道すがら
遅刻して申し訳ない!
見送りがここまで大事にはなるとは思わんかった。
お昼、ウィルが昼食をとり、城門前に集まると、見送りに国王様達だけでなく、各騎士団の団長達までやって来て、驚いた。
団長達とウィルの話を聞いて思い出した。
ウィルが街で何かをするのは初めてのことだ。
スラムとなれば、治安などの諸々もあり、心配されてるんだろう。
ウィルとノエル君達は皆動きやすく露出のない服、シルバ君監修のもと、質素なデザインのものだ。その上に黒いローブを羽織ってる。武装を隠す意味合いもあってだ。
キアラちゃんも質素なワンピース。
髪型はおれがいじって可愛くしてしまったけどね。
おれは動きやすいシャツとズボン。
靴はロングブーツだ。滑りにくいものにしてある。
ローブは濃い濃緑のもので、腰にはポーチ。
お金やメモ類を入れてる。
桜草や手荷物になるものは左腕の腕輪に入れた。
収納の魔道具ってかなり便利なんだよね、重さはないし、品質も維持される。生物は入れられないけどね。
まぁ、そんなこんなで街に出た。
あ、事前の打ち合わせで敬語抜きって決めた。
助っ人の皆が萎縮しかねないからね。
まずは自分達の食料調達。
水と干し肉、パンに果物や野菜。
ただの肉でも良いんだろけど、干し肉なら下味がついてるからね。調理の手間もはぶける。
次にギルドに向かい、馬車を二つ借りた。
んでもって、助っ人の内の三人と合流。
ギルドの中で待っていた。
「ジョシュア、レオ、チャーリー。」
声をかければ、パッとこちらを見る。
「坊ちゃん!指名ありがとよ!」
「急に頼んでごめんな。」
「気にすんなって!」
バッシバッシ肩を叩いてくるチャーリーに苦笑する。
口調を崩すのは伝えておいたけれど、レオナルドは驚いてたね。
ウィル達とも顔合わせを済ませ、馬車に乗る。
御者は以前の依頼で知り合ったロー爺さんとその孫のノラ君。無理を承知でお願いしてみたら、まさかの快諾。人脈の尊さを学んだ。
ギルドを出て、馬車を少し走らせ、桜草を買った小さな店に顔を出す。
「お、来たか。」
「準備は?」
「あぁ、ミー君、ヒース、行くよ。」
「ミー君っつぅなってんだろぉが小僧!!」
「ちょっと、うるさいわよ。ごめんなさいね、貴方がジャックね、ロカから話は聞いてるわ。」
奥から現れたのは、三歳ほどでズダボロの黒布を被った者と、フードを被った女性らしき人物。女性のフードからは黄金のような金の髪がこぼれでている。それに加え、二人の周囲に小さな光と透き通った小さな存在が飛んでいる。
よくよく見れば、小さな存在は人の形をしていて、トンボにも似た透明の羽を待っている。
「妖精?」
「あら。」
「なんじゃ、見えるのか。」
「ヒース、ミー君、話は後でするから、馬車に乗れって。予定が狂うだろ。」
「はいはい、ちゃんと説明しなさいよ?」
とりあえず、三人を連れて馬車に。
顔合わせをして、買い出しに向かう。
ヒースと呼ばれた女性は白いローブを羽織っており、フードで顔を隠している。おそらく、20代頃の若い女性。ただ、口調からするにもっと上だろう。
ミー君と呼ばれた小さな存在は声からするに男性、それも40から50の男性だ。
二人とも素顔などは夜営地で話すと言っていた。
妖精がついてて、姿やらを見るに、まぁ、うん、お察しってやつだろう。前にロカから話は聞いていたからなぁ。
さて、スラムで必要となる布や道具、材料を買い込んでいく。予算から見ればかなり安いが、普通の目線からは馬鹿みたいな額を消費した。
街を出る。
王都でもある街から出るのは、初めてだ。
ウィルも興味津々で外を見ている。
一つ目の馬車におれ達人間が乗り、二つ目の馬車には布や道具類を乗せている。
食材はおれかロカの収納の魔道具に。
ジョシュアも持っているが、それには別のものを入れてる。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、景色を見ていて少しだけ考える。
もうじき、冬が来る。
今は秋の初め、まだ温暖な気候だが、一月もすれば雪が降るほど寒くなるだろう。
前にウィルがはしゃいで風邪を引いたことがある。
「ジャック、ノラから報告じゃ。二時の方向に群れがおる。」
「進んで下さい。向かってくれば迎撃します。」
馬車は幌馬車のため、上に上がる。
