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僧侶

勇者「僧侶の死因については少し特殊なんで、問題は無しで。残念だけど勇者マークは諦めてね」


王様「…………」


姫様「…………」


勇者「さて、残りは俺と僧侶だけになった訳だけれど、結構大変だったのよこれが」


勇者「だってさ、人数は半分。しかも僧侶は戦闘職じゃない。そして、街に戻って仲間を集めてちゃ時間がどれだけあっても足りない」


勇者「なもんで、俺達は逃げながら魔王の城へ向かった」


勇者「勇者とバレないようにみすぼらしい格好をして、魔物を騙し討ちして、泥水をすすって、獣みたいになりながら向かった」


勇者「もう中毒とか気にしてられなかった。超回復薬だって、それ以上に強い薬だってガブガブ飲んだよ」


勇者「そうやって、ぐにゃぐにゃの景色を見ながら、何かの拍子にぶっつり切れちゃいそうな意識ではあったけれど、俺も僧侶も魔王の城までどうにか生きて辿り着いた」


勇者「っと……」ぐらっ


姫様「ゆ、勇者様!? 大丈夫ですか!?」


勇者「あー、大丈夫大丈夫。ごめん、ちょっと失礼して一服」


勇者「…………」スー……プハー……


王様「……勇者よ、もしやその葉巻は」


勇者「あー、うん。普通の葉巻じゃない。強い薬草と毒消し草を巻いて、煮詰めた聖水を染みこませた特別品」


王様「そのようなものを……」


勇者「悪いね。でも、これ吸わないとさ、ほら」プルプル


姫様「手が震えて……」


勇者「まあそういう事。ごめんねみなさん、もうちょっと待ってねー」プハー


シーン


勇者「うし、んじゃ続き。さて、どうにか魔王の城まで辿り着いた俺達だけれど、ここで俺がとんでもないヘマをやった」


勇者「魔王の側近に俺がいることがバレちまったんだ」


勇者「僧侶は運良く城の中で別行動をして情報を集めていたから大丈夫だったんだけれど、俺はそうはいかなかった」


勇者「どうにか魔王の側近は倒した。腐っても勇者だしね俺」


勇者「でも、俺も死んじゃったんだ」


勇者「僧侶が見つけたとき、俺はっつうか、俺だったモノは指のかけらぐらいだったみたいでね」


勇者「普通、人が蘇生するためにはその人のパーツ、肉片でも灰でもいいんだけれど、半分以上は欲しい。せめて三分の一は欲しいってのが常識でして」


勇者「つまり俺の蘇生は絶望的。ここで僧侶も諦めて帰っちゃえばよかったのになーとは今でも思う」


勇者「でもあいつは諦めなかった。俺の身体の再生と蘇生をすることにしたんだ」


勇者「と、ここで突発問題! ここで更に面倒な問題が発生します! それはなんでしょーか! 王様でも姫様でも、どちらが答えても構いません!」


王様「…………」


姫様「そういう気分ではございません……」


勇者「あーあ、残念。えーっと、勇者マークは……ひーふーみーよー……あー、足りてないねー。まあ後からだね」


王様「?」


姫様「?」


勇者「さて、その問題の答えとは、蘇生魔法は難易度の高い魔法だってことです」


勇者「元々、蘇生魔法を使う場合、簡易的な結界みたいなものを張って使うんだけれど、ここは魔王の城な訳で」


勇者「そんなもん張ったら、一発で魔王にバレちゃう可能性が高い。つうか確実にバレる」


勇者「そうなると俺の蘇生どころの話じゃないわけで」


勇者「更に、使う魔力だってべらぼうに必要で、今回はそれに高等な再生の魔法も混ぜ込まなきゃいけないときたもんで」


勇者「もうねー、奇跡でもおきない限り無理! 無理無理無理無理かたつむり!ってぐらいの無理難題だったのよ」


姫様「ですが、勇者様がここにいらっしゃるということは」


勇者「うんそう。でも、奇跡なんて起きてないよ」


姫様「え? でしたらつまり?」


勇者「すげえ強引な手を使ったんだあいつ」


姫様「強引な手?」


勇者「そ。だから死んだんだ」


勇者「俺が気付いたとき、辺りは一面真っ赤だった」


勇者「そんな中、身体を再生して、死んでたところを無理やり引き戻されたショックもあって、痛みや吐き気で転げまわってた」


勇者「でも嬉しかった。僧侶が必死になって蘇生させてくれたんだとわかってたから」


