30ページ~35ページ
勇者が奇妙な葉巻を皆から隠れるように吸っていた。
聞けば吸うとよく眠れるそうだ。
私も吸いたいと言うと、勇者が悲しそうな顔をしたのでやめておくことにした。
眠れないのは辛いが、彼に嫌われるのは耐えられない。
◆
勇者が明るい顔で移動魔法を覚えたと言った。
これで食料と水の問題はかなり緩和されるだろう。
神は我らを見放してなどいなかった。
◆
悪夢は見るものの、どうにか眠れるようになってきた。
時間とは、神が与えてくれた免罪符なのかもしれない。
◆
勇者が旅の再開をみんなに伝えた。
正直、気が進まない。だが、彼は勇者だ。私たちの中心だ。
戦士や魔法使いも不満はあったようだが、結局、明日出発することになった。
◆
荷物をまとめ、出発の準備をしていた際、随分と荷物が減っていることに気付いた。
その減っている荷物の中に、勇者が大事にしていたいくつかの品が無いことにも気付いた。
彼に言うと、困ったような顔で「無くした」と呟いた。
ようやく私は理解した。
本当の商人でもない私達が、長期に渡って街に滞在するという事の現実を。
金銭は無限などではないという事を。
◆
次の街までの行程は順調に進んだ。
だが、私の心は重い。
勇者と戦士の間にも、以前のような気安い空気がなく、常に張り詰めた感じがする。
私たちは一体、何のために旅をしているのだろう。