他人と思えず一つになりたい
私達は屋上へ着くなりノートに向かって質問をする。
「早速聞きたいんだけど、結城達を分裂させた時に何か余計な事したんじゃないの?」
『特に何も思い当たりませんね。
何かおかしな所でもあるのですか?』
ノートを開くとしっかりと答えが書き込まれているのを確認して今度は涼が質問をする。
「どう説明したらいいのかね……距離感。
そう、2人の距離感がおかしいんだよ。
年頃の男女が同じ部屋で暮らして同じベッドで寝てるなんて普通じゃないだろ?」
『ふむ……幾つか理由が考えられますが、1番の理由はお互いを他人として意識していないのでは無いですか?』
「それってどう言う事なの?」
『双子で説明すると分かりやすいと思いますが、産まれた時は同じで似ている人生を歩んでも僅かな違いは出ます。
その違いを知りながら生きていく事で相手は自分とは違う人間だと認識していく訳です』
「言っている意味は分かるけど……結城達はそうじゃないって言うの?」
意外にも人間をよく理解しているような返答が書かれていて内心は驚きつつも、それどころではないので平静を装って質問を重ねる。
『2人は15年も同じ人間として生きてきたのです。
それを分裂したからと言っていきなり貴方達は別の人間だと言われても実感が湧かないのでは?』
「確かに……でも、その理屈ならお互いが別の人間だと認識するのに同じくらいの時間が必要ってことか?」
『そこは周りのケア次第かと。
2人をなるべく離したり別々の趣味や交友関係を作らせる事で自然とそういった意識が生まれるのではありませんか?」
「……あんたって意外とマトモなアドバイスが出来るのね」
最初に結城をTSさせたり、分裂させたりで良いイメージを持っていなかったノートであるが、想像を裏切るほどに的確なアドバイスを送ってくれて少し面食らってしまった。
しかし、そんな私達を尻目にノートが最後にとてつもない爆弾を置いていこうとした。
『恐れ入ります。
あと、一つ注意していただきたいことがあるのですが』
「何だ?」
『結城様と優希様の異常な仲の良さの原因の一つに1人の人間に戻りたいと言う気持ちの現れもあるのだと思います』
「自分で望んだのにそんなこと……」
『ある訳ない……とは言えないでしょうな。
今はまだ問題ないでしょうが、このままお互いを別の人間として意識できなければその気持ちが強くなっていくかもしれません。
そうなると自分が2人いると言うことに違和感を感じてくるでしょう』
「おい……それって、まさか?」
『ええ。
その違和感が限界を超えてしまうと1人の人間に戻ってしまうかもしれません。
そうならない為にもお二人が優希様達をしっかりとサポートしてあげてください」
「言われなくてもやってやるさ」
「これは私達ウジウジしてる暇は無さそうね。
2人を頑張って引き離しましょう!」
『もし何かあればいつでもご相談ください。
私も初めての友達を失う可能性は減らしたいですから』
こうして協力関係になった私たちは結城達の元へと戻っていったのだった。