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負けたくない

「はぁ〜」


部長になって最初の部活動であったが優希は部活内に響く程に深いため息をついていた。


「どうしたのよ。

ひょっとして今更部長になった事を後悔してる?」


流石に放って置けないと亜美が声をかけると沈んだ表情のままで優希は振り向く。


「部長になった事は自分で決めた事だから後悔してないよ。

それよりも……」


そう言って優希は昨晩から今朝にかけておきた出来事を話し始めた。


その内容を聞いた亜美は納得したようにうんうんと頷く。


「なるほどね〜何か今日は2人の間に距離があると思ったんだけど、そう言う事だったんだ」


「私が何か怒らせるような事したのかな?

自分の事なのに全然結城の気持ちが分からなくて……」


「それは違うんじゃないかな?」


「何が違うの?」


ハッキリと否定する亜美の言葉が分からず、ついおうむ返しに聞き返してしまう。


そんな優希に対してしっかりと伝える為に、なるべく穏やかな声色になるよう意識しながら説明し始めた。


「自分の事って部分だよ。

結城と優希は確かに元は1人の人間だったんだけど、今はちゃんとお互いに自我を持った別人でしょ。

自分以外の人間って結局のところは他人なんだよ……何を考えているのか完璧に分かる他人なんてこの世にはいないよ」


「そう……なのかな?

でも、分裂したばっかりの頃は何を考えていたか分かったし、結城も私の事を理解してくれてたよ」


「それはきっと、そこまでは全く同じ体験をしていたからなんじゃないかな?

でも、2人は分裂してからお互いに別々の出来事を経験していったはず。

そうして少しずつ少しずつズレてきたんだと思う」


「ズレ……」


亜美は何とか伝わるようにと一生懸命に頭を働かせて優希に説明をしていた。


それが分かるからか、優希は亜美の言う事を聞き逃さずに理解しようと耳を傾ける。


「成長の差と言ってもいいかもしれないけど……優希は正直な話、この部活を始めてものすごく成長したと思うんだ。

だって前までの優希なら部長をやろうなんて思わなかったでしょ?」


「そう、だね。

絶対に無理だって断ってたと思う」


「そんな風に成長した優希を見て悔しかったんじゃないかな?」


「悔しい?私が成長したのが?」


「身近にいる一番近い女性に負けてたら悔しく感じると思うよ。

結城だって男の子なんだから」


「私も前は男の子だったから負けたくないって気持ちは分かる気がする。

そっか……私に負けたくなかったんだ」


亜美の話で結城に対する様々な疑問が晴れていく……負けたくない。


結城が何を考えているか今も分からないけれど負けたくないって気持ちだけは分かる気がした。


その話を聞いた時に自分も結城に負けたくないって思ったから。


「よし、亜美ちゃん。

早速取材のアポイントを取ろう!」


「お、復活した?」


「したよ〜ありがとう!

私も負けてられないから」


自分と結城は分かれた時に別の人間……他人になっていた。


そんな当たり前の事をようやく認識した優希であった。


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