<< 前へ次へ >>  更新
2/50

戦士

勇者「そろそろ、我らが誇る仲間たちの話でもするかな」


ザワザワ

「確か亡くなられたと……」

「先程の勇者様が言われたような思いをしてまで勇敢に……」

「おお……実に誇らしい……」

ザワザワ


勇者「えー、じゃあ死んでいった順番に話しましょうかね。っと、ここで姫様に第二問!」


姫様「えっ!? あ、ええと」


勇者「一番最初に死んだのはズバリ誰!?」


姫様「……っ!! ふ、ふざけないでください勇者様! そのように死者を愚弄するのは……!」


勇者「いいから答えろ」


姫様「ヒッ! ……で、では、魔法使いどの……?」


勇者「なるほどー、確かに見た目も中身も温室育ちの箱入りお嬢様だったしねー。体力もなかったし、魔物食う時も一番ギャーギャー泣きわめいてたのもあいつだ」


姫様「…………」


勇者「でもはっずれー。正解はー……ぱんぱかぱーん! 戦士でーす!」


姫様「せ、戦士どのですか!? そんな、あの方はこの国一の怪力で、身体も心もとてもお強い方でしたのに!」


勇者「うん、そうだね。あいつは強かったよ。俺らみたいに魔法が使えないからって、いっつも真っ先に魔物に突っ込んで体を張って頑張った」


勇者「だから真っ先に死んだ」


姫様「では、魔物の手によって……」


勇者「違うよ。第一、魔物にやられたんなら蘇生できるでしょ教会とかで」


姫様「確かに……それでは、戦士どのはいったいなんで……?」


勇者「俺が殺した。あいつに頼まれてな」


姫様「な!?」


ザワザワ


勇者「…………」


姫様「もしや戦士どのは、魔王に操られ……?」


勇者「いんや違うよ。自分の意志で俺に『殺してくれ』と頼んだ。だから殺した」


姫様「なぜ!? なぜそのような!?」


勇者「じゃあその辺も踏まえて話しましょうかね」


勇者「さっき話したように、戦士は真っ先に魔物に突っ込んでいく事を選んだ」


勇者「なので、誰よりも身体に傷を負った」


勇者「だから、誰よりも回復の魔法を受け、誰よりも回復の薬を使った」


勇者「結果、あいつは中毒になったんだ」


姫様「……中毒?」


勇者「あー、馴染みないか。そりゃまあ、回復魔法もこの辺りの薬草も中毒性は低いしなあ」


勇者「中毒ってのは、それがないと駄目な状態と考えててくれ」


勇者「さてさて、皆さんはこれをご存知ですか?」ちゃぽん


王様「そのビンの中身は……?」


勇者「だよなー。見たことないよね。これは、魔王城近辺に生えてる特殊な薬草を煮出して凝縮させた、超回復薬だよ」


勇者「こいつは凄いよ。例えば、腕が吹っ飛んだとしても傷口から再生しちゃう。ボコボコーって。トカゲかってーのって感じ」


王様「そのような薬が……」


勇者「まあ、死んでさえなけりゃあこれで治るよ。……身体はね」


勇者「でも、精神はそうはいかない」


姫様「精神……?」


勇者「そう精神。心ともいうかな。そこがね、壊れてくるの」


勇者「この薬はよく効く反面、とても強いんだ。強くて強くて、心をズタボロにできるぐらいに」


勇者「一口飲むと、激しい高揚感で何でも出来そうになる。実際、傷が治っちゃう訳だし」


勇者「でも、飲んで一時間後ぐらいかな。その辺りから副作用が出始める」


勇者「幻覚が見えてきたり、体の筋肉が弛緩したり、訳のわからないことを叫んだり、身体の中を虫が這いずり回ってるように感じたり」


勇者「そういう状態が半日ぐらい続くんだ」


勇者「だけど、そんな状態で魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ」


勇者「だから、こいつの副作用が出始めた頃に、精神を落ち着ける魔法をかけてもらうか、薄くした超回復薬をまた飲んでだましだましやっていく」


