初心に帰る
「というわけで2人は別々の部屋になったみたい。
どうなる事かと思ったけどお互いを別の人間だと認識させるって話は上手くいったみたいよ」
「それなら一安心だな。
とりあえず元に戻るって流れは回避出来たか」
夜、自室で亜美は涼と通話していた。
部活動を始めたのは結城達が同じ部屋の同じベッドで暮らしているという話を聞いて危機感を抱いたからであった。
更に本の精霊からこのまま他人という自覚なく過ごしていると元に戻ろうとする性質が強まって、また一人の人間になってしまうという可能性を聞いた為でもあった。
色々なゴタゴタはあったものの、結果的にお互いの差を感じる事で2人は互いを別の人間だと意識し始めた。
亜美と涼の作戦は上手くいっていると考えていいだろう。
「それで今後のことなんだけど……副部長にもなっちゃったし、このまま優希に付き合おうと思う」
「結城の事はいいのか?」
「勿論結城の事は大事だけど……気付いちゃったんだよね」
「何に?」
「私は優希がライバルになりそうな雰囲気を感じた時、少なからず邪魔だって思ってしまった。
でも、最近一緒に活動して気付いた……ううん、思い出したんだよ。
優希は私の大事な人で大切な友達だったんだって。
だから、あの子が頑張って成長していこうとしているなら私は優希を支えてあげたい。
それで恋のライバルになるって言うんだったら、その時は真正面から戦ってあげるだけよ」
そう電話越しに話す亜美の顔は結城達が分裂した後から一番輝いていた。
完全に吹っ切れて清々した顔をしている。
「亜美も本当に強くなったな……でも、俺も同じ気持ちだよ。
結城はいま自分に最も近い人物に差をつけられた事で苦しんで必死にもがいている。
そんな結城に手を差し伸べられるのは親友である俺を置いて他にいないだろ?
だから、俺もあいつと一緒に部活を通して成長していこうと思うんだ。
きっと、あの部長の元でなら色々と学べると思うんだ……俺もあいつも」
「あの部長さんは本当に良い人そうだよね」
「お前の所の元部長はクレイジーな人だったけどな」
「それは否定できない」
「あの人って今何してるか分かるか?」
「あれから会ってないから分かんないよ。
でも、またロクでもない事を考えてそうな気はするから気をつけて」
「ああ、お互いにな。
それじゃ、また学校でな」
「そうね、おやすみなさい」
こうして通話を終えた亜美はそのままベッドに寝転がってスマホをいじり始めた。
そこで観たのは結城が優希になって初めて一緒に撮った写真だった。
「この時は戸惑ったけど、このまま元に戻らないなら同性として支えてあげなきゃ!
って思ってたんだよね……どうしてこの気持ちを忘れていたんだろう」
そう……今は成長しているとはいえ、この時に守ろうと誓った優希と分裂した優希は全く同じ人物なのだ。
それなのに恋に盲目になっていた亜美はそんな当たり前のことすら頭から抜け落ちていたのだ。
「私もまだまだ成長しないとなぁ。
今度はちゃんと守ってあげれるように」
そう呟いて気持ちを新たにしながら明日に備えて眠りにつくのだった。