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プロローグ1 この世界は

 世界に大陸は一つしかないと、神が告げた言葉を人々は信じられている。

 それが本当かどうかを、人間は知る術を持たないから。

 なぜなら、人間が住むことが可能な土地は、大陸のごく一部――神の祝福によって強い魔物が追い払われた、アユダ平原とマセール湾に限られているから。

 人々は長いこと、この肥沃な平原と漁獲豊かな湾の恩恵の下、時折現われる弱い魔物を退治しながら、安全に暮らしてきた。

 しかし人は増えるもの。

 人の住む規模が、村が町に。町が都市に。都市が国に。

 そう年月を経ていった後の、さらに何百年後。

 人の数が増えに増えてしまったことで、アユダ平原を全て宅地と農地に変え、マセール湾からの海産物を可能な限り集めても、人々の中に飢えを免れない人が出てくるようになってしまった。

 このままではいけないと、この時に大陸にある唯一の国――ベンディシオン国の王は決断した。


「危険な魔物が住む土地を奪い取って開墾し、湾の外へと出て新たな漁場を得る!」


 その宣言によって、物が食えない境遇の人々、戦いの腕に覚えがある人たち、新たな土地を得て領主となりたい者が、魔物が支配する土地――魔境へと進出した。

 しかし魔境の魔物は、平地に出てくる弱い魔物と違い、人間が相手にするには強力過ぎた。

 魔境の森の魔物は、鉄の剣で斬りつけようと一切傷つかず、鉄の鎧を纏っていても爪の一撃で絶命してしまうほどの強者だった。

 加えて、湾の外の海の魔物も強大で、派遣した大船団が一匹の巨大な魔物によって一夜にして全滅してしまうほど。

 送れば送っただけ消費されていく数多の人命を前に、号令を発した王は人間を守護する神に縋った。


「どうか我らに、魔物に対抗する力をお与えください」


 人間を守護する神は、その王の求めに応じ、世の人間に『天職』という力を与えた。

 だが神は、王の望みを完璧には叶えなかった。

 魔物に対抗する力を望んだのに、神が人に与える天職は千差万別で、その中には戦う力を持たないものもある。

 その事実に王は、こう理解した。

 神は、沢山の人死を出した者の望みを叶えたのではない。神は、これから先に死ぬ運命にある人々を憂い、その運命に抗うための力を与えたのだと。そして戦う力のない天職を与えられた者は、神から戦わずとも良いという許しなのだと。

 以後王は、戦う力のある天職の者だけが、魔境の開拓に従事できるという法を作った。

 そして戦う力のある天職の者についても、ただ魔境に送るのではなく、魔境で生き抜く術を学ばせる学校を作って育てることを法として決めた。

 それが、魔境開拓が始まった頃の歴史として教わる、数百年前の伝説である。

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