街にて
三日後と言っておきながら三ヶ月という、この体たらく。
別の事に熱中していました。
読んでいただいている方々、申し訳ありません。
約束の日。
ウィルと街に行く日がきた。
シンプルな黒のシャツと紺のスラックスを着たウィルと、淡い青色のロングワンピースの母様。
母様はジェイド王子から貰った魔道具のブローチをつけてる。
ちなみに、おれは白のシャツに黒のズボンを着て、魔道具のポーラータイをつけてる。
護衛につくのは、第三騎士団からカシューさんとフランさん、その他五名。あと、第二騎士団から魔法師が三名。
精鋭を集め、10人にまで減らしたそうだ。
あまり護衛が多いと目立つし、一般の人が怖がるからね。
「では、行って参ります。」
「うむ、気をつけるようにの。カシューに資金は持たせておるゆえ。」
国王様と王妃様、王子達に見送られて城門にむかう。
城の方から嫌な視線を感じたが、結構な人数のようなので無視する。たぶん掃除婦達や大臣なんかだろう。
ウィルは気づかず母様と話してる。
カシューさんは少し顔をしかめていたから、たぶん気づいてるね。ため息ついてるし。
あ、護衛の人はラフな服装をしてる。
ただ、細身の剣を帯刀をしてるから、それを隠す意味でも白いローブを着てる。そのせいで、端から見たらかなり異様な気もするんだけどね?
そして、残念ながらおれに武器は無い。
今持ってるのは、魔除けの小瓶三本くらいだ。
城門をくぐる前に、カシューさんから母様とおれに小袋が渡された。 ジャラっという音と重くゴツゴツとした中身、お金だとわかった。それも、かなりの額。
「こちらは?」
「国王陛下から、お二方にと。」
母様がびっくりして固まってる。
国王様よ、寛大すぎやしないですかね?助かるけども。
「ウィリアム王子殿下の分は預かっておりますゆえ、欲しいものがあれば私に。」
「わかった。」
そして、城門をくぐる。
城を囲む大通りを横切り、少し歩けば賑やかな街になる。
店から香る美味しそうな料理の匂い、元気な子供の声、活気がありとても華やかだ。
おれはそっと胸のブローチに手をあてる。
「『記す』。」
ブローチが淡く発光したのを確認。
よし、記録できてるみたいだし、楽しみますか。
「ジャック、ジャック! 凄いな!」
かなり興奮したウィルにあちこち引っ張られる。
待っ、待って。腕千切れる。
「ウィル坊ちゃん、ジャック君が驚いていますから。」
見かねたカシューさんがストップをかけてくれた。
あぁ、呼び名は変えてあるよ。
王子ってバレたら騒ぎになるから、貴族のお坊ちゃん風。
「あ、ごめん。」
「大丈夫。どの店が見たいの?」
ウィルが少しためらってから指さしたのは、狭い路地にある小さな店。人の隙間から様々な武器が見えた。
念のため、カシューさん達を見る。
「構いませんよ。」
そっと微笑まれた。
ウィルの手をとって、店に行く。
「おや、可愛らしいお客さんだ。いらっしゃい。ゆっくり見ておいき。」
顔を覗かせれば、優しそうな男性に迎えられた。
だいたい、40歳あたりかな?
赤茶色の髪にブラウンの瞳をしてる。
雰囲気は世のお父さんを想像してもらえば。
店は武器屋。
短剣から大剣まで、弓や暗器もあった、幅広いな。
「すごい。」
「驚きましたね。こちらにある物は貴方が?」
「えぇ、代々しがない鍛冶屋でして。」
穏やかに笑う店主の後ろ、台の上にあるモノを見て驚愕した。
「それも武器なの?」
おれが聞く前にウィルが尋ねる。
母様も気になったのか興味津々で見てる。
「あぁ、それは『影光』の一振りで、片刃の剣だよ。」
「おさふね。」
ぽろっと溢れた言葉にバッとこっちを見る店主。
ウィルや母様達には聞こえなかったようで、首を傾げている。ゆっくりと店主はおれを手招きする。
「坊ちゃん、麦わら帽子の少年を知ってる?」
「うん、赤髪のおっちゃんにもらってたよね。」
「おお、そうかそうか。博識な坊ちゃんにはコイツをあげよう。」
何の話?と首を傾げる母様達をひとまずスルー。
店主はゴソゴソと荷物を漁り、手渡されるのは剣。
鞘は桜の花が彫られた焦げ茶の皮製だ。
抜いてみれば、厚めの片刃、長さは刃だけで40センチぐらいある。脇差の部類か?
刀と酷似しているが、柄から刃までは一繋ぎだ。
「三番、桜草。炎の加護がかかっている。」
ちょっと待て、加護がかかってる武器って高級品じゃ?
