998:6thナイトメア・エンド-5
「ドヤァ……」
元の空間に戻ってきた私は、他のプレイヤーたちが戦っている画面と、それを観戦するプレイヤーたちの前で胸を張りながら笑みを浮かべる。
速い話がドヤ顔である。
「お疲れ様ですタル様」
「納得のドヤ顔である」
「まあ、アレだけの戦いを見せられたらなぁ……」
「と言うか、こっちに戻ってくるだけで変身は解けるし、ゴーレムも消えるのか」
さて、他のプレイヤーは……まだ攻略途中であるらしい。
と言っても、殆どのプレイヤーはブラクロ・エウルトに挑んではあっという間に切り刻まれると言う光景の繰り返しだが。
一番まともに戦えていそうなのは……ソロで挑まされているスクナか。
「あ、こっちが本来の攻略方法なのね」
『みたいでチュねぇ』
「そうですね。検証班もスクナ様の方法を主体に進めようとしている所です。実際に出来るかは別ですが」
スクナとブラクロ・エウルトの戦いは……なんというか、綿密な打ち合わせが行われた殺陣あるいは演舞を見ているような感じだった。
お互いがお互いに何処へ打ち込んでくるかをよく理解していて、一瞬の気の緩みも許されないような光景が何分も続いている。
そして、その光景を見て、私はブラクロ・エウルトの弱点と言うか、本来の攻略方法を理解した。
と言うか、よくよく考えれば、『
「おっ、勝ったわね。二番乗り?」
「はい、スクナ様が二番乗りです。ちなみに通算七回目のチャレンジでした」
と、ここでスクナが全身傷だらけのブラクロ・エウルトの首を刎ね、勝利した。
ストラスさんの言葉通りであるなら、討伐のタイム自体は私よりも早そうである。
「ふぅ、流石に疲れた」
「お疲れ、スクナ」
「そちらこそお疲れだ、タル。ブレのないAIであると気づいたのは良かったが、流石に時間がかかったな」
「討伐タイムそのものは私より早いからいいんじゃないかしら」
「それもそうか。では、これでな」
「ええ、私もあっちの観覧席に戻るわ」
「あ、タル様。イベント終了後に可能ならばインタビューを受けて貰えると嬉しいです」
「考えておくわ」
ブラクロ・エウルトの討伐を終えたスクナは私と少し会話した後、何処かへと向かっていく。
恐らくはクカタチたちへのアドバイスを始めるつもりなのだろう。
私も私で、聖女ハルワたちが居る方の観覧席へと移動する。
『で、結局偽ぶらくろの弱点は、うっかりをしない事、これでいいんでチュか?』
「ええ、それで正解よ。恐らくだけど、ブラクロ・エウルトは全くの同一条件下であれば、同一の行動を取るように設計されている。その事に気づけば、後は選択肢が異常に多く、一人一人で詰みまでの道筋が異なるだけの詰将棋。だからスクナが二番乗りになったんでしょうね」
「それを何処かのアンノウンは更なるハイスペックと絡め手によって、ごり押した。と」
「ふふフ。それはそれで答えとしては正しいと思いますけどネ」
「ふっ、勝てば官軍。そう言う事よ」
ブラクロ・エウルトに搭載されているAIは非常に高性能なのだろう。
けれど高性能であるが故に最適手が固定されてしまっているのだろう。
だから、スクナほどの実力者であれば、自分の行動を制御する事によって、相手の行動まで制御でき、それを利用して倒せてしまえるのだろう。
これが本物のブラクロであれば……うっかりと思考のブレが合わさった結果として、より厄介なことになっていたかもしれない。
「さて、後はイベント終了を待つだけね」
「ええそうなるわ。今回の悪夢はこれで終わりよ」
「さて、いったい何人が楼主様とスクナ様のお二人に並べるでしょうネ?」
ちなみに後でスクナとブラクロ・エウルトの戦いの動画をコマ送りで確認したところ、ブラクロ・エウルトは巧みにフェイントを織り交ぜていたが……まあ、来ると分かっているフェイントに価値などない、少なくともスクナにとってはそう言う事らしい。
うん、私が言うのもなんだが、やはりスクナの攻略も攻略で私とは違う方向で一般解法ではない気がしてきた。
「あ、折角だから今の内に確認をしておきましょうか」
一応先程獲得した称号について確認しておくとしよう。
△△△△△
『6thナイトメア完全制覇』
効果:効果なし
条件:第六回公式イベント『再演される呪われた悪夢の宴』の全ボス撃破。
完全制覇おめでとうございます!
▽▽▽▽▽
「ふふふ、気分がいいわね」
なお、私は私がモチーフになる都合上、タル・エウルトの撃破は免除されている。
そう考えるとブラクロもブラクロ・エウルトの撃破が免除されていて、実は既に持っているような事がありそうだが……いや、ザリアたちと組んでいるから、持っていないのか?
微妙なところである。
「そう、アンノウンに楽しんでもらえているなら、私としては何よりね」
「ふふフ、楼主様が楽しそうで何よりでス」
「あら、そう見えたかしら。でもまあ、実際楽しんでいるわね」
では確認も終わったところで、私は同時に出せるだけの画面を出す。
そこで繰り広げられているのは、様々なプレイヤーたちとボスたちとの戦い。
勝って負けてとあるが、それ以上に目を惹くのが、私のこれまでとは異なる筋道を以って鍛え上げて来たプレイヤーそれぞれの立ち回り、呪術、装備、アイテム類。
私が見たことがあるものでも使い方次第では全く未知の光景を築き上げ、見たことがないものは単純に未知である。
「ふふふふふっ。ええ、本当に楽しんでいるし、嬉しいわ。だって、この世界にはまだまだ未知があるんだと、こうして知る事が出来たのだから」
そうして私は溢れんばかりの未知を堪能し続け……やがてイベントは終わりを迎えたのだった。