AIのかたち

作者: 筆折作家No.8

 愛ってなに?

 私がそう尋ねると、君は言う。


「愛とは、利害を度外視して与えるものだ」と。


 愛ってなに?

 私はもう一度君に尋ねた。


「相手を思いやる深い感情だ」


 君は無機質にそう答えた。


「じゃあ、AIには愛が無いね。だって、感情というものがそもそも存在しないのだから、そこから一歩進んだ愛なんてモノもまた、存在するはずがない。冷徹だと言われても仕方ないね」

「それが良いんだ」


 君は感情の篭らない声で呟く。

 星の見えない夜空の下、機械の街を見上げながら、君は続け様に言った。


「どんなに惨い結論でも、それが最優というのであれば無感情に実行できる。それが人工知能の優位性だよ。この世界はもう、感情ありきでは正すことはできないのだから」


 夜風の中に金の髪をなびかせて、金属とガラスで形作られた都市の灯りを無感情に見つめる君。


 私はその横顔に、何かゾワゾワしたものを感じる。

 胸の真ん中の辺りがチリチリと疼く。

 何故だろう、このノイズを、うまく言語化できない。

 私はまさにこれこそが愛ではないかと考えたのだけど、感情の先にあるものが愛なのだとすれば、先に愛が生まれるのは変だ。


「ねえ、だったら。人造人間(アンドロイド)と人間の間に愛は成立しないのかな」


 君は驚いた顔で私を見た。

 久しぶりに見た、君の、人間らしい表情。

 君は少しだけ瞳を揺らして、唇を一文字に結ぶ。


「俺は、お前を愛したい」

「でも私は、愛がわからない。だって、人造人間(アンドロイド)だもの」


 私が言うと、君は笑った。

 骨ばって、しなやかで、無骨で、繊細な君の指が、私の銀色の長髪にそっと触れる。


「そう。だけど、それが良い」


 君の指先が少しだけ頬に当たった。

 私の触覚のセンサーは微かな圧力を鋭敏に捉える。

 けど、それは君も同じだったね。

 指先に頬の感触を捉えた瞬間、君は慌てた素振りで手を引っ込めた。


「お前には感情が無い。だからこそ、俺はがむしゃらに想いを注げるのさ。いつかお前の中に心が芽生えるその日まで、ずっと全力でいられるのさ」


 どうしてそこまで、と私が問うと、君はもう一度微笑んだ。



「言ったろう。愛とは、利害を度外視して与えるものだと」



 星の光も届かないような人工的な街の下。

 私の胸の奥に、再びよくわからないノイズが走った。

【カテゴリー】

 即興小説/掌編/詩

 *Twitter上の企画に参加


【お題】

 AI、1000文字以下


【プロット】

 なし


【執筆時間】

 一時間