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魔法使い

勇者「さて、魔法使いの死因だけど。よし、じゃあ王様! 魔法使いはなんで死んじゃったでしょー!」


王様「ま、魔物ではないのか?」


勇者「ブブー! ふせいかーい! 答えはー……」


姫様「……自殺、ではないでしょうか」


勇者「おお、凄いね姫様。だいせいかーい! 勇者マーク進呈! 拍手っ!」


シーン


勇者「なんだよもう。ノリ悪いなぁみんな。まあいっか。そんで姫様、どうして自殺だと思った?」


姫様「魔法使いどのが戦士どのを愛されていたとすれば、愛する殿方が居ない世なればいっそ……」


勇者「なるほどなー。うん、それも一つの理由だろうね」


姫様「では、他に理由があると?」


勇者「さあ? どうだろね」


姫様「はぐらかさないで下さい!」


勇者「だってさ、本当にわからないんだよ。わからなかったんだ俺達には」


勇者「戦士が死んでから、魔法使いは目に見てわかるほど変わったよ」


勇者「まあ、俺らみんな見た目なんて変わっちゃってたし、頭もどっかぶっ壊れてはいたんだけど」


勇者「でも、そういうんじゃなくて、魔法使いは……なんていうか、憎かったんだと思う」


王様「憎かった……魔王がか?」


勇者「魔王も含めてかな」


王様「魔王も含めて?」


勇者「うん。魔王も、魔物も、自分を置いて死んだ戦士も、戦士を救えなかった俺らも、自分も、きっと人間も」


姫様「そんな……」


勇者「きっと、全部全部憎くて憎くてたまんなかったんだと思う」


勇者「世界中が憎かったんだと思う」


勇者「魔法使いの魔法ってさ、結構えげつないのよ」


勇者「広範囲を爆破したり、でっかい炎で焼き尽くしたり、吹雪を呼んだりさ」


勇者「でも、そんなのは序の口でね」


勇者「あいつは戦士が死んでから、使う魔法なんかも変わったんだ。なんだと思う姫様?」


姫様「……魔法のことはあまりわかりませぬ」


勇者「ですよねー。普通に生活してたら、あんま馴染みないもんね攻撃魔法って」


勇者「えっとね、毒や酸の魔法をよく使うようになったんだ」


姫様「毒や酸ですか?」


勇者「うん。でね、ピンとこないかもしんないけれど、この魔法って凄いのよ」


勇者「まず酸だけど、魔法で造り出した強力な酸って、多分みんなが想像してるよりずっと怖い」


勇者「地面とか溶けちゃって穴が開いちゃうし、これを敵に当てたら……ね?」


王様「…………」ゴクリ


勇者「悲鳴がね、耳から離れないんだ」


勇者「腕が、足が、指が、目が、耳が溶けていく魔物の悲鳴」


勇者「最初に話したけど、魔王の城に近ければ近いほどに魔物の知能は上がっていく」


勇者「人の言葉でね、俺達の使う言葉でね、泣き叫ぶんだ」


勇者「魔物を食べるって話をしたじゃん? あれはさ、ある意味、まだマシなのかもしれない」


勇者「だってさ、生きるためじゃん。食べないと死んじゃうから殺して食べる」


勇者「動物が動物を殺して食べる。世界の正しいあり方なのかもしれない」


勇者「だけど、魔法使いは違った」


勇者「苦しめたいから殺す。憎いから殺す。殺したいから殺す」


勇者「狂った殺人鬼のでっきあっがりーってもんですよ」


姫様「う……ひっぐ……」


勇者「ありゃま、泣いちゃった。まずいなー、俺フェミニストなのに。ごめんなー」


勇者「でだ。毒の魔法なんだけど」


勇者「こいつは酸の魔法なんかよりえげつなかった」


勇者「王様も姫様も、ここに集まったえらーい人達も、あんま知んないかもしれないけれど、魔物だって集落みたいなものを作ってるんだ」


王様「なんと……」


勇者「意外だった? でもさ、知能は人並、下手したら人よりも知能があるかもしれない生き物が沢山いるわけよ」


勇者「それに、オスもいればメスもいる。それらがいるなら子供だってできる」


勇者「子供の魔物は当然大人なんかよりは弱い」


勇者「だから寄り集まって、集団生活するわけだ」


勇者「人となんら変わりはないよ」


勇者「魔法使いは、そんな集落で毒の魔法を使って回った」


勇者「正確には、集落の近くの河や、集落の中にある井戸水に」


勇者「当然、阿鼻叫喚の地獄絵図ですよ」


勇者「さっき言った通り、魔物にだってオスもいればメスもいる。子供もいれば年寄りもいる」


勇者「強いものも弱いものも混じって沢山いる」


