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足音

ちょっと長い?です。

次の話は週末を予定しています。

(*`・ω・)ゞ


「暗殺、ですか。」


「うむ。アドルフがの、一部は捕まえたのだが、まだいるようでな。何でも王子の一人が先導したそうだ。」


うわー、王位を巡っての兄弟喧嘩かー。

嫌だねぇ、下手したら国が割れての内戦になるんだろ?

うーん、やっぱりケヴィン王子達のように仲の良い国ばかりじゃないよなぁ。今回に関しては非があるのは、どっちかって言うと堕王子なんだろうけど。

できるならこっちで騒ぎを起こさないでほしいな、めんどくさいし。


「明日からはケヴィンの仕事を見学することになる。城内ではあるが、あまり気は抜かぬようにの。」


「はい。」


「それと、ウォルフから聞いたぞ?緊急の救助依頼で活躍したそうだの。」


わしわしと頭を撫でられた。

うわ、わ、びっくりした。


「ジャクレイン王子の目が少し変わっておった。ジャックの影響は少なくなかろう。よく頑張っておる。」


あー、えっと、大人げないことをした節があるから、ちょーと後ろめたいなー。

国王様から頭を撫でられたのは驚いたが、うん、あんまり悪い気はしない。


今日は近衛騎士が堕王子につくらしく、休憩して良いとのことなので、ありがたく自室に戻った。

桜草を机に置き、ベッドに腰かける。

一息ついて、目を閉じる。


浅い睡眠のつもりだったが、フッと目が覚めると薄暗くなっていた。うわ、落ちてた。ヤベ。


服を正していると、扉がノックされた。


「はい。」


「あ、ジャック。今、いい?」


訪問者はウィルだった。

第五王子として、日々立派になりつつある義弟。

執事のノエル君と騎士のシルバ君も一緒だ。


部屋に通すのは良かったものの、机の上には書類と開きっぱなしの本や桜草。物がごちゃっとしてるし、明かりもつけてないから薄暗いまま。

手早く明かりをつけて、書類はまとめ、本は棚に戻す。


「すみません、見苦しいところを。」


「ジャック、敬語。」


嘘でしょウィル。

ノエル君達連れて来てるじゃん?!敬語なしは不敬になるって、何故止めないんだ二人とも?!


「ジャック殿、私達は気にしません。今まで通りに。」


「・・・わかりました、そう言うことでしたら。」


敬語を抜くと素が出そうになるから苦手なのに。

おれの素は本当に出したくないんだって、荒いし、ウィルや王子達の悪影響になりかねない。


でも敬語は嫌がるんだよなぁ。

これぞ板挟み。うん、まったく嬉しくねぇ。


「それで、何かあったの?」


「その、ジャクレイン王子、大変じゃなかった?」


「ケヴィン王子殿下に比べれば、とても大変だよ。でも、彼には彼なりの考えがあるみたい。彼は知らない事が多いけれど、学ぼうとする意欲はあるみたいだからね、まだ楽だよ。」


夕食後、時間があったらしく、心配して来てくれたみたい。差し入れにとクッキーまで焼いてきてくれた。

ノエル君とシルバ君と協力して、自力で焼いたそうだ。ローズマリー入りのクッキー。サクサクとしていて美味しかった。


「ありがとう、すごく美味しい。」


ウィルのやわらかい髪を撫でる。

綺麗な金色の髪は昔に比べて、色が暗くなった。そのため、少し落ち着いた印象がある。

ウィル自身が成長して大人びたのも関係してるだろうけどね。


和んでいたらバタバタと足音がして、ノックもなしに扉が開かれた。ウィルがびっくりしていたし、シルバ君はがっつり武器構えようとしてた。


「ジャック殿!ジャクレイン様が城外に脱走しました!」


捜索隊が出るので、お早く。

そう告げて走っていってしまった近衛騎士。


「あんの馬鹿王子っ。」


人が和んでいたらコレか!!


「ごめんウィルまた今度ゆっくり話そう!」


机の上の桜草をひっ掴んで城門へ走る。

国王様やアドルフさんが待っていた。

捜索隊は既に出たようだ。


「すみません、遅くなりました。」


「いや、休憩しておっただろうに、こちらこそすまんの。夕食後、気分が優れぬと部屋を離れて、この始末じゃ。」


「行きそうな場所を知らんか?」


行きそうな場所が逆に一ヶ所しか思いつきません。

ぜってぇ華店に行ったなあの野郎。


「少し魔法を使います。」


地面に桜草を立てる。


「範囲指定:国内『宵の目』。」


ぶわっと黒い魔力が広がる。

頭に叩き込まれる風景や人々、多すぎる情報に歯を食いしばって、特徴的な白銀の髪を探す。

華店の通り、その一角に白銀の髪が落ちているのが見えた。倒れた男が二人と石畳に落ちている赤い水。


「見つけました。連れ戻しますので、華店の通りに迎えをお願いします。」


「わかった。頼むぞ。」


頷いて足を強化し、空へと飛び上がる。

空庭(グレイプニル)』で空から目的の店を探す。


見つからねぇな。

あそこからそう遠くまでは行けないはず。

地下へ目を走らせるが、見つから――って待てこら。


教会の地下扉が開いてる?


