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試験

間に合った! 今回少し長いです。

結構急いでいたので、もしかしたら誤字があるかもしれません。

見かけたらご指摘いただけると助かります。

近衛騎士からの連絡で、執務室には王子達とその騎士と執事が集まっていた。


自然と整列した王子達の前には、椅子に沈む国王の姿があった。心なしか疲れているようだ。

訓練を受けているウィリアムはいないため、なぜ呼ばれたかがわからない王子達。


「お父様、何があったのですか?」


状況が飲み込めない弟達に代わって、セアラ王女が口を開いた。


「アドルフを、覚えておるか?」


そっと、国王の口から出された名前に、全員の顔が一瞬 硬直し、すぐにもとの表情に戻る。


「ジャック君が、アドルフの試験を受けることになった。」


「「「「・・・はい?」」」」


ケヴィン王子を除く全員が、目を丸くする。

セアラ王女とアルイト王子の目が細くなり、隣のケヴィン王子へと向けられた。


「兄様? 止めなかったのですか?」


「すまん。止まらなかった。」


妹と弟の厳しい目に、長男はばつが悪そうに顔を反らしながら弁明する。

二人はため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。


「アドルフが挑発しよったのだ。午後から、いつもの場所で行うと。」


国王の話を聞いて、王子達も後ろの騎士達も、皆もの言いたげだった。何せ、彼等は話に上がっている男をよく知っていた。

何者で、どれほどの実力があるかを。


だからこそ、まだ幼い彼が心配で仕方がないのだ。




「火は使わないほうが良いかな? 万が一ってことがあるし。」


一方で、ジャック本人はと言うと、王子達の心配など露知らず、黙々と魔法の復習にいそしんでいた。


普段の大人しい、丁寧な口調は行方を眩まし、いつもよりやや低い声音。彼の纏う空気も、ピリピリとしていた。


宝箱から取り出した数枚のメモを片手に、ぶつぶつと呟く。メモには魔方陣や文字が並び、不可解な模様のようになっていた。


「使うなら、水と風ぐらいかな? 土、植物もありっちゃありか。・・・いや、2つに絞るか。」


「ジャック、そろそろお昼になるわ。手伝ってもらえるかしら?」


「うん。すぐ行くよ。」


母のエミリアの声で、ふっと空気が和らぎ、いつもの子供らしい彼になる。

素早くメモを片づけ、部屋を出ていった。




昼食の用意が整う頃にウィルが帰ってきた。

あちこちにすり傷があったけど、本人が誇らしげなので『男の勲章』とやらだろう。


午後は剣の型を中心に訓練をするそうだ。

おれのことは知らされてないのかな?

まぁ、完全に我流の技しか知らないから、手本にはならないだろうし見せるつもりは、さらさらないんだけどね。


ある意味、今の自分の実力を試せる良い機会だ。

魔法はともかく、武術は全力で行こう。


言い忘れてたけど、ウィルの昼食はマナーを覚えるまでは、この部屋でとるそうだ。 もちろん、おれと母様は先に済ませてる。


しばらくしたら、ウィルは食堂か。

何と言うか、寂しいような嬉しいような、複雑だな。


ウィルが午後の訓練に向かい、片づけをしていると、扉がノックされた。おれが空になった皿を下げていたので、母様が扉を開けた。


「ジャック君はいるかな?」


顔を覗かせたのは、第四王子のシルク王子。

ちょろちょろと動き回る様子をあちこちで見かけるから、リスのような子だと思う、今日この頃。


元気が良くて、頭も良いから、シルク王子を探す執事のアンジェリカさんは苦労するね。


それに、双子の妹 ローザ王女が思春期を迎えてからは、男のアンジェリカさんより女性のマリーさんと一緒にいることが増えた。そのせいか、アンジェリカさんとは別に、メイドを一人選ぼうか、って話も出てきてるからなぁ。


まぁ、双子といっても性別は違うからね、成長につれて男女の壁はできるだろうし、個人的には、メイドを増やして良いと思うけどねぇ。 とはいえ、ずっと一緒にいたアンジェリカさんは、かなりショックだろうなぁ。


いろいろと考えながら、皿を銀のトレイにのせて、扉へ向かう。おれを見つけた王子の目が少し穏やかになった。


「そろそろ時間でしょ? 案内するように頼まれたんだ。」


「ジャック、行ってらっしゃい。後は済ませておくわ。」


「すみません。シルク王子殿下、案内お願いします。」


母様の言葉に甘え、シルク王子に一礼して、ついて行く。


初めて会った時に比べたら、男の子らしくなったね。

身長は、145センチぐらいかな?

