マザP(Mother people)徐庶2~分水嶺の巻~
まさかの・・・。
群雄割拠ひしめく三国時代の黎明。
新野をめぐる攻防戦、曹操軍の大将曹仁が25000の大軍を持って南下、劉備軍軍師徐庶は精錬されたわずかな兵を引き連れ対峙した。
「あれが名高い曹仁将軍自慢の八門金鎖の陣か」
徐庶は小高い丘の上から敵の陣形を見やり顎髭を撫でつつ頷いた。
「軍師。数々の諸将が曹仁のあの陣によって葬られております。ここは我が主、劉備様、そして新野の民にとっても、生きるか死ぬかの分水嶺、絶対に負けられませんぞ」
傍らの趙雲は拳を震わし言った。
「分水嶺・・・か、ふふふ、無問題。八門金鎖の陣など、わが友諸葛亮の石兵八陣に比べれば、児戯に等しく実に脆いものよ」
軍師は羽毛扇をゆっくりと、相手の陣へと向ける。
「すでに、八門金鎖の陣、見破ったり。あれに見える生門、開門、景門より討ち入り敵を完膚なきまで敵を駆逐する。趙雲いざ行くぞっ!」
「はっ!」
待ち構える敵の大軍に少数兵で向かって行った徐庶率いる劉備軍は、八門金鎖の陣の弱点をつき、瞬く間に見事に勝利を収めたのであった。
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そして現在。
日本の現代へと転移した徐庶は母の面影を見た楓に一目ぼれをして、彼女のアパートの隣に住んでいる。
ちなみに彼の現在の職業は占い師である、過去の軍師の経験を活かしてのことである。
今日も今日とて彼は旨い味噌汁を求め彼女の部屋にやって来ている。
「徐庶さん、味噌汁が欲しいなら鍋に入れて持って行ってあげるから、わざわざ部屋に来なくても・・・変な噂が立っちゃうでしょう」
「楓殿、私はあなたの顔を見ながら味噌汁を飲みたいのだ」
「マザコン変態軍師の歯の浮くような台詞だけど・・・キュンとするなあ」
「これが、人心掌握術なり」
「ん?」
「いえいえ、独り言でございます」
徐庶は愛想笑いを浮かべると、お茶を啜った。
「・・・そ」
楓は首をすくめる。
ピンポーン。
と、インターホンが鳴り、いきなり入り口の扉が開き、女性が部屋へとやって来た。
「来たよ~」
「母さん」
「!」
徐庶は楓の母と目が合った瞬間、衝撃で身体が固まり、目尻から涙が流れ落ちる。
「ママン」
そう呟き、滂沱と流れる涙を拭おうともしなかった。
「・・・ん?んんんっ、ちょっとアンタ、彼氏出来たの?んもう~アタシお邪魔じゃないの~」
「いや、この人は隣の変態軍師・・・じゃなかった占い師の徐庶さん」
「じょしょさん?芸名?」
「ん~一応、本名」
「そう・・・この人泣いてるわね」
「ね」
「アンタ泣かした?」
「泣かす訳ないでしょ!」
そんな親子のやりとりの最中、徐庶はすくっと立ち上がる。
「お母様・・・いや、母上」
しっかと楓の母の両手を握りしめる彼。
「なにこの人・・・やだ。積極的」
顔を赤らめる母。
「楓殿の母上、よければ私の母上になってはくれませんか」
「???間接的プロポーズ」
母は人差し指を楓に向けた。
「違うっ!」
楓は大きく手を左右に振った。
「じゃ、どういう・・・」
「この人は極度のマザコンなの」
「・・・はぁ」
「母上、お名前を聞かせてくれませんか」
「・・・萌ですけど・・・」
「萌?萌萌っ」
「モエモエモエって・・・オタクさん?」
「近いものはあるかな」
楓は言った。
「はっ!」
ここで徐庶が固まり、脳内では激しく算謀が渦巻く。
(楓殿かその母上萌殿か・・・聞けばこの国は一婦制と聞く。即ち二者択一を今、この眼前で元直(※徐庶の字)は迫られているのか?どうする?どうするのだっ!いずれも我が母の生き写し・・・かたやママンの若い頃、かたや相応のママン、いずれも甲乙つけがたく、選べぬ・・・まさに恋の分水嶺っ!だが私は軍師、あの時の分水嶺は越えたっ!ならばこの局面を打破する究極の一手もこの頭脳にあるはず。今こそ閃けっ、最適解をっ!)
難しい顔をして固まる徐庶に、
「どうしたの?」と、楓。
「どうかされましたか?」と萌。
「ここで3人一緒に暮らしましょう」
キリリとええ顔をして軍師徐庶は言う。
「阿保かっ!」
楓の平手打ちが彼の頬を一閃する。
「アタシには愛する夫がいますので」
萌は腰を落とし軍師の下腹に肘鉄をお見舞いする。
「ぐはっ!恋とは戦ほど上手くいかず・・・だが、これもまた本望」
徐庶は崩れ落ちながら満足気な笑みを浮かべた。
嗚呼っ、軍師徐庶に幸あれっ。
マザP徐庶復活っ。