勇者「そんな事を続けていった結果、戦士はどうしようもないぐらいに心が壊れちゃった」


姫様「そうなってしまう前に、安全な場所に戻って養生することはできなかったのですか!?」


勇者「あー、俺が帰ってくる時に使った移動魔法ね。まあ確かに、あれを使えば一瞬でここには戻れたな」


姫様「だったら!」


勇者「でも却下だ」


姫様「何故!?」


勇者「移動魔法ってのは、移動先が限定されている」


勇者「この城にもあるよね? 移動魔法用の魔方陣」


勇者「だからここには戻れる」


姫様「戻れるのなら何故!?」


勇者「じゃあ戻った後は?」


姫様「……は? 後といいますと?」


勇者「戻って、治療して、すっかりよくなった後だよ」


姫様「それは……また魔王を倒すために……」


勇者「どうやって行くの?」


姫様「そ、それは移動魔法で……」


勇者「魔王の支配力が強い場所へ? 魔方陣も無いのに? どうやって?」


姫様「…………」


勇者「っと、いじめすぎちゃった。ごめんね。まあ、この辺りならね、姫様の案でも悪くないのよ」


勇者「でも、一日中どんな時に凶悪な魔物に襲われるかわからないような場所で。更には先に何があるかもわからない場所ではそうはいかないんだ」


勇者「魔物を殺して薬を飲んで、魔物を食ってまた殺して。傷ついて癒してまた傷ついて」


勇者「戦士はさ、薬の副作用で髪の毛なんてぜーんぶ抜けちゃってさ」


勇者「まあ俺ほどとは言えないまでも、それなりに整ってた顔とかもどんどん変わっちゃってさ」


勇者「笑うと糸みたいになって、見てるこっちが笑っちゃうような目も、常にぎょろぎょろしてギラギラしてるようになってさ」


勇者「俺に冗談を言ってはでっかい声で笑ってた口も、半開きでよだれ垂らして、ずーっとブツブツ言ってるようになってさ」


勇者「武器も鎧も盾も兜も、魔物の血で常に真っ赤でさ」


勇者「どっちが魔物なのか、わからなかった」


姫様「…………」


勇者「でさ、魔王の直下にあたる四天王の一人を倒した時、腕も足も片目も吹っ飛んで、内臓なんかでろーっと見えてる状態であいつ言ったんだ」


勇者「『殺してくれ』ってさ」


勇者「当然、みんな断ったよ。魔法使いなんて、普段は戦士と喧嘩ばっかしてたのに、すげえ泣いてんの」


勇者「涙と自分の傷から出た血でべちゃべちゃな顔でさ」


勇者「『あたしを置いて行かないでくれ』とか『約束したじゃないか』とかさ」


勇者「そしたらさ、戦士ぷるぷる震えながら、片方残った目を糸目にして、少し困ったようにさ」


勇者「『ごめんな』って言ってさ」


勇者「あいつら、きっと両思いだったんじゃないかなあ」


勇者「そんで、あいつ俺に『頼む』って言ってさ」


勇者「だから殺した」


姫様「ゆ、勇者様は悪くは……」


勇者「あー、そういうのどうでもいいのよ。ただ、俺が戦士を殺したって事は事実な訳で。それはどうしようもない現実な訳で」


姫様「でも……でもそんなのって……」


勇者「悲しすぎますーって感じかな? ありがとねー。お礼に勇者マークしんてー」


勇者「多分さ、戦士はもう限界だったんだと思うよ」


勇者「最後こそちゃんと喋れたけど、その前なんて『うー』とか『あー』しか言えなくなってたし」


勇者「何度も俺たちを魔物と間違えて攻撃しようとしちゃってたし」


勇者「魔法使いにさ、攻撃しようとしちゃったし」


勇者「ギリギリで気付いて、泣きながら壁にガンガン頭ぶつけたりしてさ」


勇者「みんなが止めても言うこと聞かなくて困っちゃったよ」


勇者「長くなっちゃったね。戦士の話はこんなとこかな」


勇者「次は、魔法使いの話だ」

<< 前へ次へ >>目次  更新