怒らせると怖いタイプ
「私の話は置いておいて折角ですから遊んでいきませんか?
それで楽しんで頂ければ入部していただいても構いませんし、入部しなくても不定期に遊びに来てくださるだけでも構いませんよ」
「は?それは幾らなんでも道理が通らないんじゃ無いか。
……ここにあるゲームを遊ぶからには入部しないといけないのでは?」
「あ、すいません。
涼ってこう見えて曲がった事が嫌いなので、悪気があってこういう事言ってるんじゃないですよ」
須頃部長のいい加減さについ語気が荒くなってしまったが慌てて立て直す。
結城のフォローもありがたがった。
「いえいえ、構いませんよ。
私の目的はアナログゲームの認知ですので、遊ぶためのハードルは低く設定しているんですよ」
「それじゃ部員は何をするんですか?
ここにあるゲームを遊ぶだけならやる事は変わらないですよね」
「部員の方々には新しいゲームを生み出す手助けをしてもらっています」
「新しいゲームを作る……それは難易度が高いんじゃないですかね」
俺が率直に疑問を口にすると須頃部長は棚から幾つか本とファイルを取り出した。
「ゲームを作ると言っても一から作るわけではないのですよ。
例えばこの本はTRPGのルールブックで基本的な遊び方とサンプルシナリオが書いてあります。
このサンプルを参考にしてオリジナルのストーリーを作ってみるのもゲームを作るという事になりますね」
「へぇ〜これがサンプルシナリオで……こっちのファイルが部員さん達の考えたオリジナルシナリオなんですね」
「これだけでも普通に読み物として楽しめそうだな」
俺も横から読んでみたのだが、普通に物語が紡がれている小説としても楽しめそうなものばかりである。
「歴代の部員の先輩方が残していった物もあるのでそれはほんの一部ですよ。
我々が作った物は卒業しても引き継がれてここに訪れた誰かが遊んでくれる。
これは素晴らしい事だと思いませんか?」
「思います!
凄く素敵です」
須頃部長の言葉に結城が興奮して頷いた。
「確かにこれがこの部活の積み重ねてきた時間って考えると唯の遊び道具とは言えないな。
じっくり読んでみたいし、読んだら自分でも書きたくなるかもしれない」
「それならば偶にで良いので遊びに来てください。
その時の時間潰しに幾ら読んでくれても構いませんよ」
「いや、ダメだな」
須頃部長の言葉に俺はハッキリと否の言葉を口にする。
「そ、そうですか。
そこまでハッキリ断られては……」
「部長、勘違いしないでくれよ。
俺がダメだって言ったのは最初に言った通りの意味だ。
この部活が積み重ねてきた宝物を遊びに来た程度の人間に見せちゃいけねぇよ。
だから、俺たちはこのアナ研に入る事にするよ。
結城も同じ気持ちだろ?」
「うん、さすが涼だね。
僕が思ってた事全部言ってくれたよ。
全く同じ気持ちだったんだね」
「あったりまえだろ!
お前も絶対にそう考えてると思ったぜ」
そう言って俺たちは右手を上げてハイタッチをした。
須頃部長はその様子を眩しそうに見ながら
「君達のような素晴らしい部員に出会えて私は幸せ者ですよ。
これからよろしくお願いしますね」
「ああ、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします……と、こ、ろ、で!
涼、さっきから部長にタメ口になってて良くないよ」
さっきまで笑顔だった結城だが、今度は責めるような顔つきで俺のことを睨んでくる。
「あ、いや、つい勢いで……」
「あの、双葉さん。
私は別に構いませんので……」
「いーえ、良くはありません!
正式に入部する前にしっかりお説教しておきますから」
普段はおっとりとしている結城だが、こういう所は昔かは厳しい。
こうして正式に入部届を出す前にこってりと結城に絞られるのであった。
須頃部長はそんな俺たちを少し困ったような、それでいて楽しそうな表情で眺めているのであった。