勇者「だから、ゲロをまき散らしながら、がくがく震えながら、それでも立って僧侶を探したんだ」


勇者「でも、僧侶は僧侶じゃなくなってた」


勇者「あたり一面に割れた回復の薬のビンや、使い終わった巻物なんかが落ちてた」


勇者「どれも魔力を回復するための代物だったよ」


勇者「僧侶が何をやったのかは簡単な話だ。色んな工程を魔力で強引に押し切ったってだけ」


勇者「当然、そんなことしたら魔力なんてすぐ空っぽになるわけで」


勇者「なので、無くなるそばから薬をがぶ飲みしたり巻物で強引に回復させて、また魔法を使ってってわけ」


勇者「でもなー。人の体って、限界みたいなものがあるじゃん?」


勇者「僧侶がやったのは、その許容量を遥かに越えるような事なのよ」


勇者「そして僧侶は……」


王様「魔力に耐えられず、消滅……か?」


勇者「だったらマシだった」


勇者「部屋の端っこにね、もぞもぞ動くものがあったんだ」


勇者「なんだろー?って思って近付いてみたら、子供ぐらいの大きさのピンクの肉がもぞもぞしててな」


姫様「や……やめて……」


勇者「やめねえよ。お前らが楽しみにしてたみんなの話だ。聞けよ」


勇者「あいつなー、僧侶なー、回復魔法を垂れ流すだけの肉の塊になってたんだよ」


勇者「どっかの文献にあったんだけど、回復魔法を延々と垂れ流し続ける石ってのがこの世にはあるらしくてさ」


勇者「僧侶は、多分それに近い物になったんだと思う」


勇者「つうか、そんな石より凄いもんになったとも言えるね」


勇者「それって一抱えぐらいあるんだけれど、持ってるだけで傷が治っちゃうのよ」


勇者「そんで、持ってたら僧侶の声っていうか、意識みたいなのが流れてきた」


勇者「『食え』」


王様「は?」


姫様「え?」


勇者「だから『食え』って言われたの」


王様「は? それは……」


姫様「何を……?」


勇者「僧侶だった肉を」


王様「…………」カタカタカタカタ


勇者「だから食った」


姫様「そんな……僧侶どのの最後がそんな……」


勇者「ああ、勘違いしないでね。僧侶は俺を蘇生してる時に死んだんだよ」


姫様「でも、先ほど僧侶どのは、その、肉に」


勇者「肉は肉。あいつと一緒にするな」


姫様「す、すみません!」


勇者「とまあ、そんな訳で勇者パーティーは全滅しましたとさ。おしまい」


王様「全滅? だ、だが勇者は」


勇者「ああ、俺? んー、どうなんだろ? 今の俺って勇者って言えるのかね?」


勇者「勇者ってのはさ、人のために生きて、人の為に魔王を倒す人でしょ?」


勇者「俺はさ、肉を食った瞬間から。いや違うな。もうずーっと前から、人の為になんか戦ってなかったと思うんだ」


勇者「誰かの為に戦ってたんだとしたら、仲間の為なんだと思うよ」


勇者「そういう意味じゃ僧侶が死んだ瞬間、俺はもう勇者なんかじゃなくなってたんだと思う」


勇者「一応ね、魔王は倒したよ。そりゃねえ、常に回復しっぱなしの状態ですもん。例え即死魔法打ち込まれても死ねないとかどうなのー?って感じですよ」


勇者「あー、そうだ。もう一個、重大なことがあるんだ」


王様「……一体、これ以上に何があるというのだ」


勇者「そう難しいことじゃないよ。簡単簡単。僧侶の願い事なんだ」


王様「僧侶の願い?」


勇者「そ。願い。あいつさー、魔法使いが死んじゃった後、俺に言ったんだ」


勇者「『もう二度と、勇者も、勇者の仲間も現れない世界にしてください』って」


勇者「惚れた弱みってやつだね。俺もうんって頷いちゃったんだ」


勇者「だからその願いを叶えたい」


王様「そ、それは魔王を倒して欲しいという事だろう?」


勇者「んー、そりゃ今の時代ってだけでしょ?」


勇者「魔王ってのはさ、例え今倒したとしても、いつかまた新しい魔王が産まれちゃう。数百年後か数千年後かはわかんないけどさ」


勇者「時代が証明してるよね」


勇者「だから俺は考えた。どうすればいいのかなーって」


勇者「そして思いついた。僧侶は魔王の出ない世界にしてくれといったわけじゃない」


勇者「勇者の現れない世界を望んだんだ」

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