勇者「そいつらを別け隔てなく、魔法使いは皆殺しにした」


勇者「そして、そんな地獄で魔法使いは笑ってた」


勇者「魔法使いってさ、さっきも話した通り、元々は箱入りのお嬢様なんだよね」


勇者「だから冒険に出た最初の頃は、笑い方も『オホホホホー』みたいな変な笑い方でさ」


勇者「そんな変な笑い方を見て、俺や戦士がちょっかい出して、真っ赤に怒った魔法使いを、困った顔で僧侶がなだめて」


勇者「そんな時もあって……楽しかったなあ」


勇者「おっと、話が逸れた。駄目だね、思い出を話すと、紐づいて色んな思い出が溢れ出てくる」


勇者「でだ。集落での魔法使いは、お嬢様だとは思えない顔でゲタゲタ笑ってた」


勇者「とっくに狂ってたんだ」


勇者「そして、そんな彼女を見ても何も感じない俺も僧侶も」


勇者「とっくにみんな狂ってた」


勇者「血の海を見ながらゲタゲタ笑う魔法使いを他所に、俺達はのろのろと食料をあさってガツガツ貪り食っていた」


勇者「僧侶は泣いてたのかもしれない。俺も泣いてたのかもしれない」


勇者「魔法使いも泣いてたのかもしれない」


勇者「まあそんなのはどうでもよくてですねー」


勇者「そんな事を繰り返してたある日の夜、俺達は凄いものを見たんだ」


勇者「どこまでもどこまでも下へ続いてるような崖があってね。その場所を渡ると魔王の城までもう少しって場所だ」


勇者「そこでキャンプをしていたら、テントの外で魔法使いがキャーキャー叫んでた」


勇者「狂ったような声じゃなくてさ、歳相応の女の子が、綺麗な服を見て騒ぐような、あの暖かい感じで」


勇者「気になった俺と僧侶がテントから出ると、空一面で星が流れてた」


勇者「流星群っていうの? 偶然、見ることができたんだ」


勇者「つい数時間前まで、集落を潰して魔物の死体をザクザク切ったりして遊んでた魔法使いだけれど」


勇者「この時だけは子供みたいにさ」


勇者「『すごいね』とか『綺麗』とか言っちゃってさ」


勇者「そんで、俺も僧侶もうなづいて、みんなで空をずっと眺めてた」


勇者「そしたら、魔法使いが言ったんだ」


勇者「『戦士にも見せたかったなー』って」


勇者「その辺の街中で、ふと言っちゃうような感じで。特別な感じでもなんでもなく言ったんだ」


勇者「次の日、魔法使いは居なくなってた」


勇者「崖の前に、魔法使いの杖と、これが置いてあった」


姫様「手紙……? まさか遺書……?」


勇者「なのかなー?」


姫様「え? 勇者様は中をご覧になってはいないのですか?」


勇者「いや見たよ? 俺も僧侶も中身を確認した」


姫様「でしたら、遺書ではない……? 中にいったい何が書かれてたのですか?」


勇者「見る? ほいよ」


姫様「あ、ありがとうございます。それでは…………ヒィッ!! こ、これは!?」


勇者「あっはっは。わかんないっしょ?」


姫様「うっ……うげっ……ケホッケホッ!」


王様「ひ、姫! 勇者よ! まさかこの書に呪いを!?」


勇者「いんや、呪いの類はかかってないよ。正確には、呪いは『もう』かかってないだけど」


王様「ど、どういうことだ!」


勇者「まずその手紙、魔法使いの意思かそうじゃないのかわからんが、最初はとんでもない強烈な呪いがかかってた」


勇者「俺でも近くにいるだけで意識がゴリゴリ削られるようなシロモノでさー。弱い人間や魔物なら、近くに寄っただけで死んじゃってたんじゃないかな」


勇者「んで、僧侶が必死になって呪いを解いたんだ」


勇者「そして、女の子の手紙だってのもあって僧侶が先に見たんだけど、ショックで気絶しちゃってさ。丸一日は動けなかったねー」


王様「中にはいったい何が……」


勇者「ぐちゃぐちゃの血文字っつうか、血で描かれた絵」


勇者「一つだけわかるのは、魔法使いはこれを見た奴全員を呪ってるんだと思うってことだけかな」


勇者「あいつ、世界中がどこまで憎かったんだろうなー」


姫様「酷い……こんなの……こんな絵、人の描けるものじゃない」


王様「ひ、姫っ!」


勇者「姫様に全面的に同意だね。そんなもん描ける魔法使いも、それを見てもほとんど何も感じなくなった俺も、もうとっくに人じゃないんだろうなあ」


勇者「とまあ、魔法使いの話はこれでおしまい」


勇者「じゃあ最後。僧侶の話をはじめようか」

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