ていうか、桜草の花言葉ってアレだろ?洒落てるなぁ。
「いくらなの?後、ウィルにも一つ見繕ってもらえますか?」
名前があげられたウィルは大剣に夢中になっていた。
カシューさんは珍しそうに桜草を眺めてる。
「・・・ふむ、あちらの坊ちゃんは両刃がよさそうだ。」
棚から長めの短剣を取り出す店主。
柄に透明の結晶が埋め込まれている綺麗な剣だ。
渡されたウィルは首を傾げてる。
「埋め込んである結晶には好きな魔力をこめておけるよ。水属性であれば水を纏う剣に。光属性であれば雷を纏う剣になる。きっと坊ちゃんの役にたつよ。」
またチートじみた剣を。
カシューさんがめっちゃ羨ましそうに見てるし、他の護衛さんも目がキラキラしてるじゃんか。
「でも、高いんじゃ。」
「本来は銀貨10枚。でも坊ちゃん二人の将来に期待を込めて、銀貨1枚で手を打とう。どうかな?」
値切りすぎだ、阿呆。
おま、銀貨10枚と1枚だと、一万円と百円ぐらいの差があるだろうが。一気に下げすぎだ。
「カシュー、どう?」
「銀貨10枚でも大丈夫ですよ。十分にあります。」
おれは母様を見る。
微笑んで銀貨をくれた。
「初めての剣ですからね、大切に。」
「うん。」
ウィルが先に支払い、おれがお金を払う時、小さな鍵をもらった。
「帰って、鍵で剣を叩くと良い。」
ボソっと囁かれた言葉。
無言で鍵を握り締める。
店を出て、ウィルはとても嬉しそうだ。
おれも安心した。武器が買えたのは幸運だ。
それと新たな収穫だ。あの店の店主、おそらく同類。
他にもいるかも知れないと思っていたら、まさか本当にいるとはね。心の底から驚いたわ。
雑貨店や書店などを回って、昼食用のサンドイッチを買う。サンドイッチを買った店は、元騎士団の人が営んでいるらしく、騎士や国王様達もよく来る店らしい。
種類が多くボリュームがあって、美味しいと評判なんだとか。
その後、おれの家に寄った。
母様がたまに帰っては掃除をしていたらしく、とても綺麗だった。記憶よりも狭く感じる我が家に、少しだけ成長を実感する。
「ジャック、覚えているかしら?貴方が寝ていたベッドよ。」
母様が見せてくれたのは、木製の小さなベッド。
あぁ、確かにこのベッドだ。
初めて目が覚めた時はびっくりしたよなぁ。
小首を傾げていると母様がクスクスと笑う。
優しく頭を撫でられた。
しばらく昔話に花を咲かせ、ウィルと一緒に家の探険をした。家族の写真があって、ウィルが格好良い人だ、と言ってくれたのがとても誇らしかった。
昼食頃になると、我が家を後にして街を抜けた。
少し歩くと見晴らしの良い丘につく。
街が一望できる高さだ。
「こんな場所があったんですね。」
カシューさんが呟く。
ウィルは口を開けて感動してた。
「ここは、夫アスランとの思い出の場所です。ここでプロポーズされましたわ。」
わお、父様ロマンチスト。
素晴らしいプロポーズの仕方だ。
布を敷いて、昼食をとる。
おれは定番の野菜と卵のサンドイッチ。
ウィルは肉と野菜のガッツリサンド。
あの店は肉がうまいとか、あそこは治安が悪いとか、護衛の人から聞きながらゆったりと過ごしていた。
日が傾いて、酒飲みがでる前に帰ろうとなった時だ。
丘の街とは逆の方にある森から集団が出てきた。
護衛が前に出て、警戒する。
フランさんは母様とおれの前に立った。
ボロボロの外套を被った集団はゆったりとこっちへと向かってくる。ふと違和感を感じた。
何かはわからない。でも、胸騒ぎがする。
そっと桜草に手をかけ、いつでも動けるように足に強化魔法をかける。
ザァッと木々をざわめかせる風が吹き、集団の数名からフードが外れた。
先頭に立つ人の顔が見えた。
土のついた茶色の髪、赤みのある茶の瞳。
のびてしまったひげ。
ウィルが息を飲む音がした。
母様がふらりと一歩踏み出す。
護衛やフランさんの目が見開かれる。
「アスラン!」
母様の歓喜に満ちた声。
そう、3年前魔族によって連れ去られた父、アスラン・ウィードが、そこにいた。
ちょっとだけネタに困っていた話でした。
次話は早く書きあがれるハズです。
また後書きでお会いしましょう。