拾ったのは六人の男達
投稿の設定をミスってた( ; ゜Д゜)
二話を連続で投稿します。
翌朝、また相談室の扉に『本日休業』の札をかけ、城を出る。真っ先に向かうのは昨日行った森だ。
お金は一応全額持ってきた。ウォルフさんにもらった収納用の腕輪に入れてる。
自分の魔力を追って行けば、男達がいた。
「おはようございます。」
「本当に来やがった・・・。」
何で疑ってたの、そりゃ来ますよ。
このままにしてたら骨になるよ?
「何か事情があるのでしたら、話してはいただけませんか?僕はこの通り、身なりは良いですが、身分は平民です。」
ギルドからもらったハンターのタグを見せる。
記されているのは『Third』。
第三身分である平民という意味の単語。
『First』は王族とその血筋である第一身分。
『Second』は貴族をまとめた第二身分を表す。
男達の目が見開かれ、不可解そうに首が傾いた。
「何故ボロボロなんですか?」
「・・・おれ達ゃ、家業を継いで細々と仕事をしてた。贔屓にしてた貴族もいた。それが、アイツ等いきなり、もっと質の良い仕事の早い店があるからつって切り捨てやがったっ。おれ達ゃ、長く使える物を作ってきた!作業が遅ぇこともあったろうさ!だがそれは材料を他の店が買い占めたりしたからだ!」
一人が溢せば、思いは伝播する。
一人、一人と悔しげに身の上話を語っていった。
貴族ではなく、同じ平民のために物を作っていたがために、貴族の反感を買い、あらぬ濡れ衣を被せられ家を焼かれた者。たった一度の失敗で、片腕を奪われた者。必死に繋いできた家業を、弟子の裏切りによって全て奪われた者。仕事の内容で教会の反感を買い、異端認定をされた者。
皆、命と同じぐらい大切な職を失った人達だった。一人は、まだ幼い家族がいた。
何で森にいたのか、少しでもお金を作って家族に送るため。襲い、脅したりはしたものの、誰一人として殺してはないそうだ。
まだ、やり直せる所にいるね。
少し手を貸すことしかできないけれど、見捨てるのはちょっと、ね?袖触れ合うも多生の縁、と言うし。
「では、僕に教えて下さい。皆さんが必要なのはお金だけですか?」
問えばポカンッとした顔をする。
リーダーなのか、一人のおいちゃんが首を横に振った。
「違ぇな。おれ達に必要なのは仕事だ。」
答えたおいちゃんの目に、全員の目に、鋭い光が宿る。うんうん、やる気は十分のようだし、応援してみようか。
茨の拘束を解き、おいちゃん達に清潔の魔法をかけた。
うん、綺麗にはなったけど、髪や髭はボサボサだね。
「一度ギルドに行くよ。話はそこで。」
たしかギルドにはお風呂があったはず。
替えの服を売ってるのは前に見かけたから、服の心配はいらないね。ハサミか何か置いてあればもっと良いんだけど。
六人のおいちゃんを連れてギルドに入れば、まぁ、注目はされるよね。カウンターでお風呂代と服代を払って、お風呂においちゃん達を押し込む。
銀貨三枚ぐらいでガタガタ言わない!
