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交流会

同時に書いていた作品を一時的に止め、この作品一本に集中します。

交流会は、予想以上に軽かった。

子供が多いせいもあるだろうけど、それにしても軽い。


食事は中央を避けて等間隔に用意され、自由に食べれるようだ。中央では音楽が弾かれ、子供達がダンスを踊る。

端の方ではグループごとにお喋りが弾んでいた。


大人達は、護衛を除き別会場で休憩しているそうだ。

おかげで子供達がはしゃぐはしゃぐ。

ちょっと騒がしすぎて耳が痛い。


あ、子供って言ってるけど、転生したおれから見て、子供ってだけだから。それこそ小学生ぐらいの子から高校生ぐらいの年の子までいるよ。


ウィリアムや王子達は階段の上に、

おれや執事は階段の下に整列してる。

国王様達は別会場、大臣や公爵の一部はこっちに残ってる。

たぶんだけど、子供がいるんじゃないかな?


ちなみに、ハンプもいる。

さすがに子供ばかりのここで取り引きはしない、よな?

軽く警戒しつつ、見守る。


王子達から呼ばれたりしないかぎり、おれはやることがない。


そう、だな。

これからやらないといけないことでも整理しとこうか。


まずは、ハンプを捕らえるために、犯罪者であることを証明する確実な物的証拠を国王様に渡す。

今現在だと、書類の不備を指摘、訂正するぐらいか?


次に、街での様子を録音する道具を入手する。

言質をとれれば重畳。もしダメだったら諦めよう。


あとは、できれば魔除けの小瓶を補充しておきたいな。


1ヶ月以内に全て終わらせないといけないのか。

おれ一人だからな、ギリギリになるかもしれない。


敵がどれほどの勢力かも分からないんだ、やれるだけのことはやっておこう。

それにしても、おれの立場って結構厄介だよなぁ。

平民なのに王城に住んでいて、かなり豊かな生活ができる。

その上、王子達や上級階級の貴族との繋がりもできる。


出世を考える人間から見れば、邪魔な存在だよな。

人との関係は大事にしとこう。


・・・そろそろ会場に意識を戻しますか。



ジャックが考えに耽っている一方で、別会場ではジャックが話題に上がっていた。


「卑しい平民めが・・・」

「なぜあのような者を王子の側に」

「青い目など、不吉な」


ヒソヒソと紡がれる悪意に、国王ことクロノスは眉を寄せていた。

もとから彼は身分や姿形で人を見ることは嫌いなのだ。


「顔に出ておるぞ。全く、変わらん奴め。」


不機嫌になりつつあったクロノスを嗜める者がいた。


しなやかな体躯をした男だ。

鮮やかに煌めく濃い金色の髪の一部は赤く。

前髪から覗く目は、鮮血を固めたような濃い赤。

鍛えられた体は真っ黒な軍服のような物で包まれている。


声をかけられたクロノスは目を見開いた。


「アドルフ、来ておったのか?」


「友人の子の晴れ舞台だ、おれとて来るに決まっておろう。」


「・・・そうか。」


「王子の乳兄弟、だったの。なかなか肝が据わっておる。どこで見つけた?」


面白そうに笑みを浮かべたアドルフ。

クロノスは軽く睨んで口を開いた。


「偶然だ。ウィリアムの乳母を探しておったときに、たまたま見つけた。・・・手を出すなよ。」


「勝手に接触する気はないのでな。子供は苦手だと言うておるだろう。」


「そう言って、手を出さなかったことがあったかの?」


「・・・ないな。」


その言葉でクロノスの目が細められた。

アドルフは肩を竦め、降参だとでも言うように手を上げた。


「仕方ないだろう。見込みのある者を試したくなるのは、戦う者の性ゆえ。」


「お主のは度が過ぎるのだ。」


毒を吐くように言うと、深いため息をついた。


「何年か先でもかまわぬ。あの子供を試させてはくれぬか?」


「・・・あの子が許可してくれればな。」


クロノスから一応許可をとれたことで、アドルフは猫のような笑みを浮かべて、上機嫌に去っていった。


後々、このやりとりを知った本人が苦虫を噛み潰したような顔をすることになるのだが、今はそんなことを知るよしもない。



えーと、今の状況を説明しておこうか。

まずは、軽い自己紹介があって、王子達も会場に混ざった。

ウィリアム・・・もう、ウィルでいいかな?

