準備
時間がギリギリになって申し訳ない!
急用が入ってしまい、次話は週末になるかと思います!
夕方、ウィル達が帰ってきた。
きちんと夕食をとった後、ウィルから部屋に来てほしいと連絡がきたため、キアラちゃんを連れて行く。
おろおろとしていて、人目を怖がっていたから、抱き上げてみる。ポンポンと背中を優しく叩きながら歩いていると、そっと服を握り返された。
ウィルの部屋の扉をノックする。
すぐにノエル君が開けてくれた。
「失礼します。」
あ、シルバ君ソワソワしてる。
キアラちゃんをソファに座らせれば、シルバ君が近づいてきた。よほど心配していたんだろうね。
「あのね、おかし、もらったの。」
クッキーや飴の入ったポーチを見せるキアラちゃん。
ニコニコとしていて、とても可愛い。
「ジャック、今日はありがとう。」
「お気になさらず。」
「敬語。」
怒られた(´・д・`)
軽く咳払いをして誤魔化す。
「・・・ごめん、つい癖で。」
「もう。その癖直さないと兄様達に言いつけるよ。」
うわ、勘弁してくれ。
王子達、他人行儀なおれに厳しいんだって。
「それで、話って?」
ウィルが話を切り出す。
そうだね、ウィルもそろそろ社会見学の年頃かな?
「キアラちゃんがいるスラムのこと、聞かせてもらえるかな?シルバさんの意見も聞きたくて。」
名前をあげられたからか、シルバ君がこっちを見る。
キアラちゃんの髪を編み込んでリボンをつけてるからかな?凝視してやり方を考えてる最中だったみたい。
後で教えてあげるからねー。
「スラムの状況と人数、生活のことについて、教えてほしい。どんな暮らしか、どんな人がいるか、嘘も偽りもない本当の話を。」
スラムのことは知ってる、本で読んでいるからね。
でも、そこには脚色や故意で消された部分がある。
おれが必要としているのは真実であり、生の声。
シルバ君は少しジッとおれを見て、頷く。
「ここのスラムは、比較的マシらしい。それでも、食料は足りないし、服や生活に必要な物もない。奪い合いや略奪、スリや盗みは当たり前になってる。」
キアラちゃんの頭を撫でながらシルバ君は話す。
所々、ウィルに視線を向けていた。それにウィルは弛く首を振って話を促す。
そっか、シルバ君はおれと似てるのか。まだウィルに全てを教えようとしていない。
タイミングが悪かったな、ごめんよ。
シルバ君によれば、他国に比べればまだ治安は良い。が、食料及び生活用品が不足し、病や犯罪が蔓延している。幼い子供達が亡くなる事も多いと。
その中で、自衛として鍛えた者達がハンターや騎士になったり、幼子や女性達の保護をしているそうだ。
「あ、あのね、ともだち、いないの。いつもあそんでたの、でも、いないの。」
キアラちゃんがギュッと服を握りしめて言葉を発する。
「お友達がいなくなったの?」
「うん。」
「いつからかな?」
「んっと、え、と。おひさま、ごかい。」
五日?
それは、嫌な予感。
スラムは治安が良くない。
シルバ君は濁したが、後ろ暗い組織のアジトや賊の養成所もあったりする。そういった類いの者に関わった可能性もあるだろう。そして、どこかで餓えたり、怪我をしているのかもしれない。
キアラちゃんと仲が良かったんだろうね、とても必死だ。
「そうだ。キアラちゃんの家に遊びに行きたいな。」
キョトリ、とされた。
大きな目がパチパチと瞬いて、ふわっと赤みをおびる。
「いいよっ。」
「良かった。それじゃあ、僕は相談をしてくるから、お兄ちゃんと待っていてね。ウィル、一時間、待ってて。」
「わかった。」
ニッコリ笑うウィルにちょっと引っかかるが、部屋を出て耳のイヤーカフに触れる。
『うむ?どうした?また何か起きたかの?』
「突然申し訳ありません、陛下。少々お話が。」
+ + + + + + + + + +
わたしには、だいすきなお兄ちゃんがいるの。
うえのお兄ちゃんはあたまがよくて、きびしいけど、とってもがんばり屋さん。
したのお兄ちゃんはおっきくてちょっぴりこわいけれど、とてもやさしくてつよいの。
わたしのからだはよわくて、よくびょうきになっていたのに、ずっとおせわをしてくれた。
ふたりがおしごとでおうちをでていって、ともだちやいんのひとがあいにきてくれた。
でも、ともだちがこなくなった。
いつもどうりだったのに、いんのひとも『まただ』って、『はちにんめ』って、こわくなった。
そとがさわがしくなって、たべものがなくなって、みんなおなかがへって、お兄ちゃんがまちにつれだしてくれた。
おいしそうなパンがあった、おっきいパン。
みんながたべられる、そうおもってぬすんだの。
いけないこと、わるいこと、わかってた。
でも、みんなつらい、くるしいの。
つかまったら、いしをなげられる。
なぐられて、きしさまにひきずられて、どれいにされる。
ころされる。
でもちがった。
ジャックはたすけてくれた。
あったかいおふろにいれてくれて、ふくもくれた。
おいしいおちゃとおいしいおかしをくれた。
かみのけをきれいにむすんでくれて、リボンまでもらったの。
すらむのことをきかれて、お兄ちゃんがこたえてた。
こわかったけど、ともだちのことをはなしたら、すごくしんけんなめをしてた。ほんをよんでるときのお兄ちゃんみたいだった。
おうちにあそびにいきたいっていわれて、とってもうれしかったの。そうだん、おはなしがあるからってジャックはでていって、お兄ちゃんはあたまをなでてくれた。
おうじさまはこまったかおをして、かわいいってほめてくれたの。とってもやさしいおうじさまだった。
でも、ひとりでなにかはなしはじめて、ちょっとくろいえがおだったからこわかった。
『ジャックがまたやる』ってどういうことかな?
お兄ちゃんがあたまをおさえてて、ひつじ?のひとがわらってた。ジャック、だいじょうぶかな?
ウィリアムから連絡が回された王子達は即座に行動を起こした。
長男長女は父親のもとへ、次男三男は共同で魔道具を作り始め、四男次女は部下に指示を出す。
父親は現れた我が子に驚きはしたものの、直前まで原因となる張本人と話していたため、我が子の申し出を聞くと笑顔で了承した。
ウィリアムの部屋を去って、きっかり一時間後。部屋に戻ったジャックは目を剥くことになる。
やらかすジャックに王子達は慣れ始めました。
キアラちゃん目線、少し読みづらかったかもしれません。ごめんなさい。