理想の相手は男で女
おかしい……俺たちはダブルデートに来ていた筈だ。
組み合わせは勿論、俺と優希に結城と亜美。
其々のペアでこの遊園地デートを楽しく過ごす筈だった。
だが現実はどうだ?
「あ……今ならこのアトラクションが空いてるよ」
「その後はこっちに行くのが良さそうだね」
目の前ではスマホを操作しながら楽しげにプランを語り合う結城と優希の姿があった。
俺たちが遊びに来たのは超人気テーマパーク。
実は俺も亜美も来た事が無かったのだが、結城はこのテーマパークのファンだったらしく、年間パスポートを持って一人で来るほどだったそうだ。
ここのアトラクションはいつも混んでいるのだが、結城達は常連らしく効率的に回る方法を相談しながら先に進んでいく。
全く来た事のない俺たちは結城達に案内されてついていくだけなのだが、そうなると当然ながら結城達の後ろを俺と亜美が並んで行く事になる。
「なぁ……俺の思っていたダブルデートと違う気がするんだが」
「仕方ないじゃない。
あの2人のテンションと話題に全くついていけないんだから」
「何でこんな事になってしまったんだか……」
俺たちはお互いの好きな人物とそのライバルの楽しげな様子を背後から見ることしか出来なかった。
♢ ♢ ♢
俺の行動のせいで結城が女の子、優希へと変わってしまった。
内心の動揺を抑えながらも何とか平静を装い、
「お前が女になったとしても俺たちの友情は変わらないからな!」
と声をかけて励ます。
すると優希は少し照れて俯きながら
「えへへ……ありがとう。
そんな風に言ってくれる涼の事、大好きだよ」
と上目遣いに言ってきた。
うん……正直に言おう。
お前を男として見続けるのは無理だ。
そもそも結城は俺の中での理想の女性像であった。
小柄で可愛らしく、少女趣味で料理やお菓子を作れるという正に男子が憧れる理想の女の子。
だが、性別が男だった為に俺はこの淡い恋心を封印して今まで過ごしてきたのだ。
自慢じゃないが俺はかなりモテる方だった。
告白された事も一度や二度では無い。
しかし、そんな女性たちと付き合う気にならなかったのはどうしても結城と比べてしまったからだ。
最早このまま誰とも添い遂げずに一生を終えるかと覚悟を決めた時に一冊の本を拾った。
その本は身体的な悩みを叶えてくれるという代物だった。
そんな胡散臭い本を信じた訳では無いが、これを結城に持っていく事にした。
結城がこれを使って身長を伸ばして、並ぶくらいに大きくなってくれれば少なくとも小さくて可愛いなんて思う事もないだろう。
そう言った思惑から本を結城に渡したのだが……結果から言うと本は本物であった。
しかし、本に願った結城の姿は俺が理想とする姿の女性へと変貌を遂げてしまったのだった。