技術にはお金を払おう
「やあやあ、約束のお金が用意出来たというので来てみたけれども詳しく教えてもらえるかな?」
扉を開けて入ってきたのは動画配信部の部長……である筈の画堂であった。
「部長……お久しぶりです」
「本当に……何処で何をやっていたんですか!?」
優希が皮肉混じりに、そして亜美はやや激昂しながら画堂と相対する。
実の所、前回アナ研に宣戦布告と言える行動を取ってから彼女は動画配信部に顔を出していなかった。
今後のスケジュールとして一週間、文化部の取材が入っているのみであり、それ以降はFree(自由行動)と書かれた予定表を残しているだけだったのだ。
その為に文化部の取材は優希と亜美が上に立って撮影班と編集班を動かしていたのである。
「君達なら私抜きでも物事が進められると見込んでいたのだよ。
現に君達の動画のクオリティは何一つ落ちていない。
それどころかこのアナログゲーム研究部のCMは過去最高の配信数を稼ぎ出したのだろう?
そのお陰で今までの動画も全て再生数が伸びているそうじゃないか」
「ええ、貴女自慢の優秀な部員のお陰でどうにか私達の活動でお金を稼ぐことが出来ました。
これは収支報告書と約束の10万円です」
そう言って須頃部長は一枚の紙とお金の入った封筒を差し出した。
画堂は封筒はそのままに収支報告の書かれた紙を読む。
「ふむふむ……たしかに間違いなく。
支出まで計算して純利益で10万円以上達成とは恐れ入るね。
しかし……」
そう言って収支報告書を机の上に置くと画堂は意地悪そうに笑う。
「そうであるならばこの10万円を私が受け取るわけにはいかないな」
「何だと!?
約束を破るつもりか」
「そんなの勝手すぎますよ!」
画堂の話に抗議の声を上げる涼と結城。
だが、彼女は涼しい顔で
「勘違いしないでくれたまえ」
と言って封筒に手をかけた。
「私がお金を受け取る条件は正式な部活として認めない代わりに部室のレンタル代を頂くというものだ。
そして部活の活動で10万円を稼いだなら正式な部活として認める……そういう内容だった筈だね?」
「では、私達の部活は認めてもらえるということですか?」
「勿論だよ。
そして正式な部活である以上、部室のレンタル代を徴収する謂れは無い。
なので、このお金の半分は君達の物だ」
画堂はそう言って封筒から5万円を取り出して優希に手渡す。
「は?え?」
「動画配信部は今回の件でかなりの労力を担ったのだろう?
それならば技術提供の代金としてこの位は貰うべきだと思うがどうかね、須頃部長?」
「それは……その通りですね。
確かにこれだけの事をして頂いていたのに気付かず申し訳ありません。
どうか受け取ってください」
そう言って須頃は優希に向かって頭を下げる。
「え?だから、何で私に渡そうとするんですか?
そして、何で私に頭を下げるんですか?」
「それは君が動画配信部の新しい部長だからだよ」
画堂は心底愉快でたまらないと言わんばかりの笑顔でそう告げる。
「部長?私が……え?」
優希はその言葉の意味が分からずにフリーズしてしまうのであった。