拾ったのはプロでした
六人を拾って、一週間。
あちらからの連絡や相談は何度かあったが、助言をすればお礼を言われるだけだった。見に行こうかとも言ったが、忙しいだろうからとやんわりと断られた。
うん、城の中が慌ただしかったのは認める。
店の準備とハンターとしての訓練、依頼はローテーションで行っているそうだ。怪我はしないように、とだけ言っておいた。
慌ただしかった原因は、少し離れた島国の王子が訪問してくることになったから。期間は一週間。
あちらの国王が言うには、年の近い王子がいるここで、少しでも危機感を持って欲しいのだとか。何せ、王位継承権一位の王子が、無気力、無関心、やる気なし。それでも国王になれると思っている駄目っぷり。そりゃ荒療治でもしたくなるよな。する側のこっちからはいい迷惑なんだけど。
軽く聞いただけで、貴様は本当に王子なのかと小一時間膝を詰めてオハナシしたくなった。
だってさ?パンは木になると思ってるらしい。
んで、この前は「馬術?剣術?そんなものは平民や蛮族が使うものだろ?服が汚れてしまう」って父である国王に言ったとか。
それに、月に一度、女性を何十人も呼び集めてパーティーをしてるってさ。聞いてたケヴィン王子が呆れてた。同じ第一王子とは思えないよねぇ?
まとめると、堕王子は魔法重視。
剣や馬を汚れると嫌い、真面目に勉強もしない。他の王子達を血筋だけで見下し、努力せずに王になれると勘違いをしている。女ったらしで、見境なく女性に手を出すクズ野郎。
いっぺん地獄見るか?って話だ。
コイツが王子達馬鹿にしたり、王女達に手ぇ出して見ろ。マジで使い物にできなくしてやっからな。
てめぇのために客間から廊下、あちこち歓迎用の物に総入れ換えしてんだぞ。すっげぇ疲れんのに。食材の調達に駆り出された厨房の人の忙しさには負けるだろうけど、労力がヤバかったんだかんな?
とまぁ、いずれ来るであろう堕王子に苛立っていたら、連絡が来たよね。
『店に来てくれ。』
たった一言で通信が途切れる。
えっと?行けば良いのかな?
城を出れば、真新しい綺麗な建物が少し見えた。
思わず走り出す。
[兼職屋『夜蝶』]の看板。蝶を模した金属の飾りが付けられているのが見えた。
屋根は白と青のストライプに彩られ、ガラス張りの店内は左右に仕切られており、右側は外にテラス席が用意され、店内は隅の方に木棚が並び、机が並んでいる。
左側は待つ人ようの椅子が用意され、奥には鏡と椅子、シャンプー台まで完備されていた。
「一週間で、ここまで?」
「お、坊ちゃーん、どうぞ中へー。」
上からの声。
見上げれば、二階の窓からチャーリーが手を振っていた。中に入ると、オリバー達が待っていた。
「まずは地下を。」
階段を下りれば、立派な工房があった。
炉や作業台が用意され、各々の仕事に合わせてか個室も作ってある。
次に二階。
リビングのような開けた場所には、かまどとキッチン、暖炉にソファやテーブルが揃えられていた。三つの部屋にはそれぞれネームプレートがかけられている。
三階も同じく、四つの部屋にネームプレートがかけられ、屋上への階段が出来ていた。
屋上への螺旋階段はレオナルドの指導のもと、チャーリーが作ったそうだ。
上れば、温室のようなものが作られていた。
中には多種多様な植物が。
「これは?」
「ディランの趣味でさぁ。薬草や香水のもとになる植物に詳しくかったんで、使えるかも知れねぇと。」
「素晴らしいです。簡単な薬や化粧品が作れるかもしれませんね。」
正直、驚いた。
こんなに仕事ができるなんて。
なんでこんな職人が不当な扱いを受けたんだよ。絶対もったいねぇし。いや、今さら返しもせんけどね?
「店の許可はギルドのマスターが優遇してくださいました。ギルドのランクも紫に。ジャック君が認めた者なら、依頼も安心して任せられると。」
「ウォルフさんか。」
一週間で茶から紫に昇格とは、本当に素質があったんだろうな。職業柄、体力や集中力が備わってたってこともあるのかな?
オリバーがグリグリと頭を撫でてきた。
ちょ、縮む縮む!
「明日から営業することになってんだ。いつでも来てくれや。坊ちゃんの頼みなら、おれ達は大歓迎だからよ。」
「忙しくて連絡できなかったけど、たまに連絡しても良いか?」
「もちろんです。」
明日のことを少し話して、彼等と別れる。
その日の夜のうちに、部屋でオルゴールの仕組みを書き出し、図面を起こしておいた。
今度遊びに行った時にでも渡そうか。
店が始まって二日。
早くも、騎士の人から店の話が出てきた。パンが絶品で、食事も出来るから彼女も連れて気軽に行けそうってさ。
理髪店の方は魔法で髪を切るから早く終わるし、何より貴重な体験ができたと好評だった。リュカは風との相性が良いみたいだね。おれと同じだ。
それと、パン屋の方では時計やブローチなんかも売ってるそうだ。質が良く、細かく作り込まれていて人気らしい。
大繁盛だね。
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そうそう、ウィルだけれど、無事に二人を認めたみたいだ。ノエル君の淹れる紅茶はかなり美味しいみたい。ウィルがお茶に誘ってくれた。
それに、シルバ君は剣の鍛練に付き合ってくれるうえ、街のこと、冒険譚や武勇伝を話してくれるらしく、お兄ちゃんのように慕われていた。
良かった良かった。
ウィルは大切な乳兄弟だけれど、あまり我儘が過ぎるようなら荒療治をするつもりだったし。
「ジャック殿、よろしいでしょうか?」
いつものように相談室で仕事をしていたら、近衛騎士の人がやってきた。わざわざ近衛騎士が呼びにくるなんて、珍しいな。
それに、この人女性だ。女性の騎士ってただでさえ人数少ないのに、近衛騎士になれるってすごくね?
鎧で顔が見えないのがちょっと残念だけど。
「はい。何でしょう?」
「陛下がお呼びです。」
「わかりました。」
服を直し、『中座中』の札をかけて、ついていく。
国王様は執務室で待っていた。
「おぉ、来たか。」
あ、仕事モードだ。
公式の場としての扱いなんだろうね、マントと王冠をつけているし、王妃は王子達も揃ってる。
ちょっと、不意打ちでこの空気は胃にくるぞ。
桜草置いてきてて良かった。
陛下の前に行き、頭を垂れる。
視界の隅の方で国王様の足が動いた。
「ジャック・ウィード。お主にジャクレイン・ハイスビル王子の訪問期間中、護衛及び案内の勤めを命じる。良いな?」
ジャクレイン・ハイスビル。
ハイスビル王国の第一王子であり、おれが言う堕王子。
まっさか、おれに護衛が回されるとはなぁ。
差し出された任命書を受け取る。
「謹んで拝命致します。」
「到着は明朝となっておる。文によれば、不穏な動きもあるとな。くれぐれも、油断するでないぞ。」
「承知致しました。」
下がって良し、と合図があったため、一礼して部屋を後にする。
部屋に任命書を置きに行って、一緒にくるまれていた紙に気付いた。書かれていたのは。
『監視も頼む』
でしょうね。
言われずとも監視しますよ。
堕王子が何かやらかしてくれる前に動くさ。国王様も考慮してくれたのか、帯刀を許可してくれてるし。
常識もないなら、叩き込んでやる。
次話は数日中に投稿します。