やる気スイッチを押す最強タッグ
「お前ら、一旦練習はストップだ。
今日は取材の申し込みが来ている」
二重さんがそう言ってパンパンと手を叩きながら練習を止める。
部員達はダルそうに動きを止めて集まってきた。
「あの……何だからやる気がないように見えるんですが……」
私が思ったことを部長に質問する。
「ああ、我が校のバスケ部は弱小で有名でな。
やる気も無くておざなりな練習だともっぱらの評判だ。
一応、人気のあるスポーツなので最低限の人数は確保しているのだが、いつ廃部になってもおかしくはないな」
「ええ!?
廃部なんて可哀想ですよ」
部長の答えに優希が真っ先に反応する。
「そう思うのなら今日の取材を頑張ってあげてほしい。
君達が盛り上げて彼らのやる気を少しでも引き上げて欲しいものだ」
「それとこれとは話が……」
「私、やります!」
幾らなんでも体験入部の私達にそんな重い話を持ち込まないで欲しいと思ったのだが、意外にも優希がやる気になってしまったようだ。
「やるって……大丈夫なの?」
「私1人じゃ無理かもしれないけど、亜実ちゃんと一緒なら出来る気がするの……だめ?」
上目遣いで私を見上げてお願いしてくる優希。
「もちろんオーケーよ。
頑張りましょう」
元は男とは思えない可憐さに頭がクラクラしてつい承諾してしまった。
「ふふふ、話はついたようだね。
それでは私は二重部長から話を聞いているから君達は他の部員に自由に取材してくれたまえ。
大丈夫、彼らの練習風景を見て気になったことを質問してくれればいいだけだ」
「分かりました」
「頑張ります!」
こうして私と優希は2人で部員達の取材をすることになった。
「ここでは何の練習をしているんですか?」
「え、ああ……ここはシュートの練習をしている所だよ。
ほら、こういう風に」
そう言ってゴールにシュートを放ったのだが、そのボールはリングに弾かれてあらぬ方向に飛んでいった。
「あはは、中々難しいんだけどね」
「ここからシュートしてゴールに届くだけでも凄いですよ!
私なんて全然……えい!」
そう言って優希が投げたボールはヒョロヒョロとした軌道で高さも距離も届いていない。
そう言えば結城の頃からスポーツは苦手だったな。
「あうう……全然届きません」
「女の子ならそれくらいが可愛らしくていいよ」
「あの……私もやっていいですか?」
「ああ、全然構わないよ」
「では……それ!」
私が投げた球は一直線にゴールへと向かい、そのまま直接リングの中に吸い込まれていった。
「亜実ちゃん、凄い!」
「力強くもブレずに綺麗なフォーム……君は一体……」
「シュートを撃つ時はもっと身体の力を抜いた方がいいですよ。
それで球を押し出すように……」
私は彼の身体を掴んで矯正しながらアドバイスを送る。
部員さんは何故か赤くなりながらもアドバイス通りにシュートすると、球はゴール板にワンバウンドしつつリングの中へと吸い込まれていった。
「わぁ、凄い凄い!
最高に格好良いです!!」
「え、そ、そうかな?」
「おい、お前だけ狡いぞ!
今度は自分にもお願いします!!」
優希が褒めちぎってデレデレしている部員を押しのけて別の部員がやってくる。
「次は俺も!」
「その次は自分で!!」
更に声は後ろから聞こえて振り返るとそこにはバスケ部員による列が出来ていた。
こうして何故か私がバスケ部員に指導して優希が褒めちぎるというローテーションで、バスケ部員の相手をすることになってしまう。
私達が教え終えた部員達は人が変わったように練習へと打ち込んでいくのであった。
単純かもしれませんが、やる気は絶対に上がるでしょうね。