抜けた男と残った女
放課後、いつもなら4人で帰宅しているのだが今日は少し違う。
私の横に優希しかおらず、結城の方は涼が連れ出している筈だった。
この2人は元が同一人物だったせいか一緒にしておくと相性が良すぎてしまう。
だから苦肉の策として一旦2人を引き剥がして色々と話をしてみる事にしたのだ。
「こうやって2人で出かけるの久しぶりだね。
何か嬉しいな」
こちらの思惑など知らない優希はそう言って私に微笑みかけた。
「そう言えば優希が女の子になっちゃった時に服とか買う為に出かけたっけ」
「あの時は下着の事とか全然分からなかったし、女性の身体の事も全く知らなかったから。
お陰で危ない目に遭わずに済んだよ」
「ああ……そう言えば……」
昔読んだ漫画にも性転換して女の子なってしまったという作品があったのだが、その時に女性の身体は男ほど我慢が出来ないという事で漏らしてしまうシーンがあったのを思い出したのだ。
そこで私は優希に口酸っぱく尿意を感じる前にトイレに行きなさいという事を話していた。
そのお陰で彼女は悲劇的な運命を回避できているらしい。
「下着も何処で買えば良いのか分からなかったから本当に助かっちゃった。
可愛いデザインの物って全部高いから大変だったけど満足出来るものに出会えて良かったよ」
「優希のは特別可愛いから私じゃ着こなせないけどね。
アレが似合う優希が羨ましいよ」
可愛らしい下着にテンションが上がって喜んで試着していた優希を思い出す。
あれは本当に似合っていたし可愛かった。
思えばあの頃から男としての結城が無くなっていく兆候が出ていた気がする。
「あ、そうだ!
ちょっと寄りたいところがあるから行っても良い?」
「久しぶりに優希と2人だからね。
何処にでも付き合うよ」
「やったー、ありがとう!」
そう言って喜ぶ姿は何処をどう見ても女の子であった。
元々女性っぽいところがあった結城ではあったが、現在ではその兆候は一切ない。
特に分裂してからは完全な女の子になってしまった気がする。
「何か……本当に女の子になっちゃったんだね」
「うーん……2人になる前はまだ自分の中に男の自分と女の自分がいた気がするんだけどね。
でも、分かれてからは自分の中の男が全部出ていっちゃった気がするんだ」
「じゃあ結城の方は逆に男らしくなってるって事?」
「それはどうなんだろう……家事全般は普通に趣味だったから変わってないと思うけど、性格は少し男らしくなってるかも?」
「元々はもっと男らしくなりたいって言ってたから、ある意味あの本のおかげで願いが叶ったのかもね」
「あはは、最初はとんでもないことに巻き込まれたと思ったけど今じゃ感謝だよ。
こうして亜美とも親友になれた訳だからね」
そう言ってニコリと笑いかける優希を見て私は心の中で呟くのだった。
こいつ、本当に元男とは思えないくらいに可愛いな……と。