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奪還作戦中

インフルの猛威は凄まじい(-∀-`;)

皆様もお体にはお気をつけて。


奴隷、というものは一種の産業と言える。

ジャックの住むクリーオヴ王国を含め各国は奴隷を禁止し、法を施行し取り締まりも行っている。しかし、それを潜り抜けて横行するのが彼等、奴隷商人だ。


奴隷とされるのは、人狩りによって捕らえられた者、売られた者、スラムの住人と様々で、年齢や人種も多岐にわたる。一度奴隷商人に捕まれば、服従の首輪をつけられた。

服従の首輪は魔道具で主人の命令には絶対服従、抵抗や反逆には壮絶な痛みを伴うように仕掛けが施されている。


また、商人達は運ぶ際に万が一を考慮し食事は一切与えない。水も二日に一度ほどで痩せ細った商品を売り捌いて稼ぎに変える。

その段階に一定の期間は一所に留まらなければいけなかった。


今回、ジャックが乗り込んだのも商人が奴隷を集め弱らせる為の施設。その一つで、今しがた増えた奴隷に付ける首輪を用意していたまとめ役のコーサは戸惑っていた。


「おい?!さっきから何の騒ぎだ?!」


外からは仲間の叫び声がする。

断続的に響く声に轟々と地鳴りのような音が重なり、嵐でも来ているかのようだ。

だが、この時期に嵐などありえない。


「こ、コーサさん!!」


転ぶように駆け込んで来た新入りの仲間にコーサは肩を跳ねさせ、鋭く睨みつけた。


「何慌ててやがる?!」


「も、もうダメです!化け物が!悪魔が来やがった!!」


「はぁ?!」


それきり仲間は頭を抱え、ガタガタと震え始める。

コーサが怒鳴るように声をかけようと正気を失っているのか、返答はなく震えるのみ。


「くそっ!何だってんだ一体!」


痺れを切らし、外へ出たコーサは言葉を失った。

そこら中に仲間が倒れている。

黒いナニかが地面で蠢いていて、また一人倒れた。

サリ、と砂の擦れる音がコーサのすぐ側で響く。


「っ?!ひっ。」


ユラリ、と立つのは長い銀髪の子供。

胸元まである長い髪がサラサラと揺れ、爛々と光る深紅の瞳がコーサを射抜く。


「お前がここの責任者か。」


子供とは思えない低く大人びた声。

ビクリ、とコーサの体が震え、玉のような汗が浮かぶ。


「答えろ。お前がここの責任者か。」


「ぉ、俺だ。」


「そう怯えるな。大人しく指示をきけば殺しはしない。」


一瞬、ほんの一瞬だけ、コーサは子供を捕らえようとした。自分が握る服従の首輪をつければ勝てる、この珍しい色の子供を自分の物にできる。


しかし、その思いは凍てつくように冷えた子供の眼差しによって即座に殺された。


「殺しはしない。」


もう一度繰り返される言葉。


「魔道具の解除には持ち主の『声』がいるからな。余計だと言うのであればその不要な手足、切り落としてしまおうか?」


こてり、と傾げられた首に妖艶に笑うその表情。

ぞぞぞぞっと駆け上がった恐怖にコーサは声もなく意識を飛ばした。


子供は少しため息をつき、コーサを引きずって奴隷が押し込められている掘っ建て小屋へと足を踏み入れる。

微かに聞こえる声とすすり泣く音、すえた臭いが鼻をつき、鎖の揺れる音がした。


「マコ君、どこにいるかな?」


「・・・兄ちゃん?」


ジャララッと音がし、ヨロヨロと近付いてきた幼い少年に子供――ジャックは眉を寄せた。

マコの頬が青紫に変色している。

細い手や足、首には大きく武骨な金属の枷が付けられていた。


「何で目の色が変わってんの?」


「魔法を使ってるだけだよ。すぐ外すから。」


ジャックが鎖を外しにかかると、周りにいた奴隷達がマコに声をかける。


「少年、家族か?」


「良かったねぇ、早く逃げな、ここにいちゃいけないよ。」


カシャンッとマコの枷が外れる。

同時に、全ての奴隷からも枷が外れて落ちた。

残されたのは服従の首輪のみ。


呆然とする奴隷の前で、ジャックは軽く手を叩く。


「照らせ『光球』」


ふわ、と柔らかなオレンジの光を放つ握り拳大の球が現れ、部屋に散ってゆく。

60人強の人がいた。

中には獣人種の姿もある。


「服従の首輪もこの後解除します。その前に確認をしますが、皆さん、まだ生きる気力はありますか?」


何人かが側に座る、廃人寸前の者を見る。

ダラリと落ちた手に光のない目。ジャックの言葉すら聞こえていないのか、何の反応も起こさない。


まだ気力がある者達は頷き、ジャックを見た。


「生きたい人は僕がスラムに建てる施設に入って下さい。生きる術と技術を教えます。衣食住を提供し、仕事や将来を選らばせます。既に気力を失った者には治療を施しますので、側の方、運ぶのを手伝って下さいね。」


