前へ次へ
9/46

執務室

交流会の翌日 早朝、おれが部屋に戻って少したって、ドアがノックされた。


ポーチの中の書類を宝箱にしまい、新しい白紙を入れる。

手早く身だしなみを整え、ドアを開けた。


「早朝にすみません。陛下よりウィリアム王子殿下へ、朝食後に執務室へ来て欲しいとのことです。乳兄弟殿もご一緒してください。」


一礼して用件を伝えたのは、近衛騎士だった。


「わかりました。ありがとうございます。」


「では、失礼します。」


もう一度礼をして踵を返していく。

国王様からの呼び出しか、どうしたんだろ?

しかも、ウィルだけじゃなくて、おれもですか。

何かやらかしたっけ?

・・・・あのお願いのことかな?


あ、書類を入れた宝箱ってのは、登録した人間以外には絶対に開けられない造りで、貴重品などを入れるものだよ。


さて、と、母上とウィルを起こしますか。




「父上が?」


「はい。朝食をすませたら、一緒に行きましょう。」


「う、わかった。」


ウィルが渋るのは、分からんでもない。

おれもちょっと胃が痛くなってる。

いやー、結構王族には慣れたと思ったんだけどなぁ。


ウィルが朝食を食べ終わり、自室に入ったのを確認して、

おれも急いで支度する。

服を新しいものに着替え、髪を結び直す。


部屋から出る。ウィルはまだみたいだ。


「ジャック、大丈夫なの?」


「母様。大丈夫だよ。」


心配そうにする母様。

まぁ、いきなり我が子が呼び出されたら不安だよね。


「支度できた。」


「母様、行ってきます。」


ウィルを連れて、部屋を出る。

階段を下りていると、ケヴィン王子がいた。

ここ最近は国王様と一緒にいるんだけど。

ってそうか、おれ達の迎えにきたんだ。


「ケヴィン兄様!」


満面の笑みで王子に飛びつくウィル。

ウィル、ここ階段だって、危ないって。

元気なのは良いことだけどさ、心臓に悪いって。


「おはようございます、ケヴィン王子殿下。」


「あぁ、おはよう。ウィルも、おはよう。」


ふっと笑って挨拶をすると、ウィルの頭を撫でる。

・・・・許してもらえた、と思って良いのかな?


ケヴィン王子とウィルの後ろをついていく。

兄弟のやり取りって、見てて可愛いよね。


歩きながら、道のりと騎士の数を頭に叩き込む。

意外と騎士の数は少ないけど、巡回してる騎士もいるみたいだし、攻略しがいがある。


ん? 何企んでるかって?

真っ青になってる書類を届けるためだよ。

直接この手で届けないと気がすまないしね。


「ウィル、ジャック、一つ注意しておく。何を言われても、冷静でな。」


何のフラグですか。


「はい、兄様。」


「わかりました。」


このタイミングって、何かあるとしか思えねぇ。

えー、胃がキリキリしてきたんですけど。


顔を上げれば、荘厳な扉があった。

セピア色の木に植物のような模様が彫られている。

ケヴィン王子が扉をノックして、開ける。


待て待て、何で人がいる。

いや、警護の騎士はいるだろうけど、

武装してないし、あきらかに私服なんだよ。

あと、人数が多すぎる。20人ぐらいいる。


「ウィリアム、ジャック君、待っておった。」


朗らかに笑って、手招きをする国王様。

立ち尽くしている訳にもいかないから、部屋に入った。


「ウィリアム、街へ行く準備として、騎士達に稽古をつけてもらいなさい。自衛手段は身につけておいて、損はないゆえ。」


「はい。」


「カシュー。」


国王様の言葉で、私服の集団から男が歩みでた。

媚茶色って言うのかな? そんな色の髪をした人だ。


「ウィリアム王子殿下、第三騎士団の団長を任されています、カシューと申します。僭越ながら王子殿下の指南役をさせていただきます。」


第三騎士団か、父様が所属してたな。

ウィルは、今から訓練場に移動するらしい。

待って? おれはどうなるの?