肩幅も広くなったし、声変わりも迎えたね。

ははっ、子供の成長って早いなぁ、なんて思ってるおれは、おじいちゃんおばあちゃんかっての。

・・・・あかん、目から水出てきた。


付け加えると、シルク王子はローザ王女と一緒に魔法の研究をしているらしい。 何でも、魔法の共鳴反応を一般化できないか調べるとか。


共鳴反応ってのは、あれだ、小学校か中学校の理科でやる『音叉の共鳴』みたいなものだと思ってくれ。

簡単に言うと、片割れの魔法を増幅させて、強い魔法にすることができる。


シルク王子とローザ王女はその共鳴反応ができるそうで、

一般化できれば、騎士達の武力も増強できるうえ、騎士がもつ魔法への偏見も和らぐのでは、と考えているそうな。

頭が良いなぁ、と感心しつつ、魔法への偏見ってあるんだ、と軽く凹んだ。

魔法は危険もあるけど、実用性は高いんだよ?

ゲームとかだったら、魔法剣士とかいるよ?

偏見って、そんな、ちょっと膝詰めてオハナシしよう?


とまぁ、いろいろと考えてましたけど、その間に途中の空き部屋で着替えたよ。

今の服装は、黒っぽいシャツとズボン。

どっちも麻のような素材で通気性が良く、動きやすい。


服を着替えるついでに、髪紐も替えた。

流石に父様のプレゼントをつけとく訳にはいかんからね。


廊下を進んでいくうちに、シルク王子が口を開いた。


「ジャック君、無理はしないようにね。」


「もちろんです。」


「本当に、無理はしないでね? あの方は向かってくる限り容赦しないから。」


シルク王子の忠告に即答すれば、念を押すようにもう一度言われた。あの方って、もしかしなくてもアドルフさんだよね? そんなに強いのか。何者なんだろ?

近衛騎士の騎士長さんとかかな?


「おぉ、やっと来たか。」


足下が廊下から石畳へ変わり、普通の土に変わったところで、嬉々とした声が聞こえた。


まぁ、アドルフさんなんだけど。

黒いシャツと茶色のズボンのラフな姿だ。


イケメンは何着てもカッコいいから腹立つよね。

・・・・今さらか、王子達も騎士達も皆美形揃いだし。


シルク王子は一礼して、端の方へ移動していった。

国王様達もいたから、たぶん観覧席だろうね。

ちゃんと日陰になってた。


「始めの一撃はお主からて良いぞ。好きな時にかかってこい。」


あ、もう始めて良いんだ。

とりあえず、地面を確認。


さらさらとした白っぽい砂だ。

学校のグラウンドと似たようなものかな?

靴が少し滑るかもしれないから、一応注意しておこう。


周りは城の壁と林が見えるくらいで、殺風景だ。

こっそり練習するためだけの広場みたい。


植物は少ないね、水気もそこまでない。

ふむ、使うとすれば、土と風か。

操作系になるな、復習しておいて正解だった。


「では、よろしくお願いいたします。」


一礼して、距離を一気に詰める。

まずは、一撃!



スパァンッ と澄んだ音がして、男の頭が揺れる。

小さな体からは想像も出来ないスピードでの一撃。


見ていた国王と王子達が目を見開いた。

冗談だろ、と呟いたのは誰だったか。


呟きと同時に、殺風景な裏庭に濃密な殺気が溢れる。



待て待て待て、一撃入れたらめっさ殺気出されたんですけど? え? 始めの一撃はおれから良いって言ったじゃん!


「ハッハッハッ! お主、想像以上に面白いな!」


口じゃ笑ってるけど、目が本気なんですけど?!

猫みたいだと思ってたのに! 獅子じゃん、怖ぇって!


トントン と跳ねるように下がり、構える。

警戒するおれに対して、アドルフさんは緩く構え、飄々として口を開いた。


「そういえば、名乗っておらんかったな。わしは、アドルフ・シュナイザーじゃ。代々王家の跡取りの試練を担当しておる。 クロノスとは旧知の仲よ。」


余裕綽々、といった感じで話すアドルフさん。

腹立つなぁ。結構真面目に殴ったんだけど、効いてないし。


「試練を担当ですか、では、王子殿下方の試練も貴殿が?」


「そうだ。あぁ、所属としては、秘密諜報団じゃな。武力に優れ、知識あるものから選ばれた精鋭の集りを仕切っておる。」


ちょっと待てや、こら。

どう考えても、国の最高峰にいる実力者なんですけど?


