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ハンター

ものすごく間が空きました。

申し訳ないです。

受付にいたのは、猫耳の女性。

獣人種と呼ばれる人達だ。

人であり、動物の特徴を合わせ持つ存在。


「ようこそ、ギルドへ。」


「登録をお願いします。」


「新規の方ですね。こちらにご記入をお願いします。」


紙に名前や年齢を記入していく。

ふと、親族の欄でペンが止まった。

少し考えて、空欄にしておく。


紙を渡した時、少し複雑そうな顔をされた。

あー、そんなに気にしないで欲しいなぁ、自分の中ではちゃんと踏ん切りがついてるし。


「ん?・・・ジャック・ウィード?もしかして、ジャック君か?」


奥で作業していた男性が紙を見て声をかけてきた。

頷いておく。


「え?あの子がジャック君なのか?」


「うっそ?!本物!?」


「へぇ、あの子が。」


ギルドにいた人がザワザワと騒ぎだす。

待て待て?何でそんなに騒がれるのさ?


「あ、モーラ。その子、銀の試験受けさせるようにってマスターが。」


「・・・わかりました。ジャック君、右の扉に進んで下さい。」


「はい。ありがとうございます。」


一礼して、右に行く。

銀の試験と言ってたけど、正気なのかね?


あ、ギルドのランクは色で分けられてる。

下から、茶、紫、銅、銀、金、白、黒の順。

黒のタグを持つのは世界でも10人に満たないそうな。白でも14人ほどだった。まぁ、規格外の人達用だね。

金と銀は人数は多いけど、かなりの実力者ばかり。

銅は上級、紫は中級、茶は素人の流れになってる。


まぁ、10歳で銀の試験を受けるのは、おれが初めてなんじゃないかな?普通は茶からやるもんだし。


扉を開けて長い廊下を進んだら、広い闘技場のような場所に出た。


「主が銀の候補者かえ?」


首を傾げたのは、額に赤い角を五本に尖った牙、赤い鱗に覆われた尾を持つ女性。目を焼くようや真っ赤な髪が印象的だ。ゆるりと細められた金の目にうなじが粟立つ。


「そうみたいです。」


恐らく、竜人種。

ドラゴンと人の間に生まれた、非常に少なく強い存在。

角や尾があるってことは、ドラゴンよりなんだろう。

人よりかなり長寿だと言っていたからなぁ。若そうに見えて、倍以上歳上なのかね?


「そうかそうか。わっちはラニア、銀の試験を任された者よ。ランクは金。見ての通り竜人種よ。」


「ジャック・ウィードです。よろしくお願いします。」


一礼して桜草に手をかける。


「小手調べからよの。『炎舞』。」


ラニアさんを中心に炎が吹きだした。

ヒュッと喉が鳴って、嫌な記憶が蘇る。


「っ、『空斬』加えて『水華(ナーシサス)』!」


炎を風が切り裂き、場を埋め尽くすように咲き乱れた水の華が飲み込む。

視界の端を赤が閃き、桜草を振り抜く。


鉄がぶつかる音と衝撃。

コンマ数秒後、硬い赤に弾き飛ばされた。


「っ!」


ラニアさんの赤い尾がゆらりと揺れる。

尻尾で攻撃してくるって、アリなのかよ。

モロにぶつかったから痛い。クラクラする。


「ふむ。主、一先ず何も考えずぶつかって来ると良い。」


「はい?」


「知人が言っておうたな。戦う者は大きく二つに分けることができる、と。一つは、臨場型。その場その場で心行くままに戦う者よな。もう一つが、客観型。冷静に場を見極め最善の手を打ち戦う者、主の様な者のことよ。」