王子達もプライベートのときはウィル呼びだし。


で、ウィルは、ケヴィン王子とセアラ王女の二人と一緒だ。

まぁ、初めての場だからね。

流石と言うか、第1王子、王女っていうだけある。

ものすごい人気なんだよね、あの二人。


ところで、大半が王子達の周りに集まってるんだけど、

一部は少し離れた位置でグループをつくってる。

何かあるのかね?


「離れている方々が気になりますか?」


長く見ていたせいか、声をかけられた。

隣に立っていたメイドさん。


セアラ王女のメイド、マリーさんだ。

フルネームは、マリー・クリスタさん。

王子達の執事、騎士の中で唯一の女性だ。


「はい。マリーさんは理由をご存知ですか?」


「えぇ。あの方々は、王家の今の在り方に何かしら不満を持っています。ですから、離れているのですよ。」


えー、そういう事ですか。

ある意味清々しいな。堂々と反発するとはね。


グループの中には、ダンスの相手をして怯えさせた子がいた。あのマーメイドドレスの子だ。

なるほど、だからああいう物言いだったのか。


まぁ、それが免罪符になりはしないんだけどね。

それにしても、あの子を含めてもかなり幼い子がいるのはなぁ。なんと言うか、さすがは王権社会。

女も子供も関係ないな。


交流会はその後も順調に進み、深夜にはお開きになった。

ウィルは同じぐらいの子と仲良くなれたようだ。

部屋に戻ってから嬉々として報告してくるものだから、微笑ましい限り。



消灯後、ウィルと母様が眠ったのを確認して部屋を出た。

やることがあるので、腰にウエストポーチを付けてる。

中には、何枚かの白紙とペン、小型のインク瓶。


ポーチは今年の誕生日にセアラ王女から貰った。

手作りらしいが、とても質が良い上実用性に優れていて、艶のある黒い布に、蔦のような植物と鳥が白や金の糸で刺繍されたものだ。結構物が入る。


ちなみに、ポーチに入っている物も似たようなものだ。

ペンは、ローザ王女から同じく今年の誕生日に貰った。

いわゆるガラスペンと呼ばれるペンで、シンプルな雫形の透明なペン軸は光にかざせば、薄い青と黄緑の2色で螺旋模様が浮かび上がる造りだ。

シンプルだけど綺麗で使いやすく愛用中。


ペンには専用のケースがあって、これは焦茶色でシース型。ふた部分の内側に『マートル』って焼印があったから、たぶんどこぞのブランドだと思う。


インクはシルク王子からだ。

ローザ王女と揃えて買ったんだろうね。

綺麗なコバルトブルーのインクが入ったインク瓶を貰った。


まぁ、そんな感じで、ポーチに文具一式が入ってる。


貰っといてこんなこと言うのはダメだろうけど、おれの私物って大半が王子達からのプレゼントなんだよね。

んで、色々プレゼントしてくれるのは嬉しいけどさ、花や植物の模様があることが多いんだよ。

後、ここ最近だと青系の色が増えてきた。


まぁ、青色は好きだし、花も好きだけど。

贅沢を言うなら、黒とか赤色が良いなぁ。

昔っから身の回りの物は、蛍光色や鮮やかな色より暗い色とかが多かったし。


そっと、音をたてないように下の階に行く。

廊下を進み、書斎に入る。

いつも通り書類を捲り、不備を見つけていく。


白紙に不備の指摘、訂正を書き連ねていくと、書類を一通り読み終える頃には、持ってきていた白紙は裏も表もブルーのインクで染まっていた。


書類と紙を重ねて紐で纏め、ポーチにしまう。

ちなみに、今の分だけじゃない。


今のは、たったの1ヶ月。

遡って、最低でも1年分は同じことをしないといけない。

・・・紙代もタダじゃねぇんだけどねぇ。


ひとまず、今日は時間がないのでここで切り上げる。

明日も来れるかなぁ?

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