「苦そうな顔をしとるのぅ。」


心底愉快そうに呟く、腹黒な獅子。

くっそ、何であの時に何者か聞いとかなかったんだよ。


「・・・・どうりで、忠告されるわけです。」


こんなん無理ゲーだろ。

ま、簡単にやられてあげないけどさ。


足を魔力で強化し、上へ跳び上がる。

ふわり と裾が踊り、下を確認する。

強化に使った灰白色の魔力が、くるくると軌跡を描いていた。


アドルフさんは、構えてますねぇ?

何かきますよねぇ?・・・・先に仕掛けますか!


空中に風を凝縮し、足場にする。

踏み締め、落下速度を倍増させた。


ふと、アドルフさんの腕を銀色の蔦が覆う。


ちょっ、ふざけんなよ、それ風の魔力だろ、そんなんで殴ったらヤバいだろっ!って、慌てて両腕を強化して、振り上げる。


あっちが腕を引いた瞬間に、思いっきり叩きつけるように殴った。


爆音と衝撃、ぶつかり合って行き場を無くした魔力が、渦を巻いて周囲へ飛び散る。



砂埃と衝撃に、それぞれが障壁を展開する。

その中で、国王とアルイト王子の二人は思わず顔を覆っていた。彼が、無意識に見えざるモノを見ていることは、幼少期に知っていた。

それでも、今この場でか、とアルイト王子は愚痴を溢す。


「父上、今の動きは――」


「魔力を見て対応したの。」


「アドルフ殿に、バレましたよね。」


「バレたであろうな。」


面倒になるな、と声には出さないアルイト王子。

ため息をついたアルイト王子の肩を誰かが掴んだ。


「アルイト、知っていたの?」


セアラ王女だ。

その後ろには、説明しろ、とばりに凝視してくる双子。

もう一度深いため息を吐いて、後で説明する、と一時的に逃げた。



砂埃が目に入って、痛い。

ギリギリ相殺できたけど、風の魔力であちこち切られた。

殴った両腕、肘から先が特に酷いかな。

服がぼろぼろで、血が滴ってる。


本当に容赦ないな。鬼かよ、おれまだ6才なんだけど。


「我が意思を聞いて連なれ『刺山』」


言葉と同時に、足下が茶色く発光する。

おいおいおい?! 止め刺す気かよ!


「流離う者よ、我に翼を、『空庭(グレイプニル)』!」


踵を鳴らせば、一瞬で上空に跳ぶ。

足下には、六角形をした薄い銀色のパネルがある。


地上のおれがいた場所は、尖った土がひしめき、針山のようになってた。

あっぶねぇな、死ぬとこだったぞ?


解説するなら、アドルフさんが使ったのは土属性の魔法。

たぶん、スピオラド語を使ってた。

聞いたことないキーワードだったし。


あぁ、キーワードってのは、さっきの『空庭(グレイプニル)』みたいな最後の単語のことで、詠唱省略のときにも使うよ。 古代マルヴ語よりも、威力の微調整ができるとはいえ、あんまりだろ。


「考え事とは、余裕じゃの。」


真後ろからの声、振り返る前に背中に衝撃がきて、パネルからまっ逆さまに落ちる。

あー、くそ、めっちゃ痛ぇし。骨やったかな?


地面が近づいてきたので、着地の準備。


「撫でる者、淡き衣を広げよ、『羽衣(ゼーレ)』」


背中から、銀に青が混ざった色合いの布が広がる。

ふわり と体を布が包み、着地する。

布が溶けるように消えると、腕の出血が止まり、背中の痛みも和らいでいた。


風属性と水属性の混合魔法だ。

多少の回復効果がある。


「ほぉ、風と水か。これならどうかの?」


比較的近くに降りてきたアドルフさん。

その右腕が水平に振られる。


「『火蝶(ペタルデス)』」


横凪ぎの炎が、物理法則を無視して飛んでくる。


「『爆炎(エクリクシス)』加えて、清き者、我を守る楯となれ『水壁』」


まぁ、この早さだと回避は無理だろってことで、一転集中、炎の壁をぶち抜き、水属性で消すことにした。


おれが放った炎の塊は、炎の壁とぶつかり相殺される。

威力が弱まった炎の壁が、新たに出現した水の壁に当たり、消火された。


「ハハハッ、面白いな!」


ホッとしたのも束の間、獰猛に笑うアドルフさんが飛びかかってきた。 ちょっ、まだかよ?!

