街の教え 下
また投稿ミスを、申し訳ないです。
(・ェ・。`人)
夜中から朝方の見張りを勤め、頃合いを見て堕王子を起こした。騎士の二人は既に準備を済ませてる。
あぁ、見張りの交代でわかったけれど、若い方がフォール君、老紳士のような方がコーランさん。
ここ最近、騎士として認められたらしく、今回は大抜擢されたそうな。道理で名前を知らなかったわけだよ。
寝ぼけ眼でフラフラしてる堕王子を洗面台まで引っ張っていく。顔を洗っても眠そうなので、ピキッとこめかみがつる。
「ジャクレイン様、ちゃんと起きてください。それとも無理矢理起こしましょうか?」
光属性、別名雷属性の火花を散らせれば、秒で着替えに行った。目は覚めたみたいだね。
まったく、信用されているのかもしれないけど、国外で油断は禁物だろう。周りに知り合いがいるわけでもないのだから、なおさら、いつ暗殺されるかも分からないってのに。
着替えてローブを羽織ってきた堕王子を連れ、部屋を出る。ギルドに顔を出せば、ラニアさんがいた。
「おはようございます。」
「うん?・・・おぉ、ジャックか。後ろは連れかえ?」
「えぇ。」
すぅ、と細められた金の目。
見定めるような視線に堕王子は揺るぐことなく返した。
「ふむ、見所はあるようよの。主は勅令を受けたとな?苦労するのぅ。」
「畏れ多いことです。若輩者なりに、精一杯骨を砕きますよ。」
気張れよ、と肩を叩かれた。
一度ギルドを後にし、朝食をとりに行く。
「今日はどこだ?」
「兼職屋『夜蝶』ですよ。」
フォール君が反応した。
それはもう、子供のようにガッツポーズだ。
「本当ですか?!やったぁ!気になってたんです!」
「フォール、落ち着きなさい。」
コーランさんにたしなめられてた。
堕王子は首を傾げ、あぁ、と手を打つ。
「お前が連絡してた店か。」
え?と首を傾げたフォール君はスルーする。
おれは何にも知りませんよー。
店の開業におれが関わってるなんて知られたら、国王様達から絶対何か言われるもん。下手したら説教だろうし、あの店はオリバー達の店だからね。おれは手を出さないよ。
開店時間より早かったため、店の前で少し待つことになった。うん、パンの焼ける良い香りがする。
「――ジャック?」
上から声がして見上げれば、窓からディランが顔を出していた。
「おはようございます、ディラン。」
「おはよ。客?」
「朝食をとろうかと。」
頷いたディランが引っ込む。
少しして、バタバタという音が響き、ジャッと勢いよくカーテンが開かれた。カーテン壊れるよ。
「坊ちゃん!来るなら連絡してくれよ、心臓が止まるかと思ったぞ?」
「今日はただのお客としてですよ。いつも通りに開けてくれて構いませんから。ほら、待つのも醍醐味の一つと言うでしょう?」
「そ、うか?そんなものなのか?」
困惑していらっしゃる。
ひとまず開店準備に戻らせた。
十分ほど待っていると、人も少しずつ増え始め、店が開いた。リュカも店を開け、それぞれに人が入る。
棚から好きなパンを選び、レジへと持っていく。
堕王子はさすが成人男性、朝からボリュームのあるガッツリ系を選んでいた。
全員分の料金を支払い、飲み物も購入してテラス席についた。
飲み物はレオナルドの妻である、リリーさんが用意しているそうだ。紅茶の味が良いと評判。
朝食をとり終えると、堕王子が店を見上げた。
「この店、店主は誰だ?」
堕王子の視線を追えば、一枚の金貨が仕舞われた箱。
『設立者より』と刻まれたプレートが掲げられ、店の中央の壁に飾られている。店が開店して、金貨を手持ちと交換してほしいと言われた時には驚いた。
最初に渡した投資の金貨は使ってしまったが、その重みを忘れたくない、おれの金貨を持っておきたい、そう言われて交換に応じた。まさか飾るとは思わんかったけど。
