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魔源寄生虫

 とにかく、寄生されっぱなしの二人からあのウミウシモンスターを取り除く方法を探さなくてはならない。

「亜利奈を呼んできてくれ。

 あいつの助けが必要だ」

 俺はタオルで全身を拭き、ミストに指示を出す。

「でも、二人は?」

「ドゥミ嬢の部屋に避難させる。

 俺の言う事を聞いてくれればいいけど。

 ハイボ、トワイス!

 俺と一緒に部屋まで来てくれるか?」



「うふふー、いーよー」

「部屋で何しちゃうのかしら?」



 何に誘われてると思っているのか、二人は艶めかしく返事をした。

 ま、付いてきてくれればなんでもいい。

「……なんとかなりそうだぜ。

 ――いっって! なんでつねるのっ!?」

「なんか、ムッとした。

 私が戻ってくるまでに二人に変なことしないでよ?」

「しないって!」




 ※数分後。



 ――がちゃ!


「ユウくーんっ!

 亜利奈は助けに馳せ参じ、」

「あわわわっ!!

 ハイボトワイス、お願い離れてっ!」


 仰向けに寝ている俺の上に、あられもない姿で覆いかぶさるハイボとトワイスがいる。

 ――そんな最中に亜利奈とミストはやって来た。




 さ、最悪だ……。




「ふ、二人が強行手段に出たんだ!

 俺はジッとしてろって言ったんだ!」

「ユウ君……」

 亜利奈はぺこりとお辞儀をすると、

「ご卒業おめでとうございます」

「なにからも卒業しとらんっ!!」

「なにもしないっていったじゃない!」

 ミストが軽蔑した悲鳴を俺にぶつける。

「もう、サイテーッ!!」

「不可抗力なんだよっ! 

 見てないで二人をどかしてよ!」

 ミストは小柄なハイボの腕を掴み、

「あんたたちもっ!

 いい加減にしなさいっ!」

「やーだーっ!

 祐樹とえっちするのーっ!!」

 言動がダイレクトすぎる……。

 エロ催眠術こえぇ……。

 幼児のように駄々をこねる二人に、亜利奈が人差し指を突き出す。



「〝眠りの魔法〟っ!」



「はぅ……っ」

 ぱたん、ぱたん。

 亜利奈が唱えた途端に、二人は一気に脱力し、眠ってしまった。

 やっと自由になった……。

 俺は二人から抜け出し、一息つく。

「サンキュー、亜利奈。助かった」

「うんっ!

 こ、これで責めに転じれるよ!

 ファイト、ユウ君がんばって!」

「しねーよバカっ!!」

「え?

 じゃあ代わりに亜利奈で我慢する?」

「やめろバカ!

 なんの代りだバカ!

 このバカバカバカっ!!」

「うぅ……? 違うの?」

「――なんか、面倒な子が増えただけな気がするんだけど……」

 ミストが不安そうな顔で言った。

 擁護する材料が見つからない……。

「でも、すごいね。

 亜利奈ちゃんって魔法が使えるんだ」

「え、えへへ……」

 亜利奈は照れた表情で俺の後ろに隠れてしまった。

「それで、ユウ君。

 ミストさんも眠らせるの?」

「……お前、絶対何か勘違いしてるだろ」

「え。じゃあこんなにメイドさん集めて一体何系のパーティー?」

「もういいお前、一分黙れ。

 今から説明する」




 かくかくしかしか。




 俺はハイボとトワイスをベットに寝かせながら、亜利奈に風呂場で起きた事件の顛末を話した。



「お、お、お風呂でハーレム体験……っ!?

 さ、ささ、さすがユウ君……。

 ええっと。

 ご卒業おめでとうございます」

「だからっ!

 なにからも卒業してないつーのっ!

 もうそこ掘り下げなくていいからっ!」

 なんでこいつがヨダレ垂らしているのかそこがもうわからん。

「……それより、この二人から催眠ウミウシを取り除くことはできない?」

「えぇっ?