「おいおい、教会が絡むとなると、だいぶ不味いだろ?」


それに、教会を中心に空気がおかしい。

渦を巻くように風が吹いているし、禍々しいと言うか、うなじがざわつく。


地下扉、真っ暗な地下への階段に、足を踏み入れた。


 + + + + + + + +


第一印象は生意気そうなガキ。

世界を見ても珍しい、灰色の髪に青い目。

整った顔立ちは、成長すれば中々のものだろう。

おれの侮辱ともとれる言葉にも顔色一つ変えずに対応し、細やかな楽しみを妨害する。


ハンターの銀ランクになれるだけの魔法の腕はある。

それに加えて、アイツは強かった。

たった一人で騎士を抑えた。

魔物の群れから、拐われていた女子供を救出した。


腕はある。顔も悪くない。

それだけじゃなかった。

アイツは頭が良い、人をよく見て、よく話を聞き、専門的な助言までしてみせた。

それでもなお、傲ることはない。


両親は既にいなかった。

魔物に殺されたと、メイドに聞いた。


おれのような人間よりも、はるかに王に相応しいと思った。


どうせ期待などされていない。

わかってる、本当なら双子の兄が国王になるはずだった。生後二日で、乳母のミスによって兄が死ぬまでは。

兄の存在を知ったのは、10の時だ。

庭の隅、小さな墓を見つけて、おれは全てが馬鹿らしくなった。幸い、弟妹は多い。王座を狙っている奴もいた。


だから、暗殺が来ているのはわかっていた。

絶好の機会だからな。


まさかこの方法をとられるとは思わなかったが。


ジャクレインは地下の奥深く、石の机に突っ伏すようにして深く息を吐く。

右手は鎖に繋がれ、強制的に赤い宝石を握らされている。爛々と輝く宝石は、禍々しく、ジャクレインを臓腑をかき混ぜられるような不快感が襲っていた。


「卑屈になりすぎでは?」


聞こえるはずのない声に力なくジャクレインが顔を上げる。酷く生気のない、血の気の引いた顔だった。

石牢を覗き込んでいたジャックは、軽い動作で檻の入り口を破壊し、中へと足を踏み入れた。

本来青いはずのその目は、緑に近い色をしていた。


「情報吐いてくれなかったんで、読心の魔法を使わせていただきました。苦労してたんですね、ジャクレイン様。もう少し言葉に出していただきたいものですけど。」


「やめ、ろ。ちかづ、な。」


「お気になさらず。ドラゴンの核、魔晶石でしょう?人や他の生物の魔力を奪い、強力な魔道具の素になる。」


魔王の核から産まれるドラゴンは、魔王と同じく核となる魔晶石を持つ。それは時に国の守護に利用され、時に暗殺に利用される。


ジャックは鎖を断ち切ると魔晶石を掴んだ。

ぎょっとするジャクレインの前で、ジャックは魔力を魔晶石に流し込む。魔晶石は赤から色を濃くし、黒へと変化した。


「僕の魔力は結構多いんですよ。さて、帰りますよ。自殺願望は結構ですけど、一言二言お父上に文句を言ってからでも遅くはないでしょう?」


抱え込んだまま、死ぬのはもったいないですよ。


幼子に言い聞かせるかのような、優しい、母のような温かさのある言葉。

魔力の枯渇で意識が朦朧としかけているジャクレインは、無意識の間に涙を流していた。ジャックは何も言わず、その頭を撫でて抱きあげる。


ジャクレインが意識を失うと同時に、地下に足音が響く。数はそう多くなく、良くない雰囲気をまとったもの。


ジャックは無言で足音の方を睨んでいた。


駆けてきた彼等は、仲間が交代時間になっても現れないことで違和感を持ち、見回りをしてみれば、廊下に倒れている。侵入者がいると悟るには十分だった。


侵入者を取り抑え、王子から魔晶石を回収する。

そう思っていた彼等はジャックを見た瞬間、膝から崩れ落ちた。


見目はまだ幼い子供。

だが、その威圧感、底知れぬ殺気と怒気。

彼等は戦意を失うどころか、意識を失うレベルの恐怖に襲われていた。


「お前達の思惑なぞ知らん。だが、この国に面倒事を持ち込み、一人の子供を泣かせた。」


子供に抱えられた王子を、彼等は見れない。

殺意を滲ませた声を頭上に、ひれ伏すことしかできなかった。


「死にたくなければそこに転がっていろ。」


吐き捨てるような言葉の後、足音は外へと向かう。

彼等が復活し外へと向かう頃には、教会は騎士に取り囲まれており、子供も王子も既にいなかった。



救出されたジャクレインは薬によって目は覚ましたものの、奪われた体力は戻らず、療養をとることとなった。

帰国までの四日間、ジャクレインの側には必ずジャックの姿があった。ジャクレインとの交流にくる王子達や国王に穏やかな笑みを見せ、静かにジャクレインを見守る。


帰国の際には、手製の通信の魔道具と加工した魔晶石のブローチを渡し、ハイスビル国王、ジャクレインの父に宛てた手紙を託した。



ハイスビル王国。

それは後の世で、ジャックの後ろ楯の一つとして名を馳せる事となる島国。


ジャクレインとジャックが再会する日は少し先。

その時こそ、新たな歯車が動き出す時。


ちなみに、ジャックが飛び出していった後、ジャックの部屋に残されたウィリアム達は少しの間呆然としていた。


「ジャックが、馬鹿王子って言った・・・?」


「言ってた、な。」


普段穏やかで丁寧な口調な分、怒り心頭の暴言は滅多に聞かない。

目を丸くした後、ウィリアム達はクスクスと笑い合う。珍しい一面を見た、ジャックの子供っぽさを知れた、と。


後で見苦しいことを、と謝罪にくるジャックを宥めることになるのだが、三人はまだ知らない。

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