「この店に店主はいねぇよ。」
堕王子の疑問に答えたのは、いつの間にかいたオリバー。
「よぉ、坊ちゃん。指名をもらってディランが張りきってたぞ。」
「おはようございます、オリバー。ディランには休むように伝えて下さい。短い時間で無理を言いましたから。」
さっき顔を見たが、クマが酷かった。
うん、無理をさせたのは申し訳ないな。
「ジャクレイン様、こちらはオリバー。兼職屋『夜蝶』の時計職人です。」
「おう、オリバー・ロレンツォだ。ここのまとめ役でもある。」
「ジャクレイン・ハイスビルだ。店主がいないとはどういうことだ?」
お、ちゃんと挨拶した。
オリバーは名前を聞いて少し驚いたような顔をした。
「訪問中の王子か。なるほど、坊ちゃんが騎士を連れてる訳だ。この店は、行き場のない職人や事情を抱えた職人を保護、支援するために設立されてる。全員がハンターを兼業してるからな、店主を決めちまうと動きづらくなんだ。幸い、仕事はそれぞれで分かれてるからな、それぞれがその分野のリーダーだ。」
「行き場のない職人?どういうことだ?」
オリバーが少し言葉に詰まった。
おれに一瞬視線が来たので、バトンタッチ。
「例えば、貴族に支援を打ち切られた者。貴族の反感を買い店を焼かれた者。弟子に店を奪われた者。些細なミスで腕を切り落とされた者。様々な事情がありますが、そういった職人の互助組織として設立されました。今は一店ですが、将来的にはもう少し広くするつもりですよ。」
「一店じゃ、国全体まで手が届かねぇからなぁ。」
「・・・なるほど。兼業と言ったが、ハンターである必要があったのか?」
「ハンターじゃなきゃ駄目だ。素材集めが出来て、収入にもなる。それにな、ギルドのランクが上がれば、貴族からの介入も減らせる。おれ達は、権力には逆らえねぇからな。」
ちょっと落ち込んでるオリバーの肩を叩く。
「オリバー達に何かあれば、黙っていない人達はたくさんいますよ。城まで評判が聞こえてきてますからね、もっと自信を持って下さい。」
「・・・設立者、お前だろ。」
あ、声に出すなよ堕王子。
フォール君からの視線が痛い。
キラッキラした目で見ないで、お願い。
「内緒にしてくださいね。この店は、あくまでオリバー達の店ですから。僕の名前は出さなくて良いんです。」
疑問が解消できて満足した堕王子を連れ、店を後にした。
今日は夕食までに城に帰らないといけないが、昼食は街で食べるように言われてるからなぁ。
「ジャクレイン様、どこか見に行かれたい場所はありますか?」
「華店、入り口までで良い。あそこの人間が一番国が見える。」
む、一理あるか?
確かに、、街の人々で国が見えると言ったのはおれだしな。華店周辺の治安は、その国の縮小とも言えるかもしれん。
フォール君とコーランさんに確認して、華店のある通りまで案内した。おれは自分に目眩ましをかけてからだ。さすがに子供がいるのはおかしいし、目立つからな。
通りは意外と小綺麗で、人は少なかった。
あまり良くない雰囲気の者、紳士に見えるが目が嫌な者、明らかに新参の者、うーん、好きな雰囲気ではない。
正直に言えば、気持ち悪い雰囲気だ。
なんと言えば良いかな?胸がざわつくような、落ち着かない。空気も香水の匂いが混ざって、おれにはキツい。
「悪くはないな。」
堕王子の感想は一言だった。
その後は、街の図書館に足を運んで、昼食をとって城に帰った。
「ジャック殿。」
帰ってすぐ、近衛騎士がやってきた。
前にもあったから何となく用件を察した。
「陛下がお呼びです。ジャクレイン様は私達がご案内させていただきます。」
フォール君とコーランさんが敬礼し、立ち去っていった。おれもジャクレイン様に一礼して、その場を後にする。
次話は明日のお昼頃に出します。