スラム
予定より立て込んで遅れました!
すみません!!
そして、お待たせしました!!
スラムは一つの街になっていた。
かろうじて形を残す廃都市に布や木で居住スペースを作り、街並みを複雑化させる。
一応、組織はあるのだろう。
子供達の集まりや、武器を持つ者の集まり、食事を配る大人達も見えた。
「先に院に。協力を仰ぎたい。」
「案内ならおれが。」
シルバ君が院まで案内してくれた。
天井の一部が抜けた廃教会だ。
中に入れば、光が射す場所には花が咲いている。
「キアラ!それにシルバか!」
来客に顔を出した男性が声をあげ、シルバ君の肩を叩く。キアラちゃんの頭を撫で、喜びを露にしていた。
片手には木の杖を握っていて、歩く速度は遅い。
「無事で良かった。帰りが遅くなっていたから、何かあったのかと。それで、後ろは誰だ?」
「あぁ、少し話があって。」
「わかった、こっちだ。荷はちび達が見てるから安心しな。」
奥に通される。
丸太を切った椅子に石を積み上げた机。
恐らく食堂のような場所なんだろう、広い部屋だ。
その片隅に座る。
「おれはオルーギオ、ここのまとめ役をしてる。」
「初めまして、オルーギオ氏。僕はジャックと言います。この一団のリーダーが僕です。」
「ほう、いくつだ?」
「10を迎えました。こう見えて、ギルドのハンターです。」
タグを少し見せれば、目を見開かれた。
うん、銀色だしね。
「こんな所に、何の用で?」
「炊き出しをしようかと。」
ニッコリと笑みを浮かべて言えば、少し眉を寄せられる。
「坊ちゃん、おれ達は確かに貧しい生活をしてる。泥水を啜ったり、木の根をかじってしのぐ日もある。それでもな、施しに甘んじるほどプライドがねぇわけでもねぇんだわ。」
ダンッと机に叩きつけられる拳。
細かな傷痕や切り傷などが刻まれた年期のはいった手だ。
「えぇ、知っていますよ。知った上で言わせていただきます。・・・んなプライド知ったことか。」
ウィルを含め全員からギョッとされた。
一斉におれを見る一同に少しだけ笑みを見せ、オルーギオを見る。
「キアラちゃんから子供が消えたと聞いている。食料、生活用品などが不足し、略奪やスリが横行し、女性や子供の安全が確保できない状況だとも。だからここに来た。施しだと?これは先攻投資だ。一度きり、自己満足で終わる金持ちの道楽と一緒にするな。不愉快極まりないっ。」
「先攻投資?」
ロカに軽く肩を叩かれ、深呼吸。
ちょっと口が悪くなった。平常心、平常心。
「人間は危機的状況であればあるほど、技術や知識を習得しやすくなる。ここに住む人々が生きる術を身に付けてきたように、より高度な技術などを身に付けてもらいたい。様子を見てわかった事だけど、ここには学校がない。そうですね?」
学び舎は見当たらなかった。
というより、そんな余裕があるようには見えなかった。
無言で頷くオルーギオ。
「スラムで生き抜くには力も必要でしょう。しかし、他の国や町に行くのならば、力だけでなく頭がいる。文字を読める者、計算ができる者とできない者とでは価値が変わる世の中です。どんなに汚れていようと、賢い人間は重宝される。」
「学び舎を、ここに作る気か?」
「それよりも先に、やらなければいけない事が一つ。」
首を傾げられた。
「炊き出しですよ。それをしなければ始まらない。オルーギオ氏、最近食欲が落ちてきたり、下半身がだるいと感じていますね?」
「! 何故わかった?」
ロカがハッとした顔でおれを見る。
「待てジャック、その症状。」
「ロカの想像の通り、脚気の初期症状です。外には手足が歪んだ人、壊死している人がいた。話で聞いた食料事情を踏まえれば、スラムの住人は栄養失調を起こしている。既に壊血病や脚気が出ていますからね、ここに流行り病が流れてくれば一発で終わるでしょう。」
「ジャック、『かっけ』って何だ?」
