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一次解散


滞在最終日の三日目。

手伝ってくれている人達の手も借りつつ、ポトフを仕込む。ついでに、料理に心得のある人にはレシピ集を渡しておいた。


「食材と器具は今ある分と、あの馬車に乗っている分は差し上げます。しばらく、炊き出しを続けてもらえますか?」


「ジャック君のお願いなら、もちろん。」


「あたし達にできることならなんだってするよ!」


母は強し、だなぁ。

元気になった子達は院の子達と遊んだり、手伝いに来てくれてる。警戒している子もいるけれど、攻撃してこないから今の所は様子見。


少し問題があるとすれば、尻尾が中々出てこねぇ。


「ジャック、どうかしたのか?」


「んー、ウィル達をどうやって帰そうかなって。」


もう少しここに用があるから、期限になったらウィル達だけでも帰さないといけない。


「やっぱり残るのか。」


「ごめんな、連絡はいつでもして良いから。」


「手伝いは?」


「ダメ。危ない目にあうかもしれないだろう?」


ムスッとされた。

そんな顔してもダメなもんはダメ。

一国の王子であり、おれの義弟なんだから、怪我なんてさせられない。もう少し大人になってから、ね。


撤収準備を進めつつ、オルーギオと学校の話をする。


「隣の建物なら空いてる。」


「ではそこを。手を加えればすぐに出来るでしょうから、一段落ついた時にでも改装しますね。」


建物内で遊ぶ子供達を見て、少し和んだ。

クスターは場所を移して隠れてるそうな、見張ってるとか何とか。


「小僧。」


後ろの方から腰の辺りを小突かれた。

いて。


「グーはないです。グーは。どうかしましたか?」


腕を組んだミングからジトッとした目を向けられた。


「まだ休んでないじゃろ。寝ろ。」


「いや、まだ準備もありますし。」


「ほう?ロカじゃあるまいに、そんな口先だけで誤魔化そうと?力ずくで眠らせてやろうか?」


殺気まじりにバトルアックスを構えられ、さすがに焦る。


「分かりました。分かりましたから、武器は仕舞ってください。」


下手したらそのまま死ぬがな!?

鼻を鳴らされ、休憩室に連れて行かれた。

待っていたのはヒースだ。


あぁ、はい。

逃がす気はさらさらないと。

わかったわかった、大人しく寝ますよ。

ふて寝に近い気分だけど寝た。


寝て起きたら、ヒースとミングはいなくなっていて、代わりにキアラちゃんとシルバ君がいた。

キアラが一緒に寝てて、片手を握られてたから一瞬びっくりした。シルバ君はベッドの側で読書中。


「もう起きたのか?」


「おはようございます。どのくらい寝てました?」


「二時間ぐらいだ。」


うん、結構寝たと思ったけど。

まぁ短時間でもスッキリしたのはよきかな。

キアラちゃんはまだ寝ていて、うん、手を離さないね。どうしよっか?


「ぅ、じゃ、く?」


「起こしちゃったかな?」


「おひるね、できた?」


「できたよ。ありがとう、キアラちゃん。」


頭を撫でると、猫のように目を細くする。可愛い。


「じきに帰るから、キアラとまた離れることになる。」


「ん、だいじょうぶ。」


寂しそうだけど、そう言ったキアラちゃんをシルバ君が抱きしめていた。

離れ離れになるうえ、ここの治安を考えれば置いていきたくないってのが本音だよなぁ。


休憩室を出て、帰る準備を済ませたウィル達の所に。

ジョシュアとチャーリー、レオの三人が護衛として一緒に帰ることに決まった。ギルドの紫にはなってるからね、護衛としての腕は大丈夫。

ちょっとふてくされ気味なウィルを宥めて送り出す。


「本当に良かったのか?」


「うーん、後で機嫌とらないとなー。」


ふと通信が入って、イヤーカフに触れる。


「何かありましたか?」


『主、動きがありました。木の仮面をつけた者が五人。そちらへ。』


「報告ご苦労様。その場で監視を続けてて。」


通信が切れる。


「ロカ、警戒しといて、表見てくる。」


「はいよ。」


院の方に顔を出す。

こっちで遊んでる子達がいるからね。


「マコ!!」


マコ君のお母さんの声がした。

ちょうど、仮面をつけた怪しそうな奴がマコ君を抱えて走り去る所で。


「中へ避難!子供達を一ヶ所に集めて!僕は追いかけます!」


指示を出せば、子供達がすぐに避難する。

マコ君を拐った奴は、すぐに仲間っぽいのと合流してどこかへ向かっていく。

バレないように追いかけると、森のかなり奥に掘っ建て小屋がいくつか集まって建っている場所があった。


「主。」


「や、クスター。あそこに子供達が?」


「恐らくは。」


「おけ。じゃあ、ここで待機しといて。巻き込むからね。」


クスターは小首を傾げて半歩下がった。


「赤き月が照らす地で、闇は歌い影は踊る『紅月灯影』」


ジワリ、と影が滲み広がっていく。

おれの目は今、深紅に変わってるだろうね。


完全に演出重視だけど、される向こう側からすれば恐怖の具現化だ。堪ったもんじゃないだろうね。


さぁ、ショータイムだ。

せいぜい罪を悔い改めるんだな。


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