 わわ、わかんないよぉ……」

 まあ。

 亜利奈の反応なんてこんなもんだ。

 できることも、とりあえずできないとかわからんとか言い出す後ろ向き思考だ。

 こっちから誘導してやる必要がある。

「ドゥミ嬢の魔法は解いてただろ?」

「で、でもぉ……。あれはなんとなく変なモノがついてたからやってたんで……」

「お前だけが頼りなんだ」



「うぅん……」

 亜利奈は悩むと、

「と、とりあえず、生け捕りにしたウミウシを見せてもらえないかな?」


 俺はE:IDフォンから金だらいと水筒を取り出し、その中にウミウシ野郎を注ぐ。

 奴は瀕死の状態ながらまだ死んでいないらしく、時折ひくひくと蠢く。

「うう、なにこれ……。

 亜利奈くらい気持ち悪いなぁ……」

「お前、自分をどんだけ下げて評価してるんだよ。

 どうだ? なんかわかりそうか?」

「うんと、わかんなくもないかな……。

 これ、ミストさんの身体から出てきたんだよね?」

「ああ。そうだ」

「これ、きっとこっちの世界の人がもってる〝魔源〟にくっついて、その人を操るモンスターだよ。魔源寄生虫って感じかなぁ」


「魔源寄生虫……」

 ミストがぞくりと身震いをした。


「ミストさんの魔力を感じるよ。

 きっと最初はもっと小さくて、ミストさんの魔源を吸って大きくなったんだね」

 いいぞ。亜利奈はたまに見せる賢い方のスイッチに切り替わったみたいだ。

 その調子で頼むぞ。

「あの二人から取り除けそうか?」

「う、うーん。

 話を聞く限りミストさんの場合は、免疫力的なもので吐き出したみたいだから、個人差あるかも。

 これ以上はもうちょっと調べないとわかんない、かなぁ」

 そう言って亜利奈は両手を金だらいにかざし、



「〝鑑定魔法〟」



 と唱えた。

 亜利奈の手のひらが薄らと光を帯びる。

 俺には何をしているのかさっぱりわからないが、どうやら寄生虫について詳しく調べているらしい。



「こんな怪物が私達の体に……。

 いつの間に入れられたの……?」

 ミストが怖気を堪えながら言った。

 改めて目の前にしたことで、実感がわいてきたのかもしれない。



 しまったな。もうちょっと配慮して見えないようにすればよかった。

 そんな反省をしていると、亜利奈が、

「多分一番最初は凄く小さかったから、食事に混ぜられても知らずに飲み込んじゃうかもしれないよ。

 それに、無理やり飲まされても暗示で記憶を消されちゃって覚えてないのかも」

「おいバカ! 本人の前だぞっ!」

「え? ……あっ!!

 ごごご、ごめんなさいぃ」

 ホントにやらかしてくれるよな……。



「……いいよ。本当の事だから……」

 ミストは二人が眠るベットに腰を落ち着けて、

「大丈夫」

 と気丈に言ったが、そんなわけがない。


「安心しろよ。もう吐き出したんだから」

 俺は傍に座って慰めた。

 できる事はそんなにないけど、せめて不安だけは取り除いてやりたかった。

 するとミストは俺の手をぎゅっと握り、

「…………でも、怖いよ」

 と涙ぐんで気持ちを吐露した。



「私、他の男の人ともお風呂に入ってたのかなぁ……? どこかの誰かに裸見られて、それで、お客を取るみたいにして、それ以上の……うぅっ」

 彼女の怖気が肌を通して伝わった。

 女の子には耐えられない仕打ちだろう。

 誰が彼女たちにこんなもの植え付けたか知らないが、ひでぇことしやがる……。


 絶対に見つけ出してぶん殴ってやるからな……っ!


「ねぇ……私、自分で覚えてないだけで、もうとっくに不潔なのかな……」

「それは大丈夫かも」

 鑑定していた亜利奈が言った。

「このモンスターはまだ開発中みたいで、検査のための使用履歴みたいなのがあるよ。

 ミストさんのが使われたのは今回が初めてみたい」

「……だ、そうだ。よかったな」

 それを聞いてミストは、より一層強く俺の手に握力を加えた。



「よか――ったっっ」

 噛みしめるように言い、



「まだ……、ちゃんと……っ

 誰かに愛してもらえる綺麗な身体でっ、

 うぅっ、……祐樹ぃ……っ!!」

 ミストは俺を頼って縋り付く。

 彼女の体重が胸に圧し掛かった。

「祐樹でよかった……っ!

 ちゃんと考えてくれる祐樹で……っ!

 じゃなかったら、私達今頃……っ!!

 ひっぐ……うわああああ――んっ!」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 俺は頭を撫でて、彼女の気持ちが昂るのを宥め続けた。





 ふと、亜利奈の方を見る。

 あいつ、ふぃっと目を逸らすようにして金だらいに視線を戻しやがった。

 ……俺が他の子の気持ちを受け止めてるの、ちょっとだけ気になるみたいだな……。



「あ……」

 そこで亜利奈は何かに気付いた。

「ねぇ。お、お嬢様は?

 お食事はとっくに終わったよね!?」

「……っ!!」

 しまったっ。失念していたっ。

 ミストは俺の身体から離れ、

「行って! 早くっ!!」

 と叫んだ。


 俺はE:IDフォンを掴み、駆けだした。

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