そろそろ魔力の使いすぎで倒れそうなんですけど?!


とりあえず、横っとびに避けて、構える。

手を握った瞬間、痺れるような痛みが走った。

あぁ、くそ! やっぱ、火傷したか!


泣き言言ってらんねぇか。

アドルフさんの蹴りをしゃがんで避け、軸足を払う。

うっわ、重っ! 動かねぇって。


仕方がないので、連続して横腹を蹴る。

あ? 頭を狙えって?・・・・届かねぇんだよ。

この体、まだ6才だって何べん言わす気だよ。


アドルフさんから距離を置き、様子を見る。

静かに、立っていた。

笑みを浮かべていた顔は、真顔になり、雰囲気がガラリと変わる。 背筋が凍った。


アドルフさんが一歩踏み出せば、次の瞬間には体が宙を舞った。 何が起きたか分からず、そのまま地面に激突する。

遅れて、腹部に激痛が走る。


「っ・・・ゲホゲホッ!」


嫌な汗が吹き出す。

視界の端で、アドルフさんがこっちにくるのが見えた。

おいおい、まだ続くのか。


なけなしの魔力で体を強化し、起き上がる。

視界がぶれてるけど、この際だ、知るか。


アドルフさんがニヤリと笑ったかと思えば、目の前が白くなる。


「そこまで。もう充分じゃろ。」


国王様がいた。

ふっと、全身から力が抜ける。

崩れ落ちるように倒れ、一気に意識が薄れる。


「ジャック?!」


切羽詰まった声を最後に、目の前が暗転した。




「お主はジャック君を殺すつもりか?」


怒気のこもった声で睨み付ける国王。

その後ろでケヴィン王子達は、ジャックの安否確認に動いた。


「本気を出して来ぬのだ。多少荒くもなる。」


アドルフは苛立ったように吐き捨てた。


「今は試すだけだと言ったぞ。それに、訓練もなにもうけていないのだ。本気を出す以前に、技術が足りておらん。」


「・・・・成長した暁には、もう一度試させてもらおう。」


そう言うと、アドルフは踵を返し城の中へ姿を消した。

国王は、ジャックを見に行く。


王子達が、小さな体を囲んでいた。


「父上。」


「容体はどうじゃ?」


「回復魔法で大半は治しました。ただ、魔力が枯渇しかけているのと、手の平の火傷はしばらく痛むかと。」


「ふむ。アルイト、前に言っておった物は出来ておるか?」


あまり良いとは言えない容体に、国王はアルイト王子を見る。


「念のため、持ってきてあります。」


そっと取り出されたのは、キラキラと輝く液体が入った小瓶。 国王は頷いて小瓶を受けとると、ジャックに飲ませた。




重い、粘性のある水の中に沈んでいた。

下は真っ暗で何も見えず、上の方は明るく、綺麗な水面が見えた。


個人的に、下の方に何かある気がするので下に行きたいのだが、さっきから体が浮きはじめてる。

うーん、まだその時じゃないってことかな?


体はグングン上昇し、水面が目前まで迫ったところで目が覚めた。


「・・・あれ?」


「おぉ、起きたか。」


気がついたら、ベットの上にいた。

って、ここおれの部屋じゃん?!


「国王陛下、あの――」


「試験の結果なら気にするでない。あれだけの実力があれば、そう簡単に負けはせんよ。」


「では、ウィルと街へ行くのは、許可していただけるのですか?」


「もちろんだとも。あやつを捕らえるのは、お主達が帰ってきてからにする。」


そっか、良かった。

それにしても、最後のアドルフさんの動き、見えなかったな。 もっと鍛えないといけないな。


「それと、ジャック君。ウィリアムとは別に、魔法と剣術の訓練をせんかの?」


・・・・はい? え? 訓練ですか?

いや、まぁ、教えてもらえるなら、喜んで教えてもらいますけど、良いの?


「なに、遠慮はいらん。わしやアルイトが個人的に教えるのじゃ。他の者達に文句は言わせん。」


「・・・・では、ご指導のほどよろしくお願い致します。」


「うむ。今日はゆっくり休みなさい。」


国王様が退室して、ベットに沈みこむ。

とりあえず、お言葉に甘えて寝ますか。


次話も来週までに書ければ、と思っています。

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