よろしいですか?と尋ねれば、希望の見えた彼等は喜びを胸に頷く。


ジャックはその様子を満足そうに見ると、横に転がっているコーサを軽く蹴っ飛ばした。


「っぐ?!な、にしやが――」


「静かに。」


ひたり、とコーサの首に手を当てるジャック。

喉を引きつらせ、コーサが黙れば手を離した。


「首輪を外せ。従えば、そう痛い思いはしなくて済む。もし、別の行動をすれば、命以外の全てを奪う。」


ベッとコーサの頭を雑に叩き、促す。

渋々、ポケットから小さな器具を取り出す。

手の平に収まるぐらいの魔晶石を用いた魔道具だ。


「主として命じるこのガキを――」


早口にと言いきられる前に、シャコッと影がコーサの右肩を包んだ。否、右肩を切り裂きその腕を落とした。


「ひっ?!」


「馬鹿が。」


ジャックが冷たく言い放つ。

右腕を無くしたコーサはハクハクと口を動かし、涙を流して横に倒れた。血は流れていない。影がその傷口を塞いでいるからだ。


「首輪を、外せ。次は残りの四肢だ。」


「ぁ、あ゛ぁ、じたがぅ!したがう゛から゛!主として命じる!自由だ!服従を解く!だがらだすげで!!」


ガシャンッと首輪が落ちた。

泣き喚くコーサにジャックは少し微笑んで見せた。

その柔らかな笑みに、コーサは安堵し、ジャックに左の手を伸ばす。


「おやすみ。次会う時は地獄でな。」


パチッとジャックが指を鳴らす。

コーサは影に呑まれ、意識を失った。


ジャックはイヤーカフに触れ、クスターへと連絡をとる。


「全員を院に案内してくれるかな?」


『ご命令とあらば。・・・主っ、ウィリアム王子が!何故ここに?!そちらに向かって、あぁ。』


「おいおいおいおい、何の冗談だっ。今すぐこっちに来い!ウィルはおれが行く!」


その場を飛び出すジャック。

数秒後、入れ替わるようにクスターが現れた。


「院へ案内する。ついて来い。」


不安や戸惑いはあるものの、それぞれ手を貸しあいクスターに続いてスラムへと歩いて行く。



そして、一方でジャックはウィリアムと対峙していた。


「ウィル!!」


声を張り上げられ、ウィリアムは肩を跳ねさせた。

顔は蒼白で手足は震えている。


「どうしてここに来た?!ノエルやシルバは?!帰れと言っただろう?!」


「じゃ、く?これ、は?これは、何?」


頭を押さえ、ジャックは大きく深呼吸を繰り返す。


「・・・すぐ終わる。側に。」


「ジャック!ウィル!」


走って来たのはシルバだ。

彼の握る剣にはべったりと赤いものがついている。


「シルバ!剣は仕舞え!!」


雷を落としたのはジャックだ。

さっきまで上がっていたのを無理矢理沈めたため、一気に頭に血が上った。ほぼ何もしていないのだが、雷を落とされたシルバはびっくりし、咄嗟に剣を背に隠した。


「今、すぐに、ウィルを連れて帰れ。」


「だ、だが、この人達は?」


「じきに騎士が来る。」


言外に何もするなと言われ、シルバは剣を腰に戻し、ウィルを抱える。ジャックはまた頭を押さえていた。


「ジョシュア達は?」


「ノエルと馬車で待ってる。ウィルが飛び出して、全員がバラバラになるよりはマシだと。」


ジャックが両手で顔を覆った。


「・・・お――僕が城に戻ったら、話がある。合流して、帰ること。良い?」


「わかった。ウィル、行くぞ。」


シルバにしがみつき、顔を押し付けているウィルを見送り、ジャックもスラムへと戻っていった。


後日、奴隷商人から漏れた情報によって一つの市場が検挙され、多くの奴隷商とその関係者が拘束された。

解放された人々は家に帰されたが、中にはスラムへと流れた者も少なくなかった。彼等を迎えたのは、同じ場所を知る仲間達。


寄る辺なき者の集う場所が、また新たに増やされる。


少し遅れてしまいましたので、次話は明日の昼頃に投稿します。

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