「ジャック君には、少し話があるゆえ残ってもらえるかの?」


その言葉で、ウィルは騎士達と移動。

おれだけ、執務室に残された。

プレッシャーやばいんですけど、拷問ですか。


「すまんの、このような場で。」


首を横に振る。

まず、おれ喋っていいの?


「話というのは、街へ行く件のことだ。君が教えたのか、それとも他の誰かなのか、話してはくれぬか?」


なるほど、誰の入れ知恵なのか調べてるのか。


「僕ではありません。誰が教えたのかは知っていますが、口に出すことはできません。筆談でもよろしいでしょうか?」


「うむ、構わん。セバス、紙とペンを。」


セバスさんが白紙と万年筆を貸してくれた。

座るように促されたので、一礼して下座に座った。


――ウィリアム王子殿下の話では、ハンプ大臣殿から教えていただいたと聞きました。――


国王様のほうに紙を差し出す。

紙を受けとり目が文を追うと、目が鋭くなった。


「なるほど。セバス、すぐに騎士を向かわせてくれ。」


あ、ちょっ、待って待って。


「国王陛下、動くのは待っていただけませんか。」


「なぜだ?」


鋭くなった眼光が向けられた。怖ぇ。


「僕が書いたその方が、もしも何者かに指示を出していた場合。危険になるのは、王子殿下です。できれば、街から帰ってから、十分な証拠が揃ってから動いていただけませんか。」


あんだけ不正をやらかしてるんだ。

その分も含めて、裁いてもらわないと。


「それで、ウィリアムが命を落としたら、どうするつもりだ?」


「ありえない。僕が側にいる限り、何があろうと王子殿下が傷つくことはない。」


ウィルを含め、王子達や母様は守護対象だ。

絶対に守る。


「では、その実力、測らせてもらおう。」


「アドルフ!」


いきなり聞こえた声に、国王様が怒鳴った。

びっくりした。国王様って怒鳴るんだ。


部屋の中の空気がざわつく。

騎士達が狼狽えた。


「クロノス、考えてみよ。おれが認めれるだけの実力があれば、心配など無用であろう?」


「お主のは度が過ぎると言ったぞ。」


楽しそうに弾む声と対照的に国王様の声は怒り一色だ。

声の方には、しなやかな体躯の男がいた。


「昨日は、そこの子供が許可をくれれば、試しても良いと言ったではないか。」


「何年か先だと、お主が言っただろうが。」


「状況が状況なんだろう? 繰り上げることがそこまでおかしいか?」


ぐっと国王様が言い淀んだ。

えーと? この人は何者なんですかね?


「なにより、本人はどうなのだ?」


騎士や国王様の目が集まる。

ケヴィン王子が、首を横に振っていた。


ダメなんですか?


「なに、自信がないのなら断ってくれて構わん。」


「実力を測るというのは、具体的にどのように?」


やっすい挑発ありがとさん。

乗ってやろうじゃねぇか。


国王様とケヴィン王子が項垂れてたけど、無視する。


「武器は無し、素手のみで行う。魔法は使えるのであれば、自由にすると良い。昼食後、離れの庭でどうだろう?」


「分かりました。」


「アドルフ、わし等も同席するぞ。」


「構わん。」


「・・・ジャック君、一度部屋に戻りなさい。後で服を届けるゆえ。」


「はい。 失礼しました。」


一礼して執務室を出る。


トコトコと歩いていると、後ろからケヴィン王子がきた。


「ジャック、この前はすまなかった。」


そう言って、頭を下げられた。


「頭を上げて下さい。人の人間関係に口出しした僕が悪いのです。ケヴィン王子殿下が謝る必要はありません。」


「いや、感情的になりすぎた。あの助言、やってみようと思う。」


「・・・僕でよければ、いつでも相談に乗りますよ。」


「あぁ。・・・ジャック、午後からの、余り無理するなよ。」


「分かりました。」


ケヴィン王子はあの人、アドルフさんだったか、知ってるんだろうね。 ってことは、かなりの実力者ってことかな?


あー、もう一回魔法の復習しとこうかな。


来週までに次話を書きます。

前へ次へ目次