双子のギャング
法と警察機構が整備され、比較的に治安のよいイワン城下町においても、やはり無法者の集団は存在する。
ドッブ・ロック兄弟といえば、この国の人間なら名前を聞いただけで震え上がるギャング団のボスだ。一卵性双生児の彼らは、犯罪においては類まれなる才能を発揮し、城下町のはみ出し者達を暴力で操り、裏社会を支配していた。
また彼らは一部の貴族ともパイプがあり、時には合法的に解決できない事態を片づける始末屋としての生業もあった。
ドッブ兄弟のアジトは、商人の倉庫として偽装した小屋の地下にある。
陽の光が差し込まない灰色の空間に、大量の酒瓶と金や銀の調度品。
倉庫を無理やり贅沢にしつらえた、安っぽさの否めない部屋だった。
部屋の最奥には落書きされたイワン王国の旗があり、妙に目立つ。
兄弟とその部下たちはここを拠点に、今日までは犯罪人生を謳歌していた。
「……亜利奈ね、双子ってなんか嫌いなんですよ」
アジトの中央にある長いテーブルの上で足を汲み、亜利奈は独り言のように言った。
鮮血で染まったエプロンドレス姿で、右手にはここの備品である短剣を持っていた。
その足元にはスマキにされたドッブ兄弟が、彼女を見上げるように座っている。
武骨だった顔は痣や出血だらけでみる影は無く、抵抗の意志もすでに失われていた。
「だってほら、めんどくさいじゃないですか?
顔がそっくりだし、性格も似てたりしてるし。
どっちがどっちかややこしいですから。
産んだ馬鹿親はどうせ名前までそっくりにするんです。
頭悪いですよねー」
兄弟のうち一人が、奥に積まれたゴミ袋をちらりと見る。
一つ、二つ……全部で五つ。
異臭の漂うそれの中身は、つい数時間前までは自分のために働く手下たちだ。
突如乗り込んだ非情の少女によって、まずは問答無用、一人の首が宙を舞った。
残りの人間の肢体ももがれ、あっという間に袋詰めにされてしまった。
親玉の兄弟たちは尋問用として辛うじて生かされている現状だったが、それももうすでに洗いざらいしゃべり、今の亜利奈は余興の真っ最中だ。
「だから、亜利奈はいい事を思いつきました」
亜利奈はにこりと笑った。
「どっちか死ねば、もう双子じゃなくなりますよね?」
「「ひぃ……っ!」」
死刑宣告に、兄弟はすくみ上った。
「次の兄弟が欲しかったら、そこはおとーさんとおかーさんにお願いしてくださいね。
子供に兄弟をねだられる親の気持ちがどんなものかはしりませんが。
――えーっと」
亜利奈は短剣を一人に向けて、
「じゃあ、弟さんの方を消しちゃいますねー」
「い、いやだ、助け――」
サクッ、と、額に投擲された短剣が突き刺さる。
男は白目を向いて、あっけなく倒れた。
「う、うわあああああっ!!」
生存した側が悲鳴を上げる。
「おめでとうございます、これでもう双子じゃなくなりましたねー。
生き残ったお兄さんは弟さんを偲んでこれからの人生をまっとうなものに――、」
「に、兄さん、にいさあああんっ!」
「――て、あれ?」
死んだ兄弟に駆け寄る生存者の悲鳴で、亜利奈は気付く。
あちゃー。殺す方間違えた。
「兄さん、しんじゃ嫌だ、死なないでくれっ!」
「うわー、こっちが弟だったか……」
長いことシニカルキラーをやってきたが、殺す方を間違えたとなるとこれはカッコつかない。亜利奈はバツが悪そうに舌を出した。
「……だから双子は嫌いなのよ、ったく……」
どうしたものかと悩んだ亜利奈だったが、
「兄さん、にいさ――ゲフッ!」
とりあえず、残った方の後頭部を素手で叩き潰しておいた。
ばたりと倒れるドッブ・ロック兄弟を見おろす亜利奈は、
「えっと」
この事態をどうリアクションしたものかと悩み、
「間違えて殺しちゃった。ごめんね?」
と自分でもわけのわからない謝罪をしてから、殺人現場を後にした。
……とりあえず、欲しい情報は手に入った。
愛しの人を狙った首謀者の顔を見に行くとしよう。