


「ほたるちゃんこのオレンジだいすきなんだからね♪」


 明日香ちゃんにこくこくと頷く蛍ちゃん。

 そんな縁もあってか、明日香ちゃんのオレンジという名前のみかんくばりを手伝っているとか。

 話がそれた。


「それ、みかんをえさにつかまえたらいいじゃない?」

「じつはすでにやったのよ。

 で、オレンジだけたべられたのよねー」


 困り顔で頬に手をつける明日香ちゃんとこくこくと頷く蛍ちゃん。

 とりあえず蛍ちゃんは自分のことという事を理解しているのだろうか?

 しかし、そういう事を聞くと、見つけてみたいと思う子供心がざわつく。

 生まれ変わってから思考が体に引きずられている事が多いけど気にしない、若いときを楽しまずして何の人生か!


「ふっふっふ。

 ならばわたしがほたるちゃんをみつけてみせるわ!」


 その二十分後。

 見つからずにガチ凹みする私の前にきょとんとする蛍ちゃんが現れる未来を私は知らない。




「ふっふっふ。

 かがくとおかねのちからをつかってほたるちゃんをみつけてあげるわ!」


「るなちゃんそれおとなげないとおもうな……」


 その翌日。

 私が用意したのは家庭用ビデオカメラ。

 まだ数万円はする結構お高いものなのだが、私はお嬢様である。

 それぐらいのお金はぽんと出せるのだ。

 橘が買ってきたそれをメイド三人に見つかって、私の撮影会が始まるという尊い犠牲の結果、ビデオカメラが幼稚園の庭に設置された。


「あすかちゃん。

 みかんいっこちょうだい」

「だからオレンジだって!」

「はいはい」


 庭のど真ん中にビニールを敷いて、その上にみかんを置く。

 これで隠れている蛍ちゃんがノコノコ出てきた時にカメラにバッチリ映るという訳だ。

 なお、他の園児の「これほたるちゃんずっとかくれていたらどうするの?」という意見は、私と明日香ちゃんの二人によって無視された。

 かくして、万全の体制で挑んだリベンジだったのだが……


「うそ!

 なんでうつっていないのよ!?」

「みかんだけきえてる!?」


 その後、きっちりカメラに写っていたみかんが不意に消えるというガチホラー画像に、私達全員が恐怖したのは言うまでもない。

 ただ一人、みかんを美味しそうに食べている蛍ちゃんをのぞいて。




「なにかないかな?

 ほたるちゃんをみつけるしゅだんは……」


 既に失敗すること数度。

 その間にビデオカメラが三台に増えていた。

 にもかかわらず蛍ちゃんが映らないのはある意味ホラーでしかないのだが、さすがに慣れた。

 かなりガチで悩む私に、付き合いの長い明日香ちゃんがぽんと手をたたく。


「ほたるちゃんおうたがすきだから、うたえばつられてうたうかも!」


 山彦じゃあるまいしと思いながら、私は適当に歌う。

 ちょうど、国営放送の教育テレビで流れていた歌である。


「~♪」


 前世の頃、私は歌が好きだった。

 歌うのが好きでそっちの方に行きたかったのだが、経済的余裕がそれを許してはくれなかった。

 大人になるとついには歌うことすら忘れ、最後は……

 その思考が途切れさせたのは、隣の明日香ちゃんの拍手だった。


「すごい!すごい!!

 るなちゃんおうたうまい!」


 褒められると嬉しいもので、調子に乗った私は勢いついでに、もう二、三曲披露する。

 いつの間にか、明日香ちゃんだけでなく近くの園児や先生まで聞きいっていた。

 そうだ。

 私は歌うのがこんなに好きだったのだ。

 そんなことすら忘れていた。


 ぱちぱちぱち。


 歌い終わった目の前で、ほたるちゃんが手を叩いていた。

 そして、笑顔で口を開いた。


「るなちゃんおうたじょうずね♪」



「「「ほたるちゃんがしゃべったぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

弘法大師空海

 「四国はお年寄りのディズニーランド」と言い切った四国在住の友人の八十八ヶ所評は的を射たと言わざるを得ない。

 なお、『妖怪だからみかんを食べたら退治される』というより、『妖怪に目をつけられた呪いがありがたいみかんパワーで解除された』が正解。



お狸様

 隠神刑部。

 封じられたのは宇佐八幡宮の力なのだが、この話では弘法大師様の力に変わっている。

 武家階級の八幡信仰と地元の空海信仰との関係を調べると、民族学的な面白さがありそうなのだが、さすがに時間が足りないのでパス。



 『みんなのうた』

 瑠奈的ベストソングは『まっくら森のうた』、『月のワルツ』、『メトロポリタン美術館』。



しゃべったー!

 元ネタは某ハンバーガーチェーンのCM。

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