執務室
交流会の翌日 早朝、おれが部屋に戻って少したって、ドアがノックされた。
ポーチの中の書類を宝箱にしまい、新しい白紙を入れる。
手早く身だしなみを整え、ドアを開けた。
「早朝にすみません。陛下よりウィリアム王子殿下へ、朝食後に執務室へ来て欲しいとのことです。乳兄弟殿もご一緒してください。」
一礼して用件を伝えたのは、近衛騎士だった。
「わかりました。ありがとうございます。」
「では、失礼します。」
もう一度礼をして踵を返していく。
国王様からの呼び出しか、どうしたんだろ?
しかも、ウィルだけじゃなくて、おれもですか。
何かやらかしたっけ?
・・・・あのお願いのことかな?
あ、書類を入れた宝箱ってのは、登録した人間以外には絶対に開けられない造りで、貴重品などを入れるものだよ。
さて、と、母上とウィルを起こしますか。
「父上が?」
「はい。朝食をすませたら、一緒に行きましょう。」
「う、わかった。」
ウィルが渋るのは、分からんでもない。
おれもちょっと胃が痛くなってる。
いやー、結構王族には慣れたと思ったんだけどなぁ。
ウィルが朝食を食べ終わり、自室に入ったのを確認して、
おれも急いで支度する。
服を新しいものに着替え、髪を結び直す。
部屋から出る。ウィルはまだみたいだ。
「ジャック、大丈夫なの?」
「母様。大丈夫だよ。」
心配そうにする母様。
まぁ、いきなり我が子が呼び出されたら不安だよね。
「支度できた。」
「母様、行ってきます。」
ウィルを連れて、部屋を出る。
階段を下りていると、ケヴィン王子がいた。
ここ最近は国王様と一緒にいるんだけど。
ってそうか、おれ達の迎えにきたんだ。
「ケヴィン兄様!」
満面の笑みで王子に飛びつくウィル。
ウィル、ここ階段だって、危ないって。
元気なのは良いことだけどさ、心臓に悪いって。
「おはようございます、ケヴィン王子殿下。」
「あぁ、おはよう。ウィルも、おはよう。」
ふっと笑って挨拶をすると、ウィルの頭を撫でる。
・・・・許してもらえた、と思って良いのかな?
ケヴィン王子とウィルの後ろをついていく。
兄弟のやり取りって、見てて可愛いよね。
歩きながら、道のりと騎士の数を頭に叩き込む。
意外と騎士の数は少ないけど、巡回してる騎士もいるみたいだし、攻略しがいがある。
ん? 何企んでるかって?
真っ青になってる書類を届けるためだよ。
直接この手で届けないと気がすまないしね。
「ウィル、ジャック、一つ注意しておく。何を言われても、冷静でな。」
何のフラグですか。
「はい、兄様。」
「わかりました。」
このタイミングって、何かあるとしか思えねぇ。
えー、胃がキリキリしてきたんですけど。
顔を上げれば、荘厳な扉があった。
セピア色の木に植物のような模様が彫られている。
ケヴィン王子が扉をノックして、開ける。
待て待て、何で人がいる。
いや、警護の騎士はいるだろうけど、
武装してないし、あきらかに私服なんだよ。
あと、人数が多すぎる。20人ぐらいいる。
「ウィリアム、ジャック君、待っておった。」
朗らかに笑って、手招きをする国王様。
立ち尽くしている訳にもいかないから、部屋に入った。
「ウィリアム、街へ行く準備として、騎士達に稽古をつけてもらいなさい。自衛手段は身につけておいて、損はないゆえ。」
「はい。」
「カシュー。」
国王様の言葉で、私服の集団から男が歩みでた。
媚茶色って言うのかな? そんな色の髪をした人だ。
「ウィリアム王子殿下、第三騎士団の団長を任されています、カシューと申します。僭越ながら王子殿下の指南役をさせていただきます。」
第三騎士団か、父様が所属してたな。
ウィルは、今から訓練場に移動するらしい。
待って? おれはどうなるの?
