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スラムへ


「あ、ジャック、スラムの訪問におれも行くから。」


「わかりま――はい?」


おいちょっと待って?

今なんて言った、この王子は?


「スラムの訪問におれも行く。父上から許可はもらってるぞ。ジャックの邪魔はしない。」


一国の王子でしょうが?!

何でサラッと国王様も許可しちゃってんの?!というか、いつ許可をもらったの?!嘘でしょ!?


「魔道具って便利だよな。」


その手があったかー!!

いや、あの、ノエル君?笑ってられないからね?


「・・・わかりました。ひとまず、僕の流れを説明します。」


「ん。それとまた敬語。」


「あ、ごめん。――えっと、まずは食料を買いそろえる。馬車はギルドから借りる手筈になってる。その後、助っ人と合流。諸々の買い出しをして、スラムに入るよ。行きに二日、滞在は三日、帰りに二日で一週間かかる予定。」


「今回は、だろ?」


「――アルイト王子殿下?」


いつの間に?!

え、ちょ、何故王子達が勢ぞろいしてるの?


「お父様に聞いたのよ。様子見をして、不穏な動きがあれば長期の滞在をするつもりなのでしょう?」


国王様、おれは王子達には内密にって言ったよねー?!こわ、こっわいんだけど!いや悪いのはおれですけどね?!


「だからお守り!」


ジェイド王子からローリエを模したブローチを渡された。青と透明な宝石があしらわれた綺麗なブローチだ。


「魔除けと守護の魔法が組み込んである。ウィルにはこっちだ。」


ウィルにも同じブローチが渡される。

使われている宝石は緑と透明で、色違いだ。

わざわざジェイド王子とアルイト王子の合作で作ったそうだ。製作時間、驚きの三十分弱。天才か。


各々から注意と応援、心配をされ、頭を撫でられた。

ケヴィン王子はそっと紙をおれに握らせた。

後で読めと、了解です。


「それじゃあ、今日はこの辺りで。出立は明日の昼を予定しているけれど、大丈夫そう?」


「父上の許可がおりてすぐに準備した。」


ふんす、と胸をはるウィルを撫でる。

良い子良い子。


キアラちゃんはシルバ君と寝るそうだ。

ウィルの部屋を去り、廊下で手の中にある紙を見る。


『書斎で待つ。』


ダッシュで書斎に向かった。

王位継承権一位を待たせちゃマズイよねぇ?!お願いだから口で言って!心臓に悪い!本当に心臓に悪い!!数年後にはアラサーになるおばちゃんの心が死ぬから!


書斎の扉を開ける前に身だしなみを整え、扉を開ける。


「ケヴィン王子殿下。」


「あぁ、入ってくれ。」


中に入れば、大きなテーブルの一番端にケヴィン王子が座っていた。ランプが一つだけ灯されているだけで、かなり暗い。椅子にぶつからないように進めば、ケヴィン王子が読んでいた本が見えた。


『勇者と神々の魂について』


ザァッと血の気が引いたのが分かる。

その本は、それは、勇者だけでなく、転生者のことも記されているもの。このタイミングで、その本が出されたということは、そういうことなんだろう。


「そこに。」


示されたのはケヴィン王子の隣の椅子。

一礼して座った。


落ち着いた印象のあるグレーの瞳がおれを見ていた。

ランプの光を反射して、オレンジのようにも見える目。


「ジャック、今度は何をしようとしてるんだ?」


「・・・店のことは、聞かれましたか。」


「噂になっていたからな。父上に確認した。それと、敬語はなしで良い。」


ことごとく国王様から情報漏れてるな。

あと敬語の指摘は勘弁して。


「スラムには前から興味がありました。シルバさんとキアラちゃんの話を聞いて、推測の域を出ないけれど子供を食い物にする者がいるようなので、様子を見るために。後のことは、状況次第で変わります。」


あ、敬語で話したからちょっと目が怖いぞ。

ため息つかれたし、沈黙された。

目がおれと本を行き来して、本を開く。


「『この世界には異界の魂が導かれる』そうだ。勇者として召喚される者、迷いこむ者、生まれ変わった者、と。ジャック、正直に答えてくれ。」


スッとこちらに向けられた目。

逃げられはしないだろう、覚悟を決めた強い目だ。


「転生者、なのか?」


「・・・半分正解、ですよ、ケヴィン王子殿下。素晴らしいですね、自力で答えに辿り着かれましたか。」


あぁ、駄目だな。声が震える。

嫌われたくは、ないなぁ。

こればっかりは譲れない秘密だった。だって、下手すればウィルや王子達との関係をぶち壊す。精神を壊すかもしれない。


嫌われたくはないんだ、初めて、おれを必要としてくれた子達なんだ。心の底から楽しいと、頑張りたいと、そう思えた世界なんだ。失いたくない。まだ生きていたい。


「ジャック。」


無意識のうちに握り締めていた拳に、ケヴィン王子の大きな手が重ねられた。

ゆっくりと視線を上げる。

気遣ってくれるケヴィン王子は優しい目をしていた。


「ジャック、責めるつもりはない。隠そうとした気持ちもわかる、わかっていて暴いたのはおれだ。」


「いいえ、隠したのはおれ(・・)のエゴです。」


一人称を素に戻したから、ケヴィン王子が驚いていた。


「改めて、自己紹介を。おれは、ジャック・ウィード。一度死に、この世界で目覚めた者です。転生かどうかは、定かではありません。しかし、異なる世界を知っていることには変わらない。おれは、王子達との関係が壊れるのを恐れ、口を閉ざした。」


「・・・頑なに口調を崩さなかったのは。」


「素が荒いからですよ。」


ため息をつかれた。

結構重大なんだけどなー。


「そうか、わかった。この事は誰にも話さない。その代わり、一つ聞かせてくれ。」


何でしょう?


「本当の年齢は、いくつなんだ?」


あー、その質問かー。


「数年後には三十歳になりますよ。」


少しだけ目が見開かれた。

一礼して書斎を去る。


あーぁ、一人目が10歳かー。

この調子じゃ他の王子達も気付くかもしれないな。

ちょっと自重しようか?

でもやりたいことは沢山あるしな。


まぁ、いっか。

おれは好きにやるから、後は野となれ山となれ、だ。


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