何故かロカまで上がってきた。
「何で来てるのさ、落ちるよ。」
「おいおい、おれだって戦えるぞ?というか素?」
「下には聞こえないだろ。」
結構な風だし。
二時の方向を見ていれば、確かに群れがいた。
何故か一匹だけ向かってくる。
大きな熊のような魔物だ。
『異の者と見える、何故我等が領地に踏み入るか。』
並走する魔物の声なのだろう。
頭に直接響いた言葉に、おれもロカも驚いた。
「国の果て、スラムに向かう途中だ。危害は加えない。」
『承知した。我から伝えはするが、冬に向け皆気が立っている。注意されたし。』
「感謝する。」
魔物が離れ、馬車の中に戻る。
危険はないとだけ伝えておいた。
暇潰しなのか、ヒースが魔法でチェス盤を作っていた。
「ジャック、魔物倒したのか?」
「いや、害はなかったからそのまま。」
ウィルが眉を寄せる。
「魔族は仇だろ?良かったのか?」
「ウィル。」
キツい声になってしまった。
でも、今の発言は容認できないし、許してはいけないもの。
「仇は二人。他の魔族に恨みはないし、害がなければ攻撃もしない。こちらにはこちらの生活があるように、あっちにも家族がいて、生活がある。そこだけは、間違えないで。」
「・・・わかった。ごめん。」
しょんぼりとするウィルの頭を撫でる。
ロカは苦笑していた。
シルバ君にキアラちゃんの髪の結び方を教えたり、ヒースの作ったチェスでゲームをしたりして時間を潰した。
ヒースとレオは強すぎた。チェスは自信あったんだけどなぁ。逆にロカは弱すぎた。チェスは苦手だそうな。
夜営地につくと、テントを張り、食事を作る。
野菜スープとサンドイッチ、果物。
食事は好評で、完食された。
素直に言うと結構嬉しい。
「私達のこと、先に話しておくわね。」
ヒースが話をきりだした。
パサリ、と落とされる二人のフード。
ヒースの耳は尖っており、民族特有の耳飾りがつけられている。黄金のような金の髪に太陽に似た赤みのあるオレンジの目。ローブの下には白い樹木で作られた弓。
森につき、土地の守護者となることで有名な種族、エルフ。
ミー君は豊かな髪と髭に顔の八割と口が隠れ、かろうじて目元が覗く。焦げ茶の髪にオリーブの目だ。小柄だが筋肉質な体で腰にはバトルアックスがある。
鍛冶を含め土木から金物までに類い希なる技術と才能を持ち、酒好きと有名な種族、ドワーフ。
「ロカが世話になっていると。」
「ふふ、拾ったのは私達よ。」
微笑むヒース。
「改めて、エルフ族のヒースよ。」
「ドワーフ族のミィウングだ。呼びづらけりゃミングで良い。間違ってもロカのようには呼ぶでないぞ。」
二人はロカの手伝いと家の提供をしているそうだ。
その代わり、ロカの収入で賄ってもらっているとか。
本来、あまり仲がよろしくない種族の二人が平気そうにしているのは、ミングがロカを助けているからなんだそうな。
始めにロカを拾い、エルフの森で療養させ、近くの家に住まわせたのは良かった。
だが、その後、仕事を始めたロカはエルフの森を狙う族に襲われ、大怪我を負った過去があるそうだ。その場に居合わせ、治療し、仲の険悪なエルフの森まで届けたのがミングだと。
うん、話聞いて思ったのは、ヒース、ロカのこと好きでしょ?もしくは母性本能出てるよね?
二人の話が終わり、テントでの夜営。
おれは周囲を見て回ると言って、皆と別れる。
一人は危ない、ということでヒース、ミング、ロカがついてきた。
「小僧も転生か。」
「です。」
「この子達が見えているのよね?」
ヒースが指先に小さな人、妖精を乗せる。
「加えて魔力も見える目なんだとか。」
正直に言えばかなり驚かれた。
「そう。」
「おれが鑑定眼だったように、ジャックは見える目だったんだろうよ。」
これは仮定。
転生者には目にまつわる力が付与されているかもしれない。ロカの鑑定眼、これは人の属性相性や加護を見れるもの。おれのは見える目、これは昔から同じ魔力やらが見れるもの。
周囲にはなにもなかったので夜営地に戻って寝た。
翌日も変わりなく、魔物の襲撃などもなかった。
少しだけ暇をもて余すことになったから、ヒース達の暮らしを聞き、ウィルの勉強にあてた。
日が暮れ始めた頃、スラムが見えた。
次話は少し間を空けます。
一週間、遅くても二週間後には投稿しますので、少々お待ちください!