見落としていたもの
「あれ?今日は1人なの?」
私が双葉家に行くと出てきたのは優希だけであった。
「うん、何か風邪引いたっぽい」
「え、大丈夫なの?」
「そんなに高熱が出てる訳じゃないから平気じゃないかな?
念のために私はお母さんの部屋に移ってるんだけどね」
「へぇ〜そうなんだ。
学校終わったらお見舞いに……」
「亜美がお見舞いに来てくれたら凄く喜ぶと思うよ」
笑顔でそう答える優希であったが、私はそれどころではなかった。
結城が熱を出したから優希が母親の部屋に移っている。
それはつまり平常時には同じ部屋で寝泊まりしているということ!
分裂した後はドタバタしていて双葉家に遊びに行っていなかったのだが、考えてみればあの家には結城の部屋しかない。
女性化した後も優希の部屋は同じ場所だったはずだ……つまり、皆んなの記憶のように都合よく部屋が二つ出来ているといった事は起きていないという事だ。
何故今まで気づかなかったのか……幾ら自分自身とは言えうら若き男女が同じ部屋で寝泊まりしているなどあって良いのか?
「あれ、今日は結城いないじゃん」
「風邪でお休みなんだよ」
「そっか、それなら仕方ないな」
と言いながらさりげなく優希の隣の位置を確保しようとする涼の胸ぐらを掴んでこちらに寄せる。
「お、おい。
何だよ、急に!?」
「大事な話があるから後で屋上まで来なさい」
「は?一体どうし……」
「分かったら返事!!」
「グェ……わ、分かったよ」
私が掴んでいる手に更に力を入れると涼も只事では無いと思ったらしい。
少し酸素が行き渡らずに青くした顔で頷いた。
「うわ〜亜美、つよ〜い」
そんな私達を呑気な顔で優希は見ているのだが、その上目遣いがまた可愛い。
少し不機嫌になった筈の涼はたちまち機嫌を直すと優希との会話を楽しみ始めた。
教室に着くとそのまま優希の元に居座ろうとする涼に指示を出して強引に屋上へと呼び出す。
「おいおい、折角優希が1人なんだからこの時間を楽しませてくれよ」
「それどころじゃ無いのよ!
涼は分裂した後に双葉家に遊びに行った?」
「いや、バタバタしてたから無いけど」
「じゃあ、結城の部屋ってどうなってると思う?」
「どうって最初は結城の部屋で、そこが優希の部屋に変わって……おい、まさか!?」
ようやく事態が飲み込めた涼の顔が青褪める。
「どうもそのまさからしいわよ。
今、あの一つの部屋を2人で使っているらしいわ」
「嘘だろ……寝る時なんかどうしてるんだよ」
「それを今から調べるのよ。
学校が終わったらお見舞いに行くからその時に結構よ。
ついでに出来るなら叔母さまに年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりしているのはおかしいって話すの」
「ああ、特に異論は無しだ。
くそ、完全に盲点だったぜ」
「悔やむのは後よ。
どうにかしてあの家の部屋を一つ確保して2人を別々の部屋に引き剥がさないと」
「了解だ!
やってやろうぜ」
そうして私達は固い握手を交わしたのだが、教室に戻ってきたら優希が楽しそうに
「最近2人は仲良しさんだね」
と言われて盛大にずっこけそうになったのだった。
「涼と亜美のカップリングってどう思う?」
「いや〜無いな」
「何でよ?」
「何か……両方から敗北者の匂いがする」