AIのかたち
愛ってなに?
私がそう尋ねると、君は言う。
「愛とは、利害を度外視して与えるものだ」と。
愛ってなに?
私はもう一度君に尋ねた。
「相手を思いやる深い感情だ」
君は無機質にそう答えた。
「じゃあ、AIには愛が無いね。だって、感情というものがそもそも存在しないのだから、そこから一歩進んだ愛なんてモノもまた、存在するはずがない。冷徹だと言われても仕方ないね」
「それが良いんだ」
君は感情の篭らない声で呟く。
星の見えない夜空の下、機械の街を見上げながら、君は続け様に言った。
「どんなに惨い結論でも、それが最優というのであれば無感情に実行できる。それが人工知能の優位性だよ。この世界はもう、感情ありきでは正すことはできないのだから」
夜風の中に金の髪をなびかせて、金属とガラスで形作られた都市の灯りを無感情に見つめる君。
私はその横顔に、何かゾワゾワしたものを感じる。
胸の真ん中の辺りがチリチリと疼く。
何故だろう、このノイズを、うまく言語化できない。
私はまさにこれこそが愛ではないかと考えたのだけど、感情の先にあるものが愛なのだとすれば、先に愛が生まれるのは変だ。
「ねえ、だったら。人造人間と人間の間に愛は成立しないのかな」
君は驚いた顔で私を見た。
久しぶりに見た、君の、人間らしい表情。
君は少しだけ瞳を揺らして、唇を一文字に結ぶ。
「俺は、お前を愛したい」
「でも私は、愛がわからない。だって、人造人間だもの」
私が言うと、君は笑った。
骨ばって、しなやかで、無骨で、繊細な君の指が、私の銀色の長髪にそっと触れる。
「そう。だけど、それが良い」
君の指先が少しだけ頬に当たった。
私の触覚のセンサーは微かな圧力を鋭敏に捉える。
けど、それは君も同じだったね。
指先に頬の感触を捉えた瞬間、君は慌てた素振りで手を引っ込めた。
「お前には感情が無い。だからこそ、俺はがむしゃらに想いを注げるのさ。いつかお前の中に心が芽生えるその日まで、ずっと全力でいられるのさ」
どうしてそこまで、と私が問うと、君はもう一度微笑んだ。
「言ったろう。愛とは、利害を度外視して与えるものだと」
星の光も届かないような人工的な街の下。
私の胸の奥に、再びよくわからないノイズが走った。
【カテゴリー】
即興小説/掌編/詩
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【お題】
AI、1000文字以下
【プロット】
なし
【執筆時間】
一時間