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見つけた××


炊き出しの結果は重畳。

材料を多めに買っておいて良かった。


「ジャック、休憩は良いのか?」


「大丈夫。」


寝なくても動けるからな。

前で患ってた睡眠障害のおかげというべきか、呆れるべきか。まぁ、後でちゃんと寝るけど。


「ここだけの話。アレ、何か入れたか?」


アレ、と言われたのは配分してるミネストローネのことだ。小首を傾げて誤魔化そうとした。

ら、目を細められた。ひゃ、怖。


「スープだけで劇的に体調が回復するか。」


「怒るなって、水薬だ。少しだけ回復するように仕込んでた。まぁ、こっちの少しが向こうには多かったみたいだけど。」


一日目に配った夜食と、今日の朝食の二食分だけにも関わらず、かなり元気になってる。

脚気は薬の効果で回復しつつあるし、壊血病で壊死した腕や足に関しては見つけしだい魔法で治してる。

たった半日ほどで、子供達や一部大人達が手伝いを申し出てくるまでになった。


「なぁ、これは向こうで良いのか?」


「はい、衣類を配ってるテントにお願いします。」


荷下ろしを手伝う青年に指示を出し、追加の鍋を出す。


「意外と減りますね。昼からは変えますか。」


「え゛。」


ロカが変な声を出した。

潰された蛙みたいな声出てんぞ?


「昼と夜の分ぐらいなら、ストックがあるから仕込みはいらないよ。明日の分は後で手伝ってもらうけど。」


「もう一回はあるんだな。」


うん、こればっかりは頑張るしかない。

ミネストローネばっかりだと飽きるだろうし、他の栄養もとって欲しいからね。


新しく運ばれて来た子供は協会に。

一人ずつやると燃費が悪いから、五人ほどまとめてするようにした。容態が悪い時は先にするけどね。


テントに戻って皿にミネストローネをよそって、配分。うん、顔色が良くなった人が増えてきたね。

少し安心、かな。


「兄ちゃんっ。」


息を切らしてやってきたのは最初の患者でもある女性の息子。栗毛をしているのでマロ君と呼んだら、マコ君と言うそうだ。ニアピン賞だったから我ながら驚いた。


「マコ君、どうしたの?」


「クスター達が来る!アイツ等、傭兵崩れで危ないんだ!」


「クスターだと?」


「うそ、森から出てきたの?」


マコ君の報告に、並んでいた人達へ情報が伝播していく。

何でも、かなり手癖が悪く乱暴者だとか。

通行人から金品は奪う、人を痛めたり、最悪殺したりもする。スラムの人々からも怖がられている連中らしい。


ほうほう。


「あーぁ、おれは知らねーぞ。」


ロカが頭を押さえて空を仰ぐ。

残念、広がるのは灰色の曇天模様だ。


そうこうしている内に、足音も高らかに男達があらわれた。粗末な服に獣の皮をなめした武具。目立つ場所に剣や武器を持ち、ある者は干からびた頭をアクセサリーのように身に付けていた。

人々がザッと道を開ければ、ニヤニヤと笑みを浮かべて悠々と歩いてくる。


ロカに目配せをし、エプロンを取ってテントの前に立った。


「よぉ、お貴族様の坊ちゃん。俺達にも飯を分けてくれよ。」


「うまそーな匂いじゃん。鍋ごともらえるかぁ?」


ゲラゲラと何がそんなにおかしいのやら。

あ、ウィルがシルバ君達に抑えられた。

飛び出したりしないでねー。


「何突っ立てんだよ?早くよそってくれねぇと、腹へってんだ。」


「そうだな、早くしてくんねぇとうっかり手が出ちまうかもしれねぇからなぁ!」


「・・・負け犬ほどよく吠える。」


「あ?」


男達の顔から笑みが消える。

おれはニッコリと笑って先頭に立つ男、こいつがクスターだろうな。クスターを見る。


「あぁ、良かった。耳はちゃんと聞こえているみたいですね。昨日、おれ(・・)は配分する条件を言いました。一列に、順番を守って並べと。何故幼子でも守れる条件を破る畜生以下に食事を与えなければいけない?」


列の最後尾を指差す。


「欲しければ並べ。並ばぬ者に食わせる飯はここにない。」


「て、めぇ、このガキィ!!俺達を誰だと思ってやがる!!」


腰巾着が剣に手をかけて怒鳴る。


「無作法者共で十分だろ。」


「んだとゴラァ!!」


「用がないなら疾く失せろ。配分が滞ってるのが見えないか。」


怒鳴ろうとした下っぱを、クスターが片手を上げて止めた。あ、こめかみに青筋。口のはしがピクピクしてる。


「坊ちゃん、良い度胸じゃねぇか。よほど痛い目を見てぇらしいな?」


「やれるもんならご自由に?」


挑発してやれば剣を抜いた。

手早くヒース達が住人を誘導し、場を開ける。

そちらに視線を向けていれば、風を切る音。

ザクッと派手に音が響いた。


「あ?!」


悲鳴のような声が響く。

赤い液体が地面に染みを作った。


「さて、誰が痛い目を見ると?」


おれは無傷で悠々と桜草を握る。

クスターの剣の柄を踏んで押さえつけ、喉元に突きつけた刃は小さな傷を作り、血の玉が刃先を伝って落ちていく。


「もう一度言うぞ、欲しければ大人しく並べ。」


「ぁ、わ、かった。並ぶ、並べば、良いん、だろ。」


「物分かりの良いことで。」


桜草を引き、傷を治してやる。

渋々ではあったが、ちゃんと列に並んだ。


「あ、他の人を脅したり怖がらせたら量を減らすから、悪しからずー。」


盛大に舌打ちされた。

する気だったな?


「さぁ、配分を再開しますよ、次の方どうぞ。」


エプロンをつけなおして作業を続ける。

まったく、もめ事を持ち込むなというに。


マコ君からキラキラとした目を向けられ、ちょーといたたまれないというか、落ち着かない心持ちになるねぇ。

そんな目でみないでー、良心が痛むからー。


そう長い時間を空けることなく、クスター達の番が来た。


「貴方達には少しオハナシがあるので、日陰で待っているように。」


「はぁ?」


「悪いようにはしませんよ。残っていたなら、報酬でも出しましょうか?」


舌打ちされたが、大人しく指示を聞いてくれるようだ。

うんうん、従順な子は好きだよ。


意外と進まない( ;∀;)

次話は、早ければ五日以内に。

遅くても一週間後には更新します!

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