「ジャック君には、少し話があるゆえ残ってもらえるかの?」
その言葉で、ウィルは騎士達と移動。
おれだけ、執務室に残された。
プレッシャーやばいんですけど、拷問ですか。
「すまんの、このような場で。」
首を横に振る。
まず、おれ喋っていいの?
「話というのは、街へ行く件のことだ。君が教えたのか、それとも他の誰かなのか、話してはくれぬか?」
なるほど、誰の入れ知恵なのか調べてるのか。
「僕ではありません。誰が教えたのかは知っていますが、口に出すことはできません。筆談でもよろしいでしょうか?」
「うむ、構わん。セバス、紙とペンを。」
セバスさんが白紙と万年筆を貸してくれた。
座るように促されたので、一礼して下座に座った。
――ウィリアム王子殿下の話では、ハンプ大臣殿から教えていただいたと聞きました。――
国王様のほうに紙を差し出す。
紙を受けとり目が文を追うと、目が鋭くなった。
「なるほど。セバス、すぐに騎士を向かわせてくれ。」
あ、ちょっ、待って待って。
「国王陛下、動くのは待っていただけませんか。」
「なぜだ?」
鋭くなった眼光が向けられた。怖ぇ。
「僕が書いたその方が、もしも何者かに指示を出していた場合。危険になるのは、王子殿下です。できれば、街から帰ってから、十分な証拠が揃ってから動いていただけませんか。」
あんだけ不正をやらかしてるんだ。
その分も含めて、裁いてもらわないと。
「それで、ウィリアムが命を落としたら、どうするつもりだ?」
「ありえない。僕が側にいる限り、何があろうと王子殿下が傷つくことはない。」
ウィルを含め、王子達や母様は守護対象だ。
絶対に守る。
「では、その実力、測らせてもらおう。」
「アドルフ!」
いきなり聞こえた声に、国王様が怒鳴った。
びっくりした。国王様って怒鳴るんだ。
部屋の中の空気がざわつく。
騎士達が狼狽えた。
「クロノス、考えてみよ。おれが認めれるだけの実力があれば、心配など無用であろう?」
「お主のは度が過ぎると言ったぞ。」
楽しそうに弾む声と対照的に国王様の声は怒り一色だ。
声の方には、しなやかな体躯の男がいた。
「昨日は、そこの子供が許可をくれれば、試しても良いと言ったではないか。」
「何年か先だと、お主が言っただろうが。」
「状況が状況なんだろう? 繰り上げることがそこまでおかしいか?」
ぐっと国王様が言い淀んだ。
えーと? この人は何者なんですかね?
「なにより、本人はどうなのだ?」
騎士や国王様の目が集まる。
ケヴィン王子が、首を横に振っていた。
ダメなんですか?
「なに、自信がないのなら断ってくれて構わん。」
「実力を測るというのは、具体的にどのように?」
やっすい挑発ありがとさん。
乗ってやろうじゃねぇか。
国王様とケヴィン王子が項垂れてたけど、無視する。
「武器は無し、素手のみで行う。魔法は使えるのであれば、自由にすると良い。昼食後、離れの庭でどうだろう?」
「分かりました。」
「アドルフ、わし等も同席するぞ。」
「構わん。」
「・・・ジャック君、一度部屋に戻りなさい。後で服を届けるゆえ。」
「はい。 失礼しました。」
一礼して執務室を出る。
トコトコと歩いていると、後ろからケヴィン王子がきた。
「ジャック、この前はすまなかった。」
そう言って、頭を下げられた。
「頭を上げて下さい。人の人間関係に口出しした僕が悪いのです。ケヴィン王子殿下が謝る必要はありません。」
「いや、感情的になりすぎた。あの助言、やってみようと思う。」
「・・・僕でよければ、いつでも相談に乗りますよ。」
「あぁ。・・・ジャック、午後からの、余り無理するなよ。」
「分かりました。」
ケヴィン王子はあの人、アドルフさんだったか、知ってるんだろうね。 ってことは、かなりの実力者ってことかな?
あー、もう一回魔法の復習しとこうかな。
来週までに次話を書きます。