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出発


ノーマード王国へ出立する日。

セアラ王女は国王様達から声をかけられ、抱きしめられ、送り出される。


おれはおれで、ウィルに捕まった。

いやもう物理で捕まった。

心配ゆえにって事は理解できたから宥めすかして何とか話してもらった。大丈夫だって。


「ジャック。」


アルイト王子に服の袖を引かれ、さりげなく紙を渡された。


「姉上を、頼む。」


「承知しました。」


王子達の仲の良さはよく知ってるもの。

皆がお互いを大切にしているし、それは執事や騎士の子達も含まれてる。全員含めて家族になっているのだから、団結力も相乗して高くなる。


何より、兄妹全員が仲良しで、王位継承権に関しても納得しているから、第三者が誰かを担ぎ上げたりすることもないし、暗殺だってない。

国の在り方とすれば、一国民として見ても良い国だ。

民からの信頼も厚いならば、多少のことではこの国は揺らがない。揺らがせてはならない。


おれに任された役目は、下手をすれば国を左右するほど重大責任を問われる。気は引き締めて行こう。


馬車に乗り、街に出る。

触れが出されていたから、大勢の人が道に集まっていた。たくさんの祝福や応援の声が聞こえる。中には、オリバー達やロカの姿も見えた。


今はまだ馬車の前面が開いていて人力馬車のような形をしているから、より集まっている人達が見えた。

セアラ王女は微笑みを浮かべ、手を振り返す。


チャーリーが力こぶを作っていたり、ジョシュアが頑張れと言ってくれたり、ロカは精霊を通じておれとセアラ王女達に祝福をくれた。


そっとイヤーカフに触れる。

オリバー達とロカへ。


「ありがとう。行ってくる。」


街を抜ける頃、馬車は一般的な馬車の形へ姿を変えた。パキパキと壁が作られ、着色、対面するように座席が作られ、内装が完成する。


うん、アルイト王子やシルク王子、ローザ王女、そして専門家達の叡知と努力の結晶だ。魔法を組み込んだ特別製の馬車。形が二種類あるのと、頑丈さ、高性能さが特徴。


コトコトと控えめな揺れに感心しながら、セアラ王女を見た。


向かいに座ったセアラ王女。

右向かいにメイドのマリーさん。

おれの隣にユイ君がいる。


ちょっと手の中にある紙に目を落とす。


『在学中、令嬢の間で足の引っ張りあいがあっていたそうだ。念のため、警戒はしておいてくれ。

頭上から鉢植えでも落ちてくれば婚約どころの話ではなくなる。

姉さんと殿下の仲は心配いらないよ。』


仲良しだなぁ。

字の違うところを見るに、ケヴィン王子、アルイト王子、ジェイド王子の三人だね。


というか、ちょい、アルイト王子や、不穏すぎるって。鉢植えが頭に落ちてくるとか殺す気じゃないですかヤダー((゜□゜;))

向こうのご令嬢怖すぎない?!

その行動力はもっと健全な方に向けなさい!


紙をそっとポケットに入れて、ふとセアラ王女の表情に違和感を感じた。何だかな、窓の外を眺めているだけなんだけど、上の空?遠い目をしてる。

マリーさんとユイ君も気付いたようで、紅茶と甘い物を用意してセアラ王女の気を引いた。

うん、大丈夫そうだね。


御者からコンコン、とノッカーを鳴らされた。

小窓から顔を出す。


「右手の森に何かいます。賊のようにも見えましたが、魔物らしき姿も見えました。」


「そのまま進んでいて下さい。」


一度頭を引っ込め、武器を腕輪を撫でる。

ふわ、と光の板が現れ、中に収納している物の一覧が出る。いくつかリストアップしておいて、不思議そうなセアラ王女に声をかけた。


「しばらく上に行きます。何かあればお呼び下さい。」


「分かりました。」


一礼して扉に手をかけた所で、服を引かれた。


「行く前に、私達だけの時は敬語は禁止ね?」


「え゛。」


「ふふ、ウィルから聞いているわ。素の口調はとても男らしいそうね?いつも堅苦しい言葉はいらないと言っても口調を崩さなかったのはその事を気にしているからかしら?」


ウィルーーーー!!!

何で話しちゃってるのーーーー?!


「丁度良い機会だもの、敬語は禁止。そうね、もし敬語を使ったら、ユイがお仕置をする、てのはどうかしら?」


待ってーーー!!

ユイ君にお仕置任せちゃダメだって!!おれが死んでまうがな!!この子、顔に似合わずえげつない攻撃するって知ってるからね?!それと無属性の魔法、特に重力系を好んで使うのも!!


「それじゃあ、行ってらっしゃい。」


ニッコリ良い笑顔のセアラ王女に送り出され、扉を開ける。素早く外に出て、取っ手を握り上に登る。

ちょっとしたスペースに座り、右の森を強化した目で観察する。


「賊。・・・あぁ、確かに魔物の姿もあるね。これは、従属させられてるのか。」


ゴブリンと呼ばれる人型の魔物に付けられた首輪には見覚えがある。奴隷に使われる物と同じヤツだ。


「気に食わん。」


これだけの馬車に乗っているんだ。

誰が乗ってるか何て察しはつくだろうに、無粋な輩だ。


腕輪を一振り、出現した弓を構えた。


「『風の矢』二の七乗。」


オリジナルの詠唱を口ずさむ。

キン、と張りつめた音で銀の光が矢を形作られた。次いで光が煌めき、その数は相乗されていく。

殺傷力は低めだけれど、吹っ飛びぐらいはするかな?


「てーっ。」


引き絞っていた弦から指を放す。

銀色の光が一閃。


ザアァッと広範囲に渡って木々が大きく鳴り、濃緑の葉が青空に散った。並走していた賊達はかなり奥まで飛ばされるなり、木に激突するなりして気絶したようだ。


「坊ちゃん、やりすぎです。」


御者さんから呆れたように言われた。


「ちょっと反省してます。残党も考えられるので、もうしばらくはここにいますね。」


「セアラ王女殿下の禁止令、ですか?」


苦笑する彼に、同じく苦笑して返す。


下に戻るとペナルティを連発しそうで怖いとか、ユイ君のお仕置が怖いとか、そんな事考えてないぞ。

ないったらないからな?


・・・残党、いないかなー(;・ω・)


次も来週末になるかと(;・∀・)

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