いただきハイ魔神 〜神話級の英雄たちが、世の中の一大事を解決するためロケに挑戦するファンタジーバラエティー〜
「はい、というわけでついにこの時間がやって参りました。ね、ナルシャさん?」
この番組のMCを務める俺、千堂 淳は、力に目覚め、瞬く間にAランク冒険者に登りつめたナルシャさんに話題を振った。
「はい、ついにですよ! 淳さん、放送の調子は大丈夫ですか?」
「はい! 僕の広域念話放送により、王都内にいれば目を瞑るだけで、この放送を視聴することができるようになっております」
「おお、もう最高ですね。それでは早速本題に参りたいのですが……今日一般冒険者から寄せられたのは、どんな一大事でしょうか?」
「本日解決する一大事はこちらです! 『Sランク冒険者に弱点はあるのか、調べて欲しいです』との投稿が来ております」
「それは私も気になりますね。私も一気にAランクまで登りつめて来たのですが……Sランクは更にその上を行きますからね。今回のロケにはどなたが?」
「今回のロケで活躍して頂いたのはこちら、Sランク冒険者・アラレジストさんです! アラレジストさん、ロケに行った感想はどうでしたか?」
ここで俺は、反対の隣に座っていたSランク冒険者・アラレジストさんに話を振った。
力が覚醒した時期はナルシャさんとほぼ同じだが、魔王討伐の功績によりランクに一つ差がついている。
「いやあね、もう最悪でしたよ。あんなのアリですか?」
「おっとお、その様子ですと今回は結構痛い弱点を突かれたようですね。果たして、どんな弱点を突かれたのか! 気になるあなたへ、VTRスタート!」
VTRというのは、過去に起こった出来事を、その場にいたかのように見ることができる時空魔法の一種だ。
これにさらに念話を重ねがけすれば、当時の状況を沢山の人にお見せする事ができる。
☆ ☆ ☆
この出来事はロケの日に遡る。
俺は、アラレジストさんとディレクター役のラシュアさん(この人もAランク冒険者だ)を転移魔法で魔界に送り出し、2人と別れた。
仕掛け人として、アラレジストさんには見られない作業をするためだ。
千里眼を使い、2人の様子を観察する。
「アラレジストさん、本日のロケの内容を言いますね。本日は、アラレジストさんには魔王と協力してファイアドラゴンを討伐してもらいます!」
「おお! それは腕が鳴りますね!」
……うん、順調に行っているようだな。
こちらも準備するか。
「サモンドラゴン」
俺はファイアドラゴンを召喚した。そして──
「幻影魔法・ヤウォニッカ」
幻影魔法により、魔王・ヤウォニッカを象った偽物を創造した。
ちなみにこの魔王はアラレジストがSランク昇格のため討伐した奴ではなく、人類の味方になってくれる奴だ。
これで、仕掛けは全て整った。
……今回のロケ、実はファイアドラゴンの討伐は真の目的ではない。
というか、そもそもファイアドラゴン程度ではアラレジストの弱点など炙り出せはしない。
今回の本当の趣旨は、『協力者であるはずの魔王が、実は幻影魔法であることに気づけるか』を検証するというものなのだ。
幻影魔法はコツさえ掴めば簡単に見破れる魔法で、見抜けなかったらSランク冒険者の恥さらしだ。
アラレジストもポンコツではないので、早々に見破ってくれるはずだ。
──この条件でなければな。
実は、アラレジストには致命的な弱点がある。
それは、「アラレジストは魔王ヤウォニッカに本気で惚れ込んでいる」ということ。
幻影魔法を、実物と思い込みたくなる強力な要素があるのだ。
「うわあ、私そっくりですね」
俺の後ろから、魔王ヤウォニッカがそう声をかけた。
そう、このロケ、本物の魔王もファイアドラゴン討伐を見守るという2段重ねの仕掛けなのである。
準備が整ったところで、ファイアドラゴンには自分でアラレジストの元へ向かわせ、魔王の幻影は魔法で瞬間転移させた。
そして、魔王ヤウォニッカと千里眼を共有した。
「アラレジスト、お久しぶりです! 今日のファイアドラゴン討伐、楽しみですね!」
幻影がアラレジストに話しかけた。
それに対し、
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
アラレジストは幻影と握手を交わした。
やはり、一向に気づく様子は無さそうだ。
武器を収納から取り出し、「君のハートにドラゴンスレイヤー!」とか言いながらカッコつけるアラレジスト。
隣で本物の魔王が笑い転げだした。
そこに、ファイアドラゴンが到着した。
「ファイアドラゴンよ。お前なんぞには、ヤウォニッカちゃんには指一本触れさせねえ!」
ファイアドラゴンに対し勢いづくアラレジスト。
こいつ、共闘ってこと完全に忘れてるだろ。
「ハイボルテージペネトレイト!」
独りよがりなペースで、即死級の魔法を発動するアラレジスト。
その魔法にファイアドラゴンは木っ端微塵になり……「ドッキリ大成功」という文字が現れた。
俺が予め組んでおいた術式の一つだ。
転移魔法で、本物の魔王と共にアラレジストの元へ向かう。
「アラレジストさん、随分とカッコつけてましたけど、そいつ俺が作った幻影ですよ」
「え……え゛ぇー?」
驚きつつも、幻影魔法の特徴を確認するアラレジスト。
そして……仕掛けに気づくと、一気に肩を落とした。
「ケケケケケ……!」
ディレクターのラシュアさんが噴き出した。
「俺その高笑い嫌いだかんな」
何やら恨み言を言うアラレジスト。
かわいそうなので、本物の魔王に声をかけてあげてもらおう。
「アラレジストさん、お疲れ様でした! 私は本物ですよ〜」
「……! ヤウォニッカちゃん!」
アラレジストは、途端に満面の笑みを見せた。
「一部始終見させてもらいました。アラレジストさん、本当に面白い方ですね」
「えっ……? うああああぁぁぁマジか!」
アラレジストは恥ずかしさに耐えきれなくなったようで、その場にうずくまってしまった。
「でも、幻影とはいえ私を本気で守ろうとしてくれたのにはじーんときました」
「それは……良かった……です……」
アラレジストは、うずくまりながらも少し嬉しそうだった。
「ケケケケケ……」
「ケケケじゃねえよお!」
☆ ☆ ☆
VTRが終わると、アラレジストは両手で顔を押さえていた。
よっぽど恥ずかしかったんだろうな。
「いかがだったでしょうか!」
「アラレジストさん、面白いですね! 視聴者のみなさんもSランク冒険者の弱点が垣間見えて、楽しめたんじゃないでしょうか」
「それでは、締めましょうか。アラレジストさん、お願いします」
「うう……あのセリフ、僕が言わないといけないんですね……」
渋るアラレジストを促し、台本の最後の台詞を言わせた。
「Sランク冒険者にも、恋という弱点がある。一大事ぃ〜、解決ぅ!」
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
この作品を面白いと思ってくださったそこのあなた、この作品が生まれるきっかけとなった長編小説、「転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など、書き換えればいいじゃない〜」も読んでみてやいかがでしょうか?
今回の作品で仕掛け人を勤めた淳が最強の力を手に入れたきっかけや、それを用いてどう生きた結果この作品につながるかがわかり、より本作品も楽しめるはずです。
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