切っ掛けは一冊の本だった
新作です。
長くはならないと思うのでよろしくお願いします。
「うおおおおおおお!!」
「イエーーーーーーイ!!」
私は目の前のジェットコースターを絶叫しながら両手を上げて楽しそうにしている男女の姿を見る。
「はああああああ」
そして大きなため息をひとつ。
「おい、こっちまで気分が滅入るため息を吐くなよ」
「ため息の一つぐらい出させなさいよ。
全く、何でこんな事になっちゃったんだが。
あいつが……結城が男に戻って喜んでたのに」
「それは俺が言いたいセリフだよ。
優希が女の生を選んでくれたのは嬉しいんだけどよ」
そう言った私達はジェットコースターから降りてきた男女……
「何で2人に分裂してるのよ!」
「何で2人に分裂してるんだ!」
♢ ♢ ♢
元々のきっかけは半年前の出来事であった。
私……
そしてジェットコースターに乗っていた男女の男、
男女3人の幼馴染と言えば漫画なら三角関係になりそうなものだったが、私と結城はお互いに好意を持っていたのだが、涼は私に恋愛感情を一切持っていないという極めて健全な関係であった。
……いや、正確に話せば涼は昔から結城が女の子だったら惚れていると度々口にしていた。
しかし、私達はそれは涼なりの場を和ませるためのジョークだと受け取っていたので極めて健全な関係であった筈なのだ……あの事件が起きるまでは。
半年前のあの日、涼が一冊の本を持ってきた。
「変な本拾ったんだけどさ……身体的な悩みを解決してくれるらしいぜ、これ」
「そんな怪しい本信じてる訳じゃないでしょ?
サッサと捨ててきなさいよ」
「いや〜俺は身体的な悩みなんて何も無いからお前らに譲ってやろうと思ってよ。
特に結城なんて昔から悩んでる事あるだろ?」
「え……ああ、そうだね」
涼は言葉通りに高身長でスタイル抜群のイケメンである。
偶に雑誌のモデルもやっているくらいで学校の女子からいつもキャーキャーと騒がれている。
一方で結城は……顔は整っているのだが童顔で非常に可愛らしい。
また、身長も165センチある私よりも少し低い。
私としてはそこが可愛いのだが結城自身はそれを嫌がっている素振りを何度か見た事がある。
「まぁ、本物な訳がないけど願掛けみたいなもんだろ。
一回願っといて叶ったら本のお陰って事にしとこうぜ」
涼に言われた結城は助けを求めるように私の方を見た。
「試しにやるくらいならいいんじゃないの?
結城のコンプレックスは分かってるし、ダメ元で叶ったらラッキーじゃない」
「そっか……うん、そうだね」
結城は目を閉じて深呼吸する。
そして、意を決して目を開くと
「望む姿に変えてください!」
「分かりました。
この本の所有者である能登涼が望む姿に変えましょう」
『え?』
何処からともなく聞こえてきた声に私達の声が重なった。
そして結城の身体が光に包まれ……光が収まった時、そこには結城にそっくりな小柄で可愛らしい女の子がいたのだった。