「家、ですか?」
「できれば、お店として使える建物をお願いします。」
カウンターのお兄さんに家を探してもらう。
奥に一回引っ込んで、四枚資料を持って帰ってきた。
「城から近い場所に一つ、この近くに二つと、門の側に一つあります。城に近い場所ですと、お金はかかりますが住居兼店として使えますよ。」
見取り図を差し出された。
地下一階があって、地上三階建て。
一階は店として、二階からは住居として使えるようだ。地下は自由に使えるようになっており、地下への扉は外にもある。
ぴったし、と言って良いほどの好物件だ。
神様とやら、ありがとう。
金額は少し高く、月に銀貨20枚。
頑張って稼がんとキツいな。
あ、お風呂あがったみたいだって、わぁお。
中々にカッコいい人ばっかりじゃん。おいちゃんって言ってたけど、若い人もいるね。手招きして集める。
「月にどれぐらいなら稼げますか?」
少し困惑された。
資料を渡す。
「材料費とかを抜いて、家賃を払っていけそう?」
仲間内で資料を見せあい、何事か話し合ってる。
少し聞こえてきたのは、何ができるか。
時計、大工、金属加工に、理髪師、パン屋、造形師。
おいおい、何でもありなのかおいちゃん達。
話を聞いているうちに、少し面白いことを思いついた。
今世の中で聞ける音楽は、楽団や吟遊詩人、音楽家が行う演奏会でのみだ。
録音技術などないから、本人達を雇う形。
少し頭の中で想像を膨らませていたら、おいちゃん達の意見がまとまったようだね。
「おそらく、払える。だが、やってみないと、確実なことは言えねぇ。」
「ん、それもそうですね。ひとまず、ここを買いましょう。」
お金を払って、鍵をもらってギルドを出る。
本当に城に近かった。
城から、三軒行って裏に入ったところだ。
鍵を開けて、一階は通りに面した壁がガラス張りで中が丸見えだったため、二階に上がった。
広間のように開けた場所で腰を下ろす。
おいちゃん達も大人しく座った。
先頭のおいちゃんに鍵を渡す。
「ここは、今この瞬間から皆さんの家であり仕事場となります。各々、好きな仕事をするために使って構いません。ただ、いくつかこちらから出すお願いを聞いてもらえますか?」
「受けるかは、聞いてから決めても良いのか?」
「もちろんです。」
「わかった。聞かせてくれ。」
頷かれ、考えていた案を頭から引っ張り出す。
「一つ目、皆さんにはギルドのハンターを兼業してもらいたい。ハンターでしたらお金を稼げるうえ、材料の調達もできるますから。二つ目、ここを皆さんのように危機に晒されてる職人を保護、支えるために運営してほしい。」
一度言葉を区切る。
「三つ目、僕が作ろうと思ってるお店を、建てて欲しい。もちろん、今すぐではありません。何年か後に。」
「・・・それだけか?」
「はい。これだけです。」
おいちゃん達がまた話し合いを始めた。
しばらくして、おいちゃん達は綺麗に整列する。
え、何事?
「慎んで、お受けします。」
「驚きました。それは良かった。では、これは最初の投資に。」
小さな袋を代表のおいちゃんに渡す。
開けて良いですよ、と言えば袋を手の上でひっくり返す。
大きな武骨な手に落ちたのは金色のコインだ。
「き、んかっ?!」
「生活用品や内装を整えるには足りないかもしれませんが、使って下さい。ハンターの方は、気軽に相談して下さいね。これは僕への通信用魔道具です。」
イヤーカフのような形状の魔道具を渡す。
ものすごく動揺された。
「ぇ、ちょ、坊ちゃん何者なんだ?!」
「平民ですよ。少し特殊な環境にいますが。あ、まだ名乗っていませんでしたね。」
姿勢を正す。
「僕はジャック。ジャック・ウィードと申します。これからよろしくお願いしますね。」
「・・・ジャック?あの、末王子の乳兄弟の?」
その『あの』って何?
おれってそんなに知られてんの?何故?
「・・・おれ達も名乗らせてもらう。おれはオリバー・ロレンツォ、時計職人だ。歯車のことならおれに任せな。」
代表のおいちゃん、オリバーが胸を叩く。
深い茶の髪とオリーブ色の目が特徴。
「おれはチャーリー・マッテオ。金属加工なら任してな。坊ちゃんの望み通りの物を作ってやっからなっ。」
元気なチャーリー。あ、オリバーがぶっ叩いてる。弟子?みたいだね。自立した後らしい。
くすんだ金髪にオレンジの目。
「わしはレオナルド・サンディ。大工をしとった、力仕事は任せぇ。」