興醒め、とでも言うようにプラプラと手を振るラニアさん。


「客観型はつまらぬ。主は熱意が感じられぬ、戦いを舐めておるようにしか見えぬぞ。」


周囲に炎を浮かべながら、ラニアさんが剣を向けてきた。金の目が射抜くように鋭さを増す。


「主のそれは、人を傷つけることを嫌っておる者のそれよ。」


その程度の覚悟なら武器を捨てよ、と吐き捨てられる。気づけば、桜草を握り締めていた。

腰が落ち、低く低く構える。


「生まれて初めてです。」


唸るような低い声が喉から絞り出される。

沸騰するように熱い血が全身を逆流し、目の前が真っ赤に染まる。


「こんなにおれの逆鱗に触れる人がいるなんて。」


自分の顔がどうなっているのか、どうしてこんなに怒っているのか、わからない。

体が自分の意思を無視して動く。


「おれの、おれ達の覚悟が、他人ごときにわかってたまるか!!」



ラニアと見ていたウォルフの二人は、ジャックの実力が高いことは知っていた。

アドルフからのお墨付きで、数年前の事件での活躍。街中でジャックの名が広まったこともあり、ギルドで知らない者はいないほどだった。


その反面、アドルフには本気を出していない、と言われ。実際に剣を交えれば、その粗が目立つ。

人を傷つけまいと加減された攻撃、勝利を求めない空虚さ。戦いに生きる者にとっては怒りを覚えるほど。


だから、責めるような事を言った。

結果、ジャックの怒りを買った。


その程度の覚悟なら武器を捨てよ、とラニアが告げた時、ジャックは桜草を握り締めた。ギチリと音がするほどに。

そして、腰が落ち、低く構える。


「生まれて初めてです。」


地の底から響くような低い声。

怒りで我を忘れたのか、ラニアから焦点がズレ、戻る。


「こんなにおれの逆鱗に触れる人がいるなんて。」


口は嘲るように歪められ、目は怒りという名の狂気に染まる。怒りの表情でありながら、ジャックは青いその目から大粒の雫をこぼしていた。


「おれの、おれ達の覚悟が、他人ごときにわかってたまるか!!」


吠えるような声と共に、銀の軌跡を残してジャックが駆ける。


火花を散らしてラニアと交差すれば、銀に輝く髪が踊り、ラニアの顔が歪む。

荒々しくラニアを蹴りとばすように距離をとるジャック。


「『加速』、『黒棘』。」


シュルリと影という影から荊が延び、ラニアを貫かんと蠢く。


「っ!不味いの。」


すぅっと深く息を吸うラニア。

クッとジャックを見据え、口を開く。


轟っと空気が震え、炎が吹き出される。

ジャックの反応は早く、炎が頬や服を舐めるのを無視してラニアへと向かう。


目を見開いたラニアへと桜草が突き立てられる寸前、ジャックのこめかみで水の弾丸が爆ぜた。

勢いのまま、地面に落ちるジャック。


「・・・ウォルフ。」


責めるような眼差しを向けられ、ウォルフが苦笑する。ヒラリと壁の上から降りると、ジャックを抱き上げる。

頬には火傷、服は裾が焦げ、あちこちにかすり傷をつけ、ぐったりと意識を失った少年。

少女と見紛うほど整った綺麗な顔。

白磁の肌に、火傷は酷く生々しく目立っていた。


「まるで獣みたいだったなぁ。ランクはどうだ?」


「合格に決まっていよう?わっちに息吹を使わせた子ぞ?」


ラニアが慈しむようにジャックを撫でる。

彼女の指輪から黄金の羽根が舞い、ジャックの傷口へと溶けてゆく。羽根が消える頃には傷は全ての癒えていた。


「あまり苛めてやるでないぞ。」


「当たり前だろ。」


言葉を交わしながら二人はギルドの中へと戻った。

誰かに見つかる前に上の階にある部屋に入る。

大きなソファにジャックを寝かせると、古風な机に座るウォルフ。


「ではわっちは戻るゆえ。」


「あぁ、今度良い酒を贈る。」


「もとより興味はあったゆえ、そう気にするな。」


ヒラリと手を振って、ラニアが部屋を去る。

ウォルフは机に積まれている紙に手を伸ばし、ペンを走らせる。




パチッとなにかが弾けるような、軽くてよく響く音が聞こえた。ゆるゆると重いまぶたを開けば、見知らぬ天井と男の顔。


・・・ちっかっ?!

ズザッと身を引いたら、男は離れて苦笑を浮かべる。


「あー、その、驚かしてごめんな。タグ着けてたんだ。」


視線を下に移せば、確かに紐に通されたタグがあった。シルバーのタグで、名前と出身国、年齢、身分が記されてる。


「そのタグは依頼を受ける時なんかの身分証明になるから、無くしたりしないように。もし売ったりすると、ギルドから除名されて、罰金が課せられるから。」


「はい。」


「ん、じゃあ少し待ってて。ギルマスさっき出かけたから。」


淡いブラウンの髪と目の男の人はそう言うとパタパタと動き始めた。部屋の端にある棚に移動して、カチャカチャと何かをしてる。


ふわっと甘い香りがして、マグカップを手に男の人が戻ってきた。


「はい。ホットチョコだよ。」


大きいマグカップを受け取って、冷ましながら一口。

こっくりとした甘さと少しの苦み、ミルクの柔らかい味を堪能していると、風が頬を撫でて、吹き出す声が響いた。


「あ、ギルマス、おかえりなさい。」


「っ、あー、おう。ただいま。こうやって見ると、坊主もまだまだ子供だな。」


ポフポフと頭を撫でられた。

良いじゃん、甘いものは好きなんだもん。

ホットチョコとかあんま飲めなかったし、というかこっち来てから二回しかないし。


とにかく、吹き出すほどか?

ちょっと不機嫌になったけど、男の人がおろおろしてたから口に出すのは止めといた。


「坊主は晴れて銀ランク入り、暇な時は依頼でも受けにきな。」


「はい。」


「おめでとさん。これはおれからのお祝いだ。」


ラッピングされた箱を渡される。

開けていいと促されたので、開けて中を見てみると、二つの輪が重なったようなデザインの腕輪が入っていた。


「収納の魔道具だ。」


腕に通せば、輪が縮んで丁度良いサイズになる。


「ありがとうございます。あの、ラニアさんは?」


ぶっちゃけると、ラニアさんに怒鳴った後の記憶がない。やらかした?やらかしたよね?


「あぁ、仕事があるからな。帰ったぞ。まぁ、気にすんな。」


「そう、ですか。」


「それと、直に日が暮れる。帰るか?」


えっ、ちょっ、おれそんなに寝てたのか?!


「帰ります。」


「テオ、送ってこい。」


「え、あ、了解です。」


男の人、テオさんに連れられ、ギルドを後にした。

テオさんはギルドに拾われたそうだ。

故郷の村を魔物に襲われて、家族と散り散りになったとか。


軽く質問していくと、近年魔物の動きが活発化しているらしい。何かあったのかね?


城門の前でテオさんと別れる。


「ありがとうございました。」


「こちらこそ、話し相手になってくれてありがとう。」


城に入ると、シルク王子が猛スピードでつっこんできた。


「ジャック!ウィルをなんとかして!」


はい?


次話は、一週間以内に、必ず更新します。

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