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女王の手紙

 今、これを見ているあなたは驚いているのでしょうか? それとも怒っているでしょうか?

 出来れば、泣いていない事を祈ります。


 突然、追い出すような事をしてごめんなさい。許してもらおうとは思っていません。弁解する気もありません。

 この手紙は、何かを残したかったというわたくしの我儘で書きました。

 勝手だとは思いますが、わたくしが友人であると思っているあなたに、どうしても読んでもらいたいと思います。



 書きたいことは沢山あったはずなのに、こうして書面にすると不思議なもので、あれこれと浮かぶものの、何から書いていいやら迷ってしまいますね。

 公務の書面の方がまだ気楽だと言ったら、あなたは笑うでしょうか?


 昔、本で読んだ『友人への手紙』というものがこんなにも難しいものであったとは、自分がまだまだ何も知らない小娘でしかないのだと思い知らされます。

 それでも何とか頑張って書きますので、つたない文章ではありますが、どうかよろしくお願いします。



 あなた達が我が国へ来られたと聞いた時、わたくしの心は踊りました。

 恥ずかしい話ではありますが、わたくしは昔、大層おてんばで、お目付け役の目を盗んでは、様々な勇者様の活躍する冒険譚を読み、木で出来た剣を振り回し、悪い魔物を倒すんだと息巻いているような子供でした。

 今ではこうやって女王という席へ座り、偉そうにしてはいますが、実は今でも寝所に隠してある本を読んでは胸踊らせていたりもします。


 今だから書きますが、最初の謁見の際、わたくし緊張で少しだけ震えていたんですよ?

 あなた方とお話したことは、とても大切な。そして忘れられない思い出です。



 だからこそ、あなた方の話を聞いた時の衝撃は計り知れないものでした。


 冷静に考えれば、どれも当たり前の事だったのに、愚かで無知なわたくしは、英雄に憧れるばかりで、現実など何一つとして見ていませんでした。

 御存知の通り、わたくしはあなた方とそう歳も離れておりません。ただ違うのは、生まれ育った環境と、ほんの少しの立場の違い。

 それだけでどうして、こんなにも離れ、知ることも無く、分かり合うことも無く、悲しみや辛さをあなた方に背負わせる事となったのでしょう。

 もし願いが叶うならば、産まれ落ちたその時に戻り、あなた方を心から理解し、協力し、共に歩みたい。


 そんな後悔ばかりが残ります。



 勝手だとは思いましたが、謁見している際、わたくしは、あなた方の旅における各国の問題点を記録させていただきました。

 改善策を盛り込み、あなた方の国へと送らせて頂きましたので、後日にも何かしらの返答が王よりあるかもしれません。

 本当ならば、今すぐにでも手助けしたいのですが、それが行えないわたくしをどうか笑って下さい。

 贖罪という訳ではありませんが、どうか少しでも、あなた方の手助けとなればいいと願います。


 わたくしがあなた方を今すぐ手助けできないと書きましたが、その理由にも触れておこうと思います。

 これからの旅にも影響するかもしれませんので、心に留めておいて下さい。



 まず、これから先、どれぐらいの間になるかわかりませんが、我が国への入国は出来ません。勝手ながら、移動魔法用の魔法陣は使用できなくしてあります。

 昨夜遅く、隣の砂漠の国から宣戦布告された為です。

 噂で聞いたことがあるやもしれませんが、以前より、砂漠の国の王は肥沃な我が国を狙っておりました。

 実は、先ほどようやく会議が終わり、急いでこれをしたためている次第です。


 会議の結末がどうなったのか。

 結論として、わたくし達は砂漠の国と戦います。そして恐らく我々は戦争に負けてしまうだろうというものでした。

 現在は非戦闘員を出来るだけ国外へと逃がし、出来うる限りの抵抗を行うための準備をしている所です。


 わたくしはこの国へ残ります。父と母に託され、皆と共に作り上げたこの国が好きだから。そしていつか、あなた方がもう一度この国を訪れた時「お帰りなさい」と言いたいから。

 その為に出来ることを精一杯やる為に残ります。


 先ほど、負けてしまうと書いたのに、矛盾していますよね。自分でも少し笑ってしまいました。

 どうやらわたくしは、今もあなたとの再会を諦めきれていないようです。



 もっとお話したかった。もっともっともっともっと。


 どうしてこんなことになってしまったのでしょう。どうして? なぜ? ただわたくしは皆と共に、平和な国を作りたかっただけなのに。

 なぜ皆が手を取り合い、困難に立ち向かい、笑い合う事ができないのか。なぜ奪うことしか出来ないのか。

 神の力を借りるあなたなら、答えをお知りかもしれません。次にお会いしたとき、お話いただけたらと思います。


 支離滅裂な内容であることは自覚します。自分でも頭の中がぐちゃぐちゃで、読み返すのがとても怖いぐらいです。

 ですが、正直なわたくしを嘘偽りなくお見せしたかったので、あえてそのまま残しておきたいと思います。

 だから、再会の時は是非ともわたくしを見て笑ってください。



 そういえば、あなた方とお話した時、わたくしは一つとても印象に残ったことがありました。

 それは、あなた方が笑顔になることが極端に少なく、笑っても殆どが偽りの笑顔のように見えたことです。


 これはわたくしの勝手な想像に過ぎませんが、そうしてしまったのはきっと、わたくしを含む、何も知らない民や王族達のせいなのでしょう。

 だから戻ってきたあなた方には、どうか心から笑って欲しいのです。幸せになって欲しいのです。


 どうかお願いします。心を失わないでください。愚かな人々を見捨てないでください。

 そしてどうか、この愚かなわたくしのような者の事を忘れないでください。



 残念ながら、このお手紙もここまでのようです。本当はもっと色々と書き綴りたかったのですが、先ほど臣下の者に呼ばれてしまいました。

 だから最後に、臆病で、今にも逃げ出しそうなわたくしが、どうしても伝えたかったことを記します。



 それでも、逃げない勇気をあなた達がくれた。

 あなた達の旅に幸あれ。

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