「栄養が足りないとなる病気。足から症状がでやすくて、放置すると死に至る。壊血病も同じく。だから、最優先として炊き出しをする。同時に服などの支給も行う。開けた場所が欲しい、心当たりはありますか?」
「・・・ある。この教会の裏だ。普段はちび達の遊び場になってるが、使ってくれて構わねぇ。」
「ではすぐに。」
馬車を裏へ移動させ、雨風避けのテントをたてる。
長テーブルなどを用意し、支給品を準備。
もう一つの長テーブルにはコンロなどを横に設置し、炊き出し用とする。
少し離れた場所は食事ができる場所として整えた。
「オルーギオ氏、始めても?」
「任せる。」
「ジョシュア、準備を。ロカ、調理手伝ってくれるか。」
「おう。」
「はいはい、何をすれば良い?」
エプロンと三角巾をつけながら、好奇心で集まり出したスラムの住人達を見る。
「材料を刻もうか、魔法で。」
時間短縮 兼 パフォーマンスとして、ね。
+ + + + + + + + + +
空が茜色に染まる頃、スラムの一角は明るい光に照らされていた。
光をくゆらせる植物が等間隔に並び、穏やかな光で満たされた一角では、二人の人間が視線を集めていた。
背の高い方は野菜を空に投げると、瞬く間に持っている剣で切り刻んでいく。
背の小さな、まだ子供の方は野菜や小瓶を風で操り、刻み、次々に鍋に入れて煮込んでいく。
「ロカ、二つ目も準備完了。それが終わったら休憩。」
「やっとか。」
「さて、そこに集まる皆様方、今からこのスープとパン、服類を無料で配分します。」
集まっていたスラムの者達が顔を輝かせる。
しかし、それを制するように子供は言葉を続けた。
「その前に、配分する条件があります。」
グッと踏みとどまる一同に視線を走らせ、笑みを見せる子供。
「一列に並んで下さい。女性も子供も、皆平等です。順番を破った人には配分しません。そして、受け取った人は家族や友人、仲間にここで炊き出しをしていることを広めて下さい。」
ポカン、と虚をつかれた人々が呆ける。
そんなこと?と首を傾げる者もいた。
「今言ったことが守れる人はこちらに。大丈夫、たくさんありますから、焦らないで。」
そろそろと子供に近づいた幼子。
右腕がどす黒く偏食した少女だった。
痩せこけた少女に子供は微笑みを浮かべると、偏食した腕に触れる。
ボソボソ、と小さくなにかを呟くと柔らかな風が吹き、どす黒い腕は痩せた白い腕へと変化していた。
驚く少女の手に、木でできた器が渡される。
赤みのあるスープでゴロゴロとした具材がたくさん入っていた。一緒に大きなパンが渡され、リュック型の袋に服類が入れられ少女の背に背負わせられる。
「あそこでゆっくり食べておいで、誰も盗らないから、安心してね。」
優しく頭を撫でられた少女は、誘導された場所に座り、スープを一口、口へと運ぶ。
「・・・おいしい。」
野菜と肉の甘さが滲み出たスープはじゅわりと乾いた体に染み込んでいく。野菜は食感を残しており、大きめに刻まれたベーコンやソーセージはボリュームがあり、お腹が膨れるには十分だった。
少女の周りには他にも大勢の人が増えており、一様にスープをかきこみ、パンをかじる。
中には涙を流している者達もいた。
ある少年は倒れている母の分も、と頼み込んだ。
すると、子供がテントから離れ倒れている母の元へと向かった。すぐに帰ってきた子供の背には痩せこけた女性が背負われ、教会へと運ばれる。
少年に子供は優しく声をかけた。
「お母さんは回復するまで預かるよ。大丈夫、時間をかければ良くなるからね、君もここにおいで。その代わり、少しお手伝いをしてくれるかな?」
「は、はい!何でも!おれにできることなら!」
「ありがとう、それじゃあ早速、あのお兄さんの所に行ってスープの配分を手伝ってくれる?」
「はい!」
少年がテントで手伝いを始める。
配分は夜道し続けられた。
テントで働く者達は時折交代し、休憩をとっていたが、その中でエプロン姿の子供だけはずっとテントにいた。
次話は一週間後です。
やっと時間がとれた(;・ω・)