屈強で親方、と表現したい風貌のレオナルド。
頭は髪を刈り上げていて、目はグレー。
「私はリュカです。リュカ・エイブラム。理髪師をしていました。髪のこと、医療のことはお力になれるかと。」
控えめなリュカ。左腕を失ってる。
淡い栗色の髪にブラウンの目。
「――ん?おれか?あ、おれみたいだな。ジョシュア・フリッグスだ。パン焼くことなら腕に自信があるぜ。よろしく頼むな坊ちゃん。」
朗らかに笑うジョシュア。
褐色の肌に白の髪、目は翡翠。
「ディラン。人形や生き物を像を作る。」
口数が少なく逃げ腰なディラン。
濃紺の髪に、銀の目。
うん、ジョシュアとディランは他国から来たか、その血を継いでるっぽい。目や髪の色が珍しい。
「坊、わしの家族は、ここに住めるか?」
レオナルドが尋ねてきた。
見取り図だと部屋は七つだったな。
一人部屋とすれば広いが、二人となると狭い。
「家族は何人ですか?」
「妻と娘が。娘は今年で六つになる。」
「男所帯に女の子ですか・・・一部屋余裕がありますから、ひとまず奥さんと娘さんはその部屋に。他の方も構いませんか?」
頷く一同。
レオナルドは明日辺りに家族を迎えに行くそうだ。
「坊ちゃん、この店に名前をくれねぇか?」
「構いませんが、僕がつけてよろしいのですか?」
「坊ちゃんがいなけりゃなかった店だからなぁ。」
少し考える。
できるれば、故郷に縁のあるものにしたい。
『ここ』にいる、とまだ見ぬ同胞達の目印になれるもの。それでいて、彼等にあった店の名を。
「ふむ。・・・・・・では、兼職屋『夜蝶』。夜は必ず明けるものですし、蝶は復活の象徴。新しい自分になる、強く美しく変化するという意味を込めて、この名を送らせてもらいます。」
一拍、二拍、間を空けて、ぶわっとオリバー達が泣いた。え、ちょ、何で??
「ぇ、あ、嫌?嫌でしたか?」
確かに蝶は女性ぽかったかな?!
でも泣くほど嫌がる?!
慌てたら、ぶんぶんと首を横に振られる。
え、じゃあ何で泣くの?
顔が整ってるだけに泣き顔がこれだと、なんというか、もったいない感がすごいんだけど?も少し綺麗に泣かない?
「すまねぇ、情けねぇ所を見せたな。」
「不意打ちすぎた。」
ゴッシゴッシと顔を拭うオリバー達。
ちょ、あっらいな?!顔の皮剥けるって!優しく!
「何と言いますか、申し訳ない。えっと、仕事の合間で良いので、『オルゴール』と言う物を作ってみませんか?」
おれが一番試してみたい物。
「おる、ごる?」
「オルゴール。細かい説明は準備ができてからしますが、音楽を奏でる機械仕掛けの楽器です。時計と似て、歯車を組み合わせますし、金属を加工する技術が必須です。もし作れれば、人形の仕掛けも組み合わせたいと思っています。」
オリバー、チャーリー、ディランが反応する。
そうだな、お店の案もついでに言っておこうか。
「一階のお店は、かなり広いですからパン屋と軽い食事処を半分、理髪店を半分にして使えるはずです。パン屋はテラス席を作れば人気は出ると思いますよ。女性は喜ぶでしょうから。棚やカウンター、テラスの屋根は大工職が必要になるでしょうし、あれ?このメンバーが揃っているとほぼ完璧では?」
大半を身内でまかなえるじゃん。
人経費が浮くね。やった。
レオナルドやジョシュアが嬉しそうにする反面、リュカの表情は暗い。あぁ、利き腕である左腕が無いから、理髪師の仕事ができないと思ってるのかな?
「ハンターを兼業するなら、全員に一通りの魔法と剣術は仕込まれます。リュカ、魔法で理髪師をするの、この国では貴方が初めてでは?」
ニコッと笑って言えば、パッとリュカがこっちを見た。
驚いたような、希望が見えたような顔。
「オリバー達がいれば、義肢を作ることも可能でしょう。諦めるには早すぎますよ。」
「坊ちゃん、すげぇな。」
「僕に出来るのは提案と助言だけです。実行し、実現するのは皆さんですよ。」
「おれ張りきってパン焼くな!」
「すげぇ、こんなに楽しくなるって自立の時以来だ!」
興奮ぎみの若者衆に笑みが溢れる。
「まずは生活区域を整えてから、ですよ?」
「そうだな。坊ちゃんは帰るのか?」
「そう、ですね。何かあれば連絡をして下さい。相談にものりますから、気軽にどうぞ。」
六人と別れ、城へと戻る。
この時のジャックは知らない。
彼等の能力の高さを。
彼等が夢を叶える最高の協力者になることを。
ちょっと筆がのり始